35話 ヤケになるのも時には大事
その夜、俺の為にとホームのリビングに民間療法のようなものが所狭しと並べられた。
「先ずはお灸からだ。・・・ん、ヨモギのようないい香りだ。・・・怖いね。けど、うん。よし、やってくれ」
手の甲に盛られたお灸に火がつけられる。正直、火のついたものを体にのせ続けるのにかなり抵抗がある。だってのふつうに考えて熱いでしょうに!
「あ、じわじわ・・・え?ちょっとだいぶ熱いんですけどコレ大丈夫なやつなんですか?・・・アチチって!熱いって!!ほら!やっぱり熱いじゃんか!」
熱さに耐えかねて火種を払いのけ、水瓶に手を突っ込む。真っ赤になったお灸の跡がジンジンとして痛い。火種を拾って消火するソントンさんも集まってくれた皆も、下を向いて小刻みに震えている・・・。笑い、我慢してませんか?
「次いってみよ~!・・・ネギ?」
「ああ。ネギだよぅ。これの表皮を軽く炙って・・・パクっ。美味いねぇ♡」
「エンフェイさん?つまみを作りに?」
「イヤだね、冗談だよぅ。これを喉に巻いて・・・」
「はい!私!ケンチ上を向け!・・・ジバチのハチミツだぞ~!美味いんだから( ´艸`)」
「おいだばコレだすね。烏瓜の中身納豆のように混ぜで塗る!」
おのおのがおばあちゃんの知恵袋的療法を俺に施してくれているけど・・・風邪の時のとか混じっている気がする。
「すごい!芸術性をかんじるよねヾ(・ω・`)」
出来上がった俺は色んな物を纏い確かにオブジェのようだった。
「ちょっ・・」
喋ろうとした途端、喉からネギが剥がれ落ち爆笑の渦・・・真面目に俺の事を思ってやってくれてるから怒るに怒れない。
「ぷくくくっ・・・いや、失礼仕った!どうで御座ろうか?戻る気配は御座いますか?」
「・・・なんかね、指の腹が肉球みたいに・・・毛も濃くなってきたよ??コレ、駄目っぽいかも」
むしろ獣化が進んだ気がする。俺のピアニストばりの指はずんぐりむっくり毛むくじゃらと化したが、何故かちょっと他人事のように思える。自分の手なのに熊の手グローブでもはめているのかと思える位だ。
「もういっそのこと、一度全身熊になっちゃったら?部分変異だから戻らないんじゃない(๑・౩・๑)」
ミーシャがサラッと恐ろしい事を言う。
「いやいやいや!戻れなかったらどーすんの!一生熊のママよ!?・・・オマケにすっげ~気になることがあるんだ。エンフェイさん、猿化してる時ギフトって使えてます?」
「ん~?そうだねぇ・・・言われてみれば出来た事はないねぇ」
「・・・召喚!!」
おもむろに召喚の構えをしてみせたが、魚はやはり出て来なかった。
「熊掌化したらギフトの気配が消えちゃったんですよ。って事はもう釣り堀の魚を増やせないしミーシャの『お腹空いた』にも応えられない・・・。これ、大問題。俺の生活基盤、ってか存在理由にも関わる問題に・・・」
「いる意味ねッスね」
イタチの中の一匹の心ない言葉に皆呆気にとられ黙り込んでしまった。俺はその場に居ることが耐えられずホームの外へ逃げるように飛び出した。
「ケンチ!!」
背後からミーシャの声が聞こえたけど、構わずがむしゃらに走った。
気がつけばあの、ミーシャと初めてキスしようとした泉のほとりにぼぅっと立ちすくんでいた。
「ケンチ!!」
再びミーシャの声。
「ケンチ?大丈夫だって!何とかなるって!安心して?お魚なんて自分で捕まえるし、釣り堀だって皆で工夫すればいいし、最悪他で何とかすればそれでいいじゃん!!」
「無理だって!不安しかない!!俺なんて所詮只の釣りバカで魚召喚出来るから皆が集まって俺の存在なんてそんなもんで俺なんていらないんだ」
「ケンチ!!」
頬を引っ叩かれた。
「ケンチ!私は誰?」
「・・・ミーシャ」
「コレは何!?」
「・・・ペンダント」
「なんでくれたの??」
「君が・・・好きだから」
「一生居てくれってゆったの誰(▼皿▼)」
「・・・俺」
「だったらあなたの居場所は私の隣!他になんかある!?(`ω´*)」
「ないです・・・ゴメン、ちょっと自暴自棄になってた」
俺はホント馬鹿だ。あの旅で何を学んだ?色々と乗り越えただろ?お前はもう『亀井 健一』じゃない!!『ケンチ』だろ!!
・・・そうだ!俺はケンチだ!
「ありがとう・・・もう大丈夫」
そう言いながらミーシャのホッペにキスをする。
・・・そう、大丈夫だ。何とかすれば何とかなるって!
「ウルウル~振られちゃいましたぁ~。グスン」
物陰からそっと二人を見守るライオンとコロン。心配で付いてきて声をかけようとしたが、それは野暮と諦めた。
「まあまあ。ありゃ~、お似合いっすから仕方ねッスよ・・・でも、分かっちゃいましたが目の当たりにすると凹むッスね・・・姐さん、お幸せに」
「アリャリャ~。ライオンさんもハートブレイクですかぁ~?」
「へっ・・・俺あ、孤高の一匹オオカミよ!」
「ライオンさんなのにオオカミさんなんですか?・・・泣いてますよぉ~?」
「ウッサい!食べちゃうッスよ?」
「きゃ~♡恐いですぅ~。怖いから帰りますぅ~。さ、帰りましょ♪」
「うっうっ、姐さん・・・」とか言いながらコロンに引っ張られて帰っていくライオン。
「んで、これからどーすんの(。・ω・。)」
「それな。根本的解決の手立てが何も無いんだよね・・・。釣りの仕掛けはストックがあるから問題ないけど、釣り堀の魚をどうするか・・・。生け簀の中の魚だけじゃ限界が直ぐに来ちゃう」
俺達が海へ向かう前に放流した魚がどれ位残っているのかは帰って来たばかりだから分からない。ゼロだったらお手上げだ。
「ケンチさ、左手じゃ召喚出来ないの?」
「うん。左手は出来ないみたいなんだ」
左こぶしをぐっと握った時、さっきのミーシャの言葉が頭をチラッとよぎった。
「・・・イチかバチか、全部獣化してみよう!もうそれしか思いつかない!!」
「え(;・д・)イヤイヤ、さっきのは軽いジョーダンで・・・(-ω-;)」
「戻れなかったら、ゴメン!!」
「あー、うん。私は構わないよ?熊でもヒトでもケンチはケンチだし。でもそれってやろうと思って出来るものなの(・_・;)」
あてはあるのだ。
「多分ストレスを感じると獣化が進行するんだと思う。縄張り越えの頃からじわじわきてたし、なによりさっきの治療で笑われた後、急激に熊掌化したからね・・・無意識にこの世界に馴染もうとしてるんじゃないかな!獣化しちゃえばこっちのもんだ。みんな変身出来るんだから俺にも出来る!」
「出た!ケンチのポジティブ思考!今までそれで何とかなってたから今度もきっと上手くいくよ(≧◇≦)」
「はっは~!!だろ!?じゃ、みんなのとこに戻っ・・・」
「どしたの(;・д・)」
「飛び出して来ちゃったのが急に恥ずかしくなっちゃって・・・」
「何を今さら!ケンチのいつも通りじゃん!ほら、帰るよ~( ̄△ ̄)」
ミーシャに引っ張られながら帰路につく。ま、確かにいつも通りか。




