表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見るかれらに贈る石  作者: 虎依カケル
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/33

第7話 水の力

「どういうことでしょうか?」


 シャルロットは戸惑いながら、ジョナタンに問いかけた。


「言葉の通りだ。君には彼らを救う力があるかもしれない。ならば、その力を使ってみないか?」

「ジョナタン、シャルロットは……」


 セドリックはジョナタンの肩を掴んだ。ジョナタンはそれを振り払う。


「何を躊躇っている暇があるのです。大切な領民が苦しんでいる。これ以上の理由がありますか?」


 ジョナタンの言っていることに言い返せないのか、セドリックは黙り込む。しばらく考え込んだあと、こちらの方を見た。


「……シャルロット、君の力を貸してほしい」


 父親まで自分の力を借りたいという。だが、その力に心当たりがなく、戸惑うことしかできない。


「ですが、私に何の力が……」

「……水の力だ。もしかしたら、君に使えるかもしれない」


 水の力……?


 自分の手のひらを見る。自分は地属性のはずだ。本当に水の力が使えるのだろうか。できるかわからない。……でも、夢のような悲しい結果にしたくない。


「私に誰かを救う力があるなら、助けたい」


 手を握りしめると、サシャが隣に並んでいた。


「シャルロット様、お勉強です。その手に力を集めるよう意識してみてください」


 サシャの言葉にリュシアンもうなずく。


「炎なら熱いものだが、水ならば冷たいものを想像してみるといい。冷たいものを手のひらに水が集まってくるような……そんな感覚だ」


 二人に言われた通り、片手を出して手のひらに集中する。空気中の水を手のひらに集めるようにイメージをしながら。


 気づけば、小さな水の塊が手のひらに集まってきていた。それはひんやりと冷たい。次第に大きくなっていき、両手ですくうような形にする。水の塊は大きくなっていき、両手では持ちきれないほどの大きさになった。両手を離し、ボールを持つように水の塊を支える。


「これは……」


 ジョナタンが目を輝かせてこちらを見ていた。リュシアンやフェリクスも驚いた表情で眺めている。


「シャルロット様、その水で雨を降らせるように空へ投げてください」


 サシャに言われ、シャルロットはボールを空に投げるように水の塊を放った。宙に放られた水の塊は空高く飛び、形を変えて雨のように降り注ぐ。


「なんだ……?」


 突然の雨に周りの者たちが空を見上げる。領民たちは雨を浴びると、声を上げた。


「傷が……傷が治っていくぞ」


 深い傷は塞がっていき、姿を消していく。その様子は神秘的なもののように感じられた。


「どうして、私は……」


 セドリックのほうを向くと、彼は目を閉じていた。


「父様。私はこの土地で生まれ育ったのではないのですか?」


 シャルロットの言葉にセドリックは答えない。その代わりに口を開いたのは、ジョナタンだった。


「さすが、兄様の子だね。シャルロット」


 ジョナタンは嬉しそうにこちらを見ている。その目はシャルロットではなく、別の誰かを見ているようだった。


「叔父様、私は……」

「領民を助けてくれてありがとう、シャルロット」


 そして、セドリックは決心したように口を開く。


「……また、そのときが来たら、話をしよう」


 セドリックはそれだけ言うと、領民たちのほうへ歩いて行った。





 父親が何かを隠しているのがわかった。考えられることは一つ。自分はこの土地で生まれ育っていない。そうなると、両親は本当の両親ではないのだろう。


 拾われた子なのか、それとも誰かに預けられた子なのか……。


「サシャは自分が何者なのかわからなくなることがある?」


 寝る前に、サシャは髪を梳いてくれる。その優しい手を感じながら、シャルロットは問いかけた。


「私は……ありませんね。私は私ですから」

「そっかぁ。そうだよね。私も私だ」


 自分の手のひらを見つめる。自分の知らない力を使った。自分はシャルロットになって、彼女のことをすべて知っていると思っていた。まだ自分の知らない部分があると思うと、本当に自分がシャルロットになれたのか疑わしくなる。


「けど、不安になるんだ。自分が思い描いていた自分と、本当の自分が違ったとき……どちらが本物の姿なのか」

「どちらも本物なのでは?」

「そうだね。難しいね、言葉って……」


 サシャは手を止めると、シャルロットの髪を優しく撫でた。


「あなたが何者だったとしても、私はあなたのおそばにおりますよ」


 サシャの言葉にシャルロットはくすりと笑う。


「私が平民だったとしても?」

「もちろん」

「私が……シャルロットじゃなかったとしても?」


 サシャはブラシを置いてシャルロットと向き合った。そして、腰を落としてスカートを少しつまんだ。


「私の中ではあなたはシャルロット様ですから。たとえ後から別人だったとわかったとしても、私はあなたのおそばにおります」


 そう言って、サシャは顔を上げると、優しく微笑んだ。


「私はシャルロット様のことが大好きですから」

「ふふふ。なんかプロポーズみたいだ」

「プロポーズって何ですか?」

「愛の告白っていうのかな……ずっと一緒にいましょうっていう約束のこと」


 シャルロットの言葉を聞いて、サシャは笑みを浮かべながらうなずく。


「そうなのですね。ならば、プロポーズで間違っておりませんよ。私は何があっても、あなたのおそばにおりますから」

「ふふふ、ありがとう」

「あら、信じていませんね? そうですね……」


 彼女は胸元から大きな石のついた首飾りを取り出した。


「この石に誓いましょうか」


 青い石だった。そういったものを彼女が身に着けていると思っていなくて、少し驚く。


「その石は?」

「私のとても大切なものです。これをあなたに差し上げましょう」


 サシャは両手でその石を差し出す。


「いいよ! 大切なものならサシャが身に着けていて」

「ですが……」

「サシャの気持ちはちゃーんと! わかったから!」

「ふふっ、なら良いのです」


 強く言うと、納得してくれたのかサシャは満足そうに微笑む。


「……ねぇサシャ。その石じっくり見せてくれる?」

「もちろん」


 その石は海のように青く澄んでいた。精霊石によく似ていたが、こんな大きな石は見たことがない。


 精霊石は精霊の一部のエレメントを固めたもの。大きく作るには精霊の身を削る必要がある。契約のために、身を削るようなこと、精霊がするはずがない。きっとどこかで採れた石なのだろう。


「とても綺麗ね」

「……ええ、とても綺麗なんですよ」


 そう言ったサシャの顔はとても優しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ