開幕のパーティ
圭と楓は琴桐邸から送られてきた車に乗り、とあるホテルに来た。
「こいつぁすげぇ」
「ここはたしか……四ツ橋不動産の中でも特にグレードの高いホテルだったはずよ」
シンプルに大理石で埋め尽くされたロビーは高級感を漂わせていた。二人がカウンターにいた女に四ツ橋からの招待状を渡すと、すんなり奥のホールへと案内された。
圧巻の一言だった。
宴会会場は非常に大きく、安っぽい例えだが、二百メートルトラックが入ってしまいそうだ。床は衣装を凝らした程よく柔らかいカーペットが敷き詰められ、壁を触ると硬くもなく柔らかくもない、防音がしっかり施してありそうな作りなのが分かる。
天井にはいくつものシャンデリアが輝いており、その下には沢山の円卓とそれを囲む四ツ橋グループの人々がいた。
「おおっ、三鷹くんようやく来てくれたか」
圭と楓を一瞬で見つけた章一郎が歩いてくる。彼自身がこの会場の中でも注目株の一人で、そしてその代理人である圭は、この中で最も興味を持たれている男だった。
「どうも。なんだか場違いな感じがしますね」
パーティということで、圭もジャケットにチノパンという畏まらない程度には整えた服装でやってきた。隣の楓はシンプルなベージュのドレスだ。その胸元には銀でできたネックレスがアクセントとして下げられていた。
楓がヒールを履いているおかげで、圭の方が身長が小さくなってしまっていたのは仕方のないことだろう。
「そんなことはないさ、むしろ君たちはこの場にふさわしい服装をしてきてくれている。魔術師や能力者はそういうものとは無縁な人が多くてね」
周りをよく見渡すと、若干着膨れのパーカーを着ている顔に模様が描かれた少女や、怪しげなローブを着た性別不明の人物、真冬の寒い中ノースリーブで鍛え上げられた身体を見せつける男など、明らかにこのパーティには浮いている人もいる。
「あれが代理人か」
「そういうことさ。もちろんカジュアルな服装をしている人も多いけどね」
ここであえて、圭は探知魔術を強く発動させた。
「っ、……?」
楓はその魔術を感じ不思議そうに圭を見た。だが圭は楓には見向きもせずに周囲を見渡していた。
猛者は探知魔術に何かを感じ取る。それだけで警戒すべき相手だと分かる。
実際にここで何人か、圭の探知魔術により違和感を感じたらしく、キョロキョロと辺りを見回す人がいた。
「情報収集も戦いの一つってことだよ」
「あ、そういうことね」
「ん?何を話してるんだい?」
「あ、いえお気になさらず」
そう言いながらも章一郎は二人をテーブルに誘導する。今日は過去代表や代理人同士で交流を深めるための立食パーティだ。各々のテーブルの中でも最も奥かつ中央に位置するテーブルへと二人は移動した。
「楓さんっ、……っ!」
礼二郎もその輪の中におり、楓を見つけてすぐさま近付こうとしたが、そのすぐ隣に圭を見つけて足を止めた。
「あら四ツ橋くんご機嫌よう」
笑顔で挨拶しながらも対面に位置取った楓は、彼の両親である四ツ橋慎太郎と四ツ橋綾子に挨拶をし頭を下げた。
「おお、久しぶりだな楓くん」
恰幅の良い口髭を生やした男、慎太郎が笑顔を見せる。その隣の綾子も、歳なりの小皺を見せつつも笑顔で受け入れた。
楓は過去に、礼二郎に強引にこの夫妻に引き合わされたことがある。当然楓は激怒したし、両親も礼二郎を叱り飛ばした顛末だった。そのおかげである程度面識を持っているのだ。
そして楓が四ツ橋綾子と話している間に、当主である慎太郎が圭の方へとやってきた。
「君が『奇術師』か。とても優秀な人と聞いている、よしなに頼む」
「いえ、僕なんかが……」
「そうかな、ランク6の中で最も優れた人間と言っても過言ではないと思っているよ。どうかね、卒業したらうちに就職しないか?君なら実力でも上にいけるはずだ」
「あはは、もし縁があればということで」
「そうか、では期待しておこうじゃないか」
ここ最近何回もしている会話だ。特にこの場にいる人のような上流階級の人が圭の名となりを見たら必ず持ちかけられる。
それからパーティは恙無く始まった。
立食パーティというのは基本的にサイドにある食べ物を自分で取ってきてテーブルで歓談しながら食べる。圭もそれに倣い料理を取ってこようとすると、そこにはその場で食事を取る人たちが何人かいた。
見ただけで分かる。彼らが決闘代理だ。パーティの暗黙のルールを知らずにかなり雑によそいその場で食べている人も多い。それを非能力者たちはあまり良くない目で見ていた。
だがこれも仕方のないことだろう。
彼らは能力を持っているがゆえに自分に自信を持っている。その結果外の目を気にしない。
特にランク5などの高給取りとなれば護衛に雇われる比率も低くなるため、どうしてもその傾向が強かった。
「うーむ、個性的というかなんというか……間違いなく僕が一番人間らしいな」
何人かと目があったが、眼中にないと言わんばかりに無視される。むしろその場で食べる者同士で競い合っているようだった。
「どうだい、彼らは」
「あ、章一郎さん。曲者揃いなのは見ればすぐに分かります」
「そうだろう、各企業が自分たちにふさわしい代理人を呼んでいる。さすがの君でも苦戦してしまうかな?」
「そうですね、ちょっとどうなるか想像もつきません」
それから大食いバトルに負けた者から去っていく隙をついて、料理を適量だけ取り席に戻る。
「持ってきたよ」
「ありがとっ」
二膳箸を持って片方を楓に渡す。
章一郎が酒を進めてきたが、それは流石に断った。
「そうか、君はまだ未成年か」
「そうなんですよ。たまにお酒とか勧められるんですけど、いつも断らさせて頂いてます、気持ちは嬉しいですが」
「気にするな、無礼講だ」
パーティが進んでから、沢山の人が圭の元へとやってきていた。
どうやら圭がこのサバイバルマッチに出ることは既に知れ渡っていたらしい。顔を繋ぐだけの挨拶はほとんどなく、就職斡旋などの圭を勧誘する動きばかりだった。
中には能力者たちも圭に興味を持ったようだが、大抵は怪訝そうな顔をしていた。
実のところ彼らは圭のことが本当にランク6かと疑っていたりする。
圭は特に覇気がないため、ナメられやすい。自分に自信を持つからこそ、誰もがランク6『奇術師』は弱いのではないかと感じてしまう。
それはそれで圭としては好都合ではあるが。
「ああ、疲れたぁっ」
楓がため息を吐きながらホテルのベッドに寝転がった。
当然の如くグレードの高い部屋に案内された。リゾート地に近いこのホテルは窓の外を見ると灯りがほとんどない。下の方にイルミネーションが光っているだけだ。
「全くだよ。なんで次の日から戦う人がこうも神経をすり減らさなきゃならないんだ」
「ケイは、自業自得じゃない?」
「自業自得って、じゃあどうしろと」
「もっと、慎ましやかに生活するべきだったと思うの」
心にもないことを言う。慎ましやかに生きるつもりが、楓がわざわざ捕まえにきたのが始まりだったというのに。
「ま、いいさ。どっちにしろもう手遅れだ、諦めるよ」
今回の四ツ橋サバイバルマッチは、能力者界隈史上、初めて映像として映される。多くの監視カメラとドローンを用いることで、ありとあらゆる角度から観戦を楽しめるシステムだ。観戦者はそれぞれ端末を渡されており、巨大スクリーンと自分の端末を見ることで観戦が可能。
さらに、この戦いはオンラインにすら対応した。一部の人だけが見ることができる一種の会員制という形ではあるが、確実に記録に残るだろう。
そしてそれは、もう魔術師や能力者の存在が世間に広がるのを免れないことを意味する。
「僕の予想だと今年度中に魔術師の存在が露呈すると思うんだよね。そうなると注目は集まらざるをえないし……」
「そっか、ランク6ってなったら……」
それこそ本当に全国に圭の存在が広まることになる。日常生活にも支障が出てきそうだ。もちろん圭だけではない。少なくともランク5は話題になる。
「まあ、なるようになるさ」
持ってきた唯一の武器である鉄棒を壁に立てかけ、圭もベッドに寝転がった。
「どちらにしても、少なくとも今回の戦いで負ける気はないけどね」
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翌日。
起きてロビーに行くと、あの女がいた。
「おっ、やっと顔見せたか圭!」
「え゛っ、左神さん?」
ロビーのソファには、ランク6『星詠』こと左神美子が足を組んで座っていた。
そのすぐそばではホテルの係員が対応に困った様子を見せている。確実にアポ無し訪問なのは分かった。
そして何より、圭は左神とは会いたくなかった。
楓が圭の後ろに隠れ左神を睨む。
だが、その視線を一切感じさせないような動きで圭の方へ大股で歩いてきた。
「な、なんでここにいるんですか」
「ん?そりゃ、面白そうなことが起こるからさ。それ以外にあるか?」
「いや、サバイバルマッチとはいっても、左神さんが面白いと思うほどのものではないとは思うのですが」
圭の目の前まで顔をすぐ近くまで寄せていた左神は、一歩離れた場所に下がり手を顎に当てた。
「サバイバルマッチ?ってのも多少は興味を惹かれるけどよ、他にも圭の近くで何か起こるんだよ」
「……マジすか?」
「おう、マジマジ」
それはこの戦いの中で、なにかヤバいことが起こることを意味する。そして『星詠』が言うことなのであれば、ほぼ確実なのだろう。
「即刻、中止にしましょう。いや、延期でもいい」
「おいおい、そんなつれないこと言うなよ。いいじゃねえか面白いんだから」
「それはあなただけです」
圭よりも身長の高い左神は、ニヤニヤしながら楓がいる方とは逆側の肩に腕を乗せた。
「それにもう今更だ、サバイバルマッチ?だったか……もう会場セッティングも終わって準備万端だろうな。あたしも一緒に行ってやるよ。なあ、楓?」
「……イヤ、いらないわ」
「まーたそんなこと言っちゃってー」
背中を叩こうとしたところを楓がうまく躱したせいで、左神の手は圭の背を叩いた。
「たぶん左神さんならすぐに準備を用意してくれますよ。ランク6ですからね」
「おー、そうか。ならゆっくり観戦と行こうかねえ」
左神に半ば無理やり連れて行かれる形で、三人は観戦会場へと入った。
そこは昨日のパーティと同じ会場だった。ただ、テーブルは大きな円卓へと変わっており、一つのテーブルに10人ほど座ることができるようになっている。そして各席の前にはタブレットが置かれていた。
圭と楓は指定されていた席に座る。そして左神が当たり前のようにその隣に座った。
「左神さん、事情を伝えれば席用意してくれますから」
「ん?おお、そうか指定されてるのか。すまんすまん気付かんかった。それで、どこに言えばいいんだ?」
「たぶんあの人かな」
それを聞くと素直に左神は従い、一通り相手を驚かせてから席を用意してもらった。当然のごとく圭の隣だ。
それと、タブレットは圭が自分用のものを渡した。自分には必要のないものだからだ。
それからしばらく経ち、代理人が会場の外へと呼び出される。
いよいよ、サバイバルマッチが始まろうとしていた。
今回はあらかじめ出場者16人を能力を含めてリストアップしておきます。もちろんみなさんの考えた能力者たちが大多数を占めています。
誰がどんな順位になるか、考えてみてください。
No.1 『奇術師』三鷹圭 四ツ橋重工
No.2 『不死』五十嵐冬夜 四ツ橋銀行
No.3 『人形遣い』生田翔子 四ツ橋商事
No.4 『幸運女』一ノ瀬幸子 四ツ橋生命保険
No.5 『雷の魔術師』上岡成美 四ツ橋電気
No.6 『光の魔術師』冨田日華里 四ツ橋信託銀行
No.7 『固定』坂本廉 四ツ橋海運
No.8 『銃器変換』日村重吾 四ツ橋金属
No.9『邪眼』東堂円華 四ツ橋不動産
No.10 『吸血女』赤井奏 四ツ橋食品
No.11 『伸縮』水島静樹 四ツ橋化学
No.12 『無力』河内武司 四ツ橋火災保険
No.13 『鑑定』井上和雄 四ツ橋硝子
No.14 『詐欺師』及川茂雄 四ツ橋証券
No.15 『耐性』九重衛 四ツ橋自動車
No.16 『変化』石川裕也 四ツ橋総合研究所
なお補足として、企業の上下関係は「『菱形三つのやつ』グループ 序列」で調べると参考が出てきます。
また、予選上がりが3人います。ついでにヤベェやつも一人います。




