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抗争の後

「ケイっ!傷だらけじゃない!何があったのよ!」


 圭が爆発の中心地に辿り着いた途端、真っ先に楓が詰め寄ってきた。


 実際かえでの言葉通り、圭の身体はボロボロだ。全身から血が垂れ流れ、一部は固まりはじめてはいるがほっとくと出血過多で死にかねない。


「ああ、ごめん。もう魔力ないんだ」

「『治れ』っ。私が見たときはあの超臨界水で優勢だったはずなのに」

「まあ、ね。でもあの場で倒しちゃ、袴田さんの『追跡』のマークをした意味がない。程よく調整するのが難しかったんだよ」

「だからって、……前に戦ったのだから、ケイならもっと有効な魔術考えてるはずよ。なんでまたこんなに……」

「まあまあ。たしかに危なかったけど、最低でも引き分けの戦いだった」

「最低でも?」

「ま、ね。治療、ありがと」

「え、うん……」


 楓は今、竹岡と協力して瓦礫をどかし、爆発に巻き込まれた人の救助に手を追われていた。

 楓の探知魔術で、まだ生きている人たちを探し、それを竹岡や近くの協力者が瓦礫を退かして救助する、といった形だ。


 すでに治癒魔術が使える人も呼んでおり、後少しすれば怪我人も治療できる。


「三鷹。よりによってこんな時に、なんで魔力を空にしたんだ」

「んなこと言われても。大変だったんですよ?」


 楓が場所の指示で圭から離れたタイミングで、今度は竹岡が近付いて話しかけてきた。


「正直、三鷹の魔術を頼みにしてたんだが、……まさか彼女も探知魔術を使えるとはな」

「覚えたのはつい最近ですよ。楓には魔術の才能があったみたいです」


 瓦礫に登り近くの魔術師や能力者に指示を出す楓の姿を見る。

 圭だって、この短期間にここまで成長するとは思ってなかった。


「それで、三鷹に頼みたいことがある」

「へっ?僕にですか?面倒ごとは御免ですよ」

「別に追い詰めるわけではない。少し、わたしにも魔術を教えてほしいんだ」

「……魔術を?」


 楓から視線を移し、意外そうな顔をして竹岡の方を見る。今まで誰にも言われなかったので、まさか魔術を教えろと言われるとは思っていなかったのだ。


 竹岡は、眉をひそめ何やら思い詰めた顔で、指を額に当てた。


「ああ。攻撃以外の魔術。……探知魔術と、治癒魔術だ」

「あー……もしかして、これを見て?」

「……そうだ」


 たしかに、竹岡の魔術は攻撃一辺倒だ。ある意味不器用とも言えるが、別に竹岡がその二つの魔術を使える必要はない。

 能対課には探知ができる人も、治療ができる人もいる。


 それに、圭としてはあまりこの依頼に積極的にはなれない。


「ちょっと、大変そうなので……」

「頼む!お願いだ!」

「あぇぇっ、そんなに思い詰めなくても。二つとも代役が能対課にいますから」

「それでは、ダメなんだ」

「イヤでも」

「頼む、後生の頼みだ」

「……」


 魔術を教える、というのはかなり手間のかかる仕事だ。今の楓のように、魔力の操作とセンスがあればアッサリ習得できるが、竹岡の場合は話が変わる。


 これは他の人にも言えることなのだが、そもそも魔力の繊細なコントロールができない。したがって、魔法陣を渡して覚える、という手段が使えない。

 何より、魔法陣の乗っ取り(ジャック)ができない。


 こういった人にも魔術そのものを教える手段があるにはあるのだが、圭にもそれなりの手間がかかる。何より、楓よりも習得にかかる時間がはるかに長い。


「たぶん、一つの魔術に一月はかかりますよ。僕にもまだやることがありますし、それにもうすぐ大学も始まるんです」


 だがそれでも、竹岡は諦めなかった。


「一月でも二月でも構わない。なんなら私が三鷹の都合のつく場所に行こう」

「え、そこまで……ガチかよこりゃ」


 何を言っても引き下がることは無さそうだった。


「……無償で協力ってのは、イヤですよ」

「なら、何をすればいい?」

「ギルド」


 少し前から、圭が考えていたこと。それは、圭たちが立ち上げたMAAC、すなわちギルドの公認だった。


 単純に後追いする他の団体との差別化を図る意味もあるし、政府との癒着も狙っている。

 そこで能対課でも信頼の厚い竹岡の協力を得られることは一定以上の意味がある。


「竹岡さんが、ギルドに登録してください。依頼とかなしで、ただ登録するだけでいいです」

「それは……」


 魔術が一般人に知れ渡り、今となっては能対課の存在も公開された。魔術の存在が隠された以前とは状況が違う。


「能対課の束縛がどこまで厳しいのかは分かりませんが、登録だけです。影響は非常に大きいですが、形だけ見れば何かしらのサービスに登録しただけですからできないわけではないはずです」


 能対課は、フリーの魔術師を軽んじている。

 話を聞けば、今回の爆発でも被害を受けたのはフリーの人たちが多いと聞いた。


 そんな事情もあって、ギルドは能対課からはよく思われてはいない。

 ここで竹岡が登録すれば、能対課のギルドへの印象も変化していくだろう。



 これに関しては圭個人のメリットはほとんどないが、昨今の魔術師界隈で確実に必要な要素だ。


 意図せず魔術師や能力者の存在が知れ渡り、今でさえ様々な人が彼らの扱いについて語り合っている。

 魔術師も一般人も変わりない。こう主張してくれる人もいる。


 だが、世論は魔術師能力者の行動を束縛する方へと動いている。言い換えれば、彼らの自由が、奪われつつある。


 今まで何か大きな事件を起こしたわけでもない、たまたま魔術を使えただけの人ばかりが、強制隷属させられる。そんな世界を、一般人は望んでいる。


 それに対して、ギルドを間に挟むことで、強制性が緩和され、彼らの自由度は大きく広がるはずだ。



 これは言い換えれば、魔術師能力者の人権問題とも言えるだろう。


「……前は散々面倒ごとはイヤだと言ってたのに、いつから魔術師たちのことを考えるようになったのかなぁ」

「……何を言ってる?」

「ああいえ、こっちの話です。それじゃ、竹岡さん。ギルド、登録していただけませんか?」


 また少し眉をひそめたが、確かに竹岡は肯いた。


「三鷹がなぜこんな要求をするかはいまいち分からない。しかし、登録するだけであれば、大きな問題にはならない……はず」

「じゃ、契約成立ということで。色々事情があって、もしかしたらしばらく東京に滞在するかもしれません。暇があれば連絡しますから、何かあればその時に」

「分かった。だが、東京に滞在といっても、大学はどうするつもり?」

「友人に出席頼みます。なぁに、去年の分、今年は返してもらいますから」



 それから圭は何人もの人たちが瓦礫から運び出されるのをずっと眺めていた。


 吹っ飛ばされても意外と平気な人もいる。五十嵐などは最たる例だろう。ランク5となれば、身動きが取れないだけの人も多い。だが逆にあまり実力がない人は、全身に大怪我を負っていたり、場合によってはすでに事切れたあとだった人もいる。


「それにしてもこの爆発。何が起こったんですか?」


 首を傾げる圭を見て竹岡が応えた。


「恐らく狭山が何かやったのだろう」

「狭山?狭山……」

「以前の『赤』の拠点の時に戦った男だ。どうも『赤帽』と何かしら因縁があったらしくて、『赤帽』ごと巻き込んで自爆でもしたのかもしれない」

「ああ、あの人か。強烈な印象だから覚えてます。そうか、こういったところだと負の感情も集まりやすい。生きてるのかな」

「分からない。生きていてほしいと思っている」

「そうですねえ」


 それから竹岡は何か考えた後、ほぼ終えていた救助活動を手伝おうとその場から離れていった。


 それと入れ替わりに、今度は袴田が姿を現した。


「おうい、三鷹!」

「あ、袴田さん。上手くいきましたか?」

「おう、バッチリよ。かなり距離は離れていたが、上手くマークできた。これで、『闇夜の騎士団』の拠点も分かるかもしれねぇな」

「そうだと嬉しいんですが」


 楓が袴田を呼んだときに、袴田は距離をとったまま『追跡』の能力を発動させた。

 ナクモは『闇夜の騎士団』の幹部だ。ヤツが一定以上留まった位置は、アジトと認識しても問題ないはずだ。


「それと、袴田さん」

「ん?なんだ?」

「このことは他言無用でお願いしますね」

「……またか。別にいいけどよ、なんでそんな隠すんだ?」


 顎に手を当て、少し伸びた髭をなぞる。あまり髭は濃くないが、そろそろ剃り時だ。


「……能対課の中にスパイが紛れ込んでる可能性もありますからね」

「ほぼ全員神城学園の卒業生なんだがな」

「僕の勘は意外と当たるんです」

「そうかよ」


 袴田はタバコを取り出して火をつける。夜風に吹かれて煙はすぐに空に舞った。


「明日あたりに『死霊』のアジトに行くんだろ?」

「はい。倒す目処も立ちました。……能対課の力は必要ありません」

「相変わらず能対課嫌いだなぁ」

「いいじゃないですか。何度も助け損、してますからね」




 しばらくして、楓が戻ってからホテルに帰った。

 ようやく、『赤』と『闇夜の騎士団』の抗争が、終わったのだった。




「んじゃ、楓は先帰っといてね」

「えぇっ!?一緒に帰ればいいじゃない!」


 ホテルに着いた途端、二人の間に喧嘩が勃発した。

 正確に言うと、圭に対して楓が怒っているという構図だった。



「いやぁそれが、何個かやり残したことがあってさ」

「私の修行とか、どうするのよ。魔法陣の『重ね』も中途半端だし、実戦で使うにはまだ程遠いわ」

「いや、それはスマホで送るから」

「てか、そもそも最近別行動が多いのよ。それがなんだか、腹が立つわ」


 思い返せば、受験が終わったあたりから別行動が一気に増えた。ここ一月、半分くらい会ってない日があった。

 今までほぼ毎日一緒にいたせいで、楓は物足りなさを感じていた。


「ああ、ごめん。僕もいろいろ巻き込まれてる…不本意だけどさ。だから、ホントにごめん」

「……早く、帰ってきてよ」


 徐々に元気がなくなってきた楓が、力のない声で下を向く。


「寂しい、から……」

「分かってるって」


 俯いて弱々しい楓を見て、申し訳なさを強く感じながら、圭はまたホテルを飛び出した。

次の更新予定は明日4/15(水) 20:00です。

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