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閑話 稲妻少女なるみちゃんと厨二病患者まどかちゃん

気分転換です。脳死で書きました。

「あー、あー、どうかな」


 とある動画サイト。その中の一つのチャンネルでは、ちょうど生配信が始まったところだった。


 チャンネル名は『稲妻少女なるみちゃん』。チャンネル開設から二ヶ月と少し。気がつけば登録者数は700万を超えていた。


 この最初の調整は毎度恒例の始まりの合図。生配信が行われた直後にものすごい勢いでコメント欄がスクロールを始めた。


「うわー、相変わらずすごいなー」


『定期』という文字がコメ欄に並ぶ。開始1分ですでに視聴者数は1万を超えていた。


「はろー、みんな。マジュチューバーなるみだよ」


 どこか気の抜けたスタートで、今夜も配信が始まった。



『稲妻少女なるみちゃん』というチャンネル名は、上岡成美がつけたものではない。個人チャンネルにも関わらず、なぜか悪ノリで四ツ橋電気社長の息子(13歳)に勝手につけられたものだ。


 ただ、この名前も爆発的人気の一助となったことは否めない。検索に「いな」と入力した途端に、真っ先にこのチャンネルが候補に上がる。

 開設当初はあまりの人気っぷりに目眩がしたほどだった。


「あ、投げ銭ありがとー。最近コメント欄流れるのが速すぎて対応しきれないけどごめんね。今日はゲーム配信をやっていくよ」


 あまり抑揚のない声でカメラに向かって話しかける。

 稲妻少女という名の通り、彼女は雷魔術を主に使う魔術師だ。顔の左側に雷に打たれた跡(リヒテンベルク図形)が残っており、その特異な姿も人気の理由だ。


 そんな彼女がカメラの下から取り出したのは、とあるゲームのカバー。彼女が好んでやるゲームの一つで、何十人もの人が一斉にサバイバルするという最近流行のゲームだ。


 このチャンネルでは基本的に、上岡がゲームをやる姿を配信するのがメインだ。

 それ以外にも魔術の披露や企業の依頼による商品の紹介、簡単な科学のお勉強講座や提携企業とのロマン追求など、得意分野であれば多方面に手を伸ばしている。


 そして、ゲーム配信の時は大抵大人数マルチプレイのゲームで、やたらと上手い上岡をみんなでスナイプするというお祭りも同時開催されていた。


「じゃあ今日は、これをやってくね」



『キタコレ』


 またコメントが1ワードで埋め尽くされる。


 手に持っていたのは大人気FPSゲームのsteam版。アクティブ人数は優に一千万を超える。このゲームの前で、上岡と同じチャネルに入るために何万もの人がスタート画面で待機していた。


 それからすぐに、上岡は何かを思い付いたかのように手を合わせた。


「そうそう、今回は特別ゲストを呼んできたよ」


 コメント欄が騒がしくなるのをスルーしてカメラを横にずらす。

 その先には、ゴスロリに眼帯、サイドテールを結んだ厨二全開の少女が、右手を腰に当て、左手を目元に持ってきてピースサインを披露していた。


「ふっふっふ!世界はワタシを中心に回っている!『聖なる邪眼』東堂円華、見っ参!」


 それを椅子に座っていた上岡は、両肘を膝に置き、頬を両手に支えたまま無言で見つめていた。


「……」

「まどかちゃん。これ、世界中の人が見てる」

「……」


 決めポーズのまま固まった東堂は顔が一気に赤くなり、恥ずかしさのあまり座り込んで顔を隠し始めた。

 それを見てボソリと上岡が呟く。


「黒歴史、世界公開」

「わ、わぁぁぁっ!やめっ、やめっ!!今のなしぃ〜〜っ!……あっ、」


 上岡が撮影係と言わんばかりにカメラを持ったのを見て、東堂は先払いをしてから敬礼を構えた。


「はじめまして。ワタシ、『邪眼』東堂円華です。今日はなるみんの実況に出演させていただくことになりました。よろしくお願い、ちまちゅ……」


 しばしの無言が流れた後、再び上岡はボソリと呟いた。


「二度目の黒歴史」

「う、うわぁぁぁんっ!」


 再び真っ赤になった顔を隠してから、上岡の方に近寄ってカメラからフェードアウト。しかし、誰も写してないカメラは音声はちゃんと拾っていた。


「話が違うよぉ。上手くいくって、言ったじゃん!」

「ほらコメント見て、大反響」

「ほぇ?」


 また似たようなコメントが延々と流れ続ける。


「『黒歴史ww』だって。大人気だね」

「こんなのイヤァァァっ!」

「『dark past! lololololol』ってのもあるよ」

「全世界に、公開されてるの!?そんなの聞いてないっ!」

「いや、当たり前」

「はぇ、はわゎ……」


 実は二人は、四ツ橋サバイバルの頃に知り合ってから仲良くなっていたりした。二人とも年齢は同じ20歳。上岡は大学に通っている(ほぼ行ってない)二年生だが、東堂は魔術師として活動してお金も足りているため、ギルド所属になってからは自堕落な毎日を送っていた。


 ここで気になるのは「東堂円華は今、20歳」ということだが、それは置いておこう。


 二人はよく遊んだりもしており、今回は上岡が東堂に一緒に配信に出ないかと誘ったのである。


 仲がいいと言っても、どこまで行っても厨二な東堂を上岡がからかうのが常なのだが。


「そうそう。みんな、SNSに今回の配信を載せたから、拡散よろしく。で、今日はまどかちゃんとチーム組んでいくよ」

「え、ゲーム?前になるみんとちょっとやっただけだよ。大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。世界中の人から集中狙いされるだけだから」

「全っ然大丈夫じゃなぁぁいっ!ああ、分かった。分かってしまったの。ここでワタシは虐げられる運命だったのね……」

「どうでもいいけど、眼帯外したら?」

「ふぇ?」

「まず眼帯が、黒歴史」

「っ、……こ、これはっ、聖なる邪眼を封印するために必要なものなのっ!」

「ふーん、聖なる邪眼、ね。この前は『スーパーミラクル・アイ』だったよね」

「い、いいい、いいじゃんっ!ほら、だって!ワタシのオメメ、ホンモノの邪眼なんだよ?ほら、幻術これでかけられるんだよっ?」

「カメラ越しに幻術かかるわけないじゃん」

「あっ……」


 上岡が2つ目のコントローラーの準備をしている間に、東堂はゆっくりと眼帯を外した。確かにその目には魔法陣のような奇怪な模様が浮かんでいたが、チラッとコメント欄を見たらやっぱり『黒歴史ww』というコメントがひたすら流れていた。


「ね、ねえねえ。酷くない?ほら、『存在が黒歴史』とか言われてるんだけど」

「事実じゃん。はい、コントローラー」

「え、え?えぇっ?」

「茶番は終わり。早く始めよ」

「茶番じゃないんですけどっ!?」




 ともあれ、二人のゲームが始まった。


 ルールは簡単。ひたすら生き残るだけ。負けたらゲームオーバー。銃などの武器で敵を倒していくゲームだ。


「ねえねえ、このゲーム魔術とか使えないの?」

「ない」

「幻術って、ないの?」

「ない」

「そんなの理不尽……あ、死んじゃったよっ!?」

「弱すぎてウケる」

「リアクション酷くないっ!?」


 このゲームは個人戦とチーム戦に分かれており、チーム戦の場合は一人がやられればゲームオーバーとなる。つまり、あまりにも弱い東堂が死ねば、あっという間にゲームが終わってしまうのだ。

 その後何回もトライしたが、このタイミングは強者が集う魔窟。やはり東堂が開始すぐに瞬殺されるせいで、ゲーム実況とは程遠い実況になってしまっていた。


「まどかちゃん、死にすぎ。戦犯だね」

「なるみんが強すぎるんだよぉ」

「じゃあもし私が先に死んだら、なんでもいうこと聞いてあげる」

「ほ、ほんとっ?今の言葉、ウソじゃないよねっ!」


 上岡の提案に思わず東堂はニヤリと笑う。当然配信でその姿は世界放映されていた。

 そして、東堂は上岡の肩を掴み強制的に視線を合わせ叫んだ。


「『聖なる邪眼(ホーリー・アイ)』っ!」


 右目に映る魔法陣のような模様がくるくると周り、それに囚われた上岡はトロンとした表情へと変わっていった。


「ふっふっふー、これでなるみんはまともに操作できない。これでなるみんを倒せばっ!ワタシはなんでもいうこと聞かせられる権利を手に入れられるっ!イェーイっ!」


 降って湧いたこのチャンスに浮かれている間に、東堂の見えない位置では小さな魔法陣が展開されていた。そしてそこから微弱な電流が流れると、上岡は一気に覚醒した。


「ふんふーん、じゃあ、始めよっか。えーっと、これでスタートで。よし、初撃で仕留め……あぇ?」


 開始2秒で東堂はヘッドショットでキルされた。

 隣を見ると、上岡がニヤニヤと笑っていた。


「ズルはダメだよ、まどかちゃん」


 当然、幻術対策はバッチリだった。


「え、え、えと、えっと……あは、あははぁ。次のゲーム、行こう。そうしようっ!」


 それから1時間ほど経ったあたりで、一旦ゲームから離れ休憩を挟む。そして、上岡はイタズラをする少年のような目で、東堂の方へと視線を横に移動させた。


「じゃあ、まどかちゃん。罰ゲーム」

「罰ゲームっ!?そんなのあったの!?」

「戦犯だし。じゃあ、これやって」


 上岡が指をパチンと鳴らすと画面が切り替わり、某アニメで女の子がくるくる回りながら変身するシーンが放送された。

 それが一通り終わると、二人の映っていた元の画面に戻る。


 その間にカメラの前では、なぜか東堂が緊張した面持ちで直立していた。


「同時にやってね」

「は、ま、ままま、待って!まだ心の準備がっ!」

「はいスタート」


 二つの画面が表示されて、片方にはアニメが、もう片方は東堂の姿が映し出される。そしてアニメが再生された瞬間、カチンコチンに固まっていた東堂の身体がキレよく動きはじめた。


「キラリンキラリンキラキラリンっ、世界に愛を捧げる、キラリン・プリンセスっ!」

「はいカット」

「……あ、」


 最後の決めポーズのまま素の声を出してしまった東堂は、プルプルと震えながら今日三度目の赤面隠しを見せたのだった。


「ほら見て。『可愛い』ってコメントあるよ」

「えっ、ほんとっ!?」


 すぐさま上岡の方に駆け寄りコメント欄を確認すれば、そこに映っていたのは、


「やっぱり『黒歴史ww』ばっかりじゃんっ!」

「あ、『可愛い』ってコメントが」

「え、どこどこっ?」

「あーあ、流れてっちゃった」

「可愛いって、ほんのちょっとしか流れてないじゃん……」


 東堂が落胆する姿をやっぱり上岡は撮影する。するとなぜか今度はコメント欄に『可愛い』の連呼が始まっていた。


「見て見て、可愛いって」

「ほ、ホントだっ!やったぁっ!」

「お礼しなきゃ、だね」



「みんなー、ありがとーっ!これからも『邪眼』東堂円華を、よろしく、ねっ!」



 最後にまた目に横ピースを決めた東堂を見て、その場に静寂が訪れる。



 そして、しばらくしてさすがの上岡も笑い出してしまった。


「ぷ、ぷくくっ」

「な、なんで笑ってるのっ!」

「いやあ、やっぱり円華ちゃんは変わらないなぁと」


 コメント欄でも『やっぱり存在が黒歴史ww』と大量にコメントされていた。


「じゃあ、ちょっと早いけど今日はこれで終わり。今後もたまにまどかちゃんは出演する予定だよ」

「え、えぇっ!もういいじゃんっ!」

「明日はお休みで、明後日は四ツ橋電気との共演の予定」

「ねぇっ、ねぇってばぁっ!」

「それじゃ、バイバイ」


 手を振る上岡と、肩を掴んで揺さぶり続ける東堂の姿を最後に、『稲妻少女なるみちゃん』の生配信は終了した。





 この配信回は神配信と呼ばれ、配信時間は短いながらも同時視聴者数は200万超え、投げ銭は数億円、アーカイブの再生回数も1週間で1000万を超えるという、とんでもない記録を作り出した。



 そして結局、その後一月も経たないうちに、東堂は『稲妻少女なるみちゃん』の生配信にまた出演するのだった。

なるみ「最後まで読んでくれてありがとう。面白かったらチャンネル登録ブックマーク高評価(五つ星)、待ってまーす」

まどか「待ってまーす、キラッ」

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