四ツ橋サバイバル①
サバイバルマッチの始まりです。後書きの方に登場キャラについて軽く触れていきます。
圭が誘導された場所は、廃墟と岩場の境目あたりだった。
直径およそ一キロに及ぶ円状ステージは主に三つのエリアに分かれている。
一つ目は廃墟。昭和時代に建てられたと思われる建物が並んでおり、中にはビルやホテルなども存在する。当然何十年も放置してあるため腐敗して異臭を放っていたり、虫だらけなところもある。
その代わりに遮蔽物などが多くあるため、身を隠しながら戦うタイプの能力者ならばここを一番に陣取ろうとするだろう。
二つ目は岩場。半分ほど溶岩、もう半分は普通の岩で構成されており、溶岩の方は崩れることはないが、岩の方は半ば崖のようになっているため、戦うとなれば人を選ぶことになる。
そして三つ目は樹海。さまざまな種類の植物が生い茂り、昼にもかかわらず薄暗い場所だ。自然を使ったトラップなどは非常に有効だろう。また、戦いのための訓練にはもってこいの場所だ。こういったフィールドに慣れた人もいるかもしれない。
制限時間は仮置きとして十時間。二時間ごとに戦う範囲を半径百メートルずつ狭め、最終的には実質決闘場と似たような状況に追い込まれることになる。そこまでいけば制限時間もなくなり決着がつくまで戦いは続く。
そしてサバイバルとはいえ互いに生き残ることだけを選択することになるのは困るので、誰かを戦闘不能にした段階でキルポイントというものを与えられる。キルポイントは戦闘不能になった者の所有ポイント+1もらえるので、生き残り順がトータル順位になるわけではない。
特に、上位での順位戦ではキルポイントがかなり重要になってくるため、積極的に敵を倒そうとする動きが出てくるだろうことが予想されている。
なお、敗退者の救護は基本的に六人体制でフィールドすぐそばに待機しており、映像により状況を把握し駆けつける。死には至らないように万全の態勢を敷いていた。
圭はすぐそばを飛んでいるドローンを見る。この森には何十とドローンが飛んでいるほか、いくつもの監視カメラが備え付けてある。
ドローンに触ろうとしては逃げられ、触ろうとしては逃げられることを数回繰り返したあたりで、準備は整ったらしい。目の前のドローンから強烈な音が鳴り響いた。
「なるほど、これが始まりの合図か」
腕時計を見ると、ちょうど長針が上を指したところだった。
周りを見回すも、当然だがまだ敵は見えない。ひとまず圭は予め考えておいた行動をとることに決めた。
「えーっと、いい感じの場所は……あそこらへんでいいや」
溶岩地帯の中でも壁に反り返った部分を見つける。そして、魔術を発動した。
「『捉えろ』」
言葉を唱えた魔術はいつもの探知魔術よりも遥かに広い範囲の敵を探し出す。これにより残り十五人の居場所をいとも簡単に割り出した。その外に六人で固まる医療班もいる。
圭のいたところはフィールドの中でもかなり端の方らしかった。それを理解してから、あと二回魔術を唱える。
「『音よ』『爆ぜろ』」
鉄棒を岩にひと突きすると、そこを中心に爆音が広がった。
「『灼炎』『広がれ』」
今度は上を向いた棒の先端から、とてつもない量の炎が射出された。おそらく数十メートルは炎は上に広がっただろう。
これで圭の準備は整った。
「『守れ』『紛れろ』」
溶岩の影に隠れて土を出し、結界魔術と隠蔽魔術を自分にかけた。そして土の上に横になって近くを飛んでいるドローンに手を振ってから、昼寝を始めた。
そこからかなり近い位置で、岩からバランスを崩して顔を地面にぶつけた女がいた。
「ふぎゅっ」
彼女の名は一ノ瀬幸子、この戦いでは四ツ橋生命保険株式会社の代理を務めている。
「あわわわわ、い、今の!な、なに!?」
かなり長い黒髪を後ろにゆるく縛り、起き上がることで野暮ったい顔つきを見せた。
「……痛い」
ヒリヒリと痛む鼻を押さえながら、一ノ瀬はすぐさま溶岩地帯の壁に身体を潜めた。
「えっと、最後まで生き残れば15ポイント。それだけあれば確実に上位に入れる……だっけ?」
今回のルールでは、最大15の生存ptと、最大15のキルptの計30ptによって順位が決められる。同点の場合はキルptが優先されることになっている。
一位の人は必ず30ptを手に入れるが、二位以下はそういうわけにはいかない。二位でもキルptで大きなブレ幅がある。
そして、このルールは下位には厳しい。初期段階で一人も倒せずにやられたら、その時点で順位は決まる。
従って、自分が弱者だと認識している者は逃げに徹し、強者だと思っている者は敵を探す。
これにより強者同士の衝突で強い人がすぐさまやられる可能性もある。
当然のごとく、一ノ瀬は生き残りたい側だった。
「社長は何もしなくていいって言ってたけど……」
彼女は魔術師、それも『運』に関係する魔術を扱う。昔から占いが大好きだった彼女にふさわしい魔術だ。『幸運者』の二つ名を持つ一ノ瀬は、自らの魔力と引き換えに幸運を呼び寄せる。
この戦いで最も低いランク2の彼女は、ほとんど動かずにいるつもりだ。
そしてそれは幸か不幸か、圭が昼寝を始めた位置から百メートルも離れてない位置だった。
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四ツ橋電気代理の上岡成美は、廃墟エリアにある廃ビルの目の前がスタート地点だった。おもわぬ幸運に喜び、すぐさまその中に身を潜めた。
上岡も一ノ瀬と同じ弱者側に相当すると言っていいだろう。首にかかったままのヘッドホンをいじりながら、長期戦を見据えて戦略を立てていた。
上岡はランク4の魔術師で、雷魔術に長けている。四ツ橋電気の決闘代理を主に務めており、魔術師の中では非常に珍しいことだが、大学に通っていた。企業の方とガッツリ協力しており、武器も今回の戦いで上位を狙えるようなものを準備してきていた。
「スナイプ……いや、相手の能力が分からない、ダメ」
大学生とは思えない低身長にぶかぶかのパーカーを羽織っている上岡は、顔の右半分を覆う稲妻模様の後をなぞりながら、じっくりとチャンスを窺うことに決めた。
そこからすぐに、爆音が響いた。
「はっ?」
あまりの音の大きさに、耳を塞ぎしゃがみ込む。それほど大きな音だった。
そしてそのあとすぐに、音の聞こえてきた方から高々と炎が舞い上がった。
「これは、あのランク6?……そういうこと」
こういったサバイバルゲームは何度もやったことがある。まさか命を危険に晒して実戦する時が来るとは思っていなかったが、多少の有利は取れる。
上岡が考えた末に出た圭の行動の意味は、警告だった。
ランク6がいる。それだけでリスク。ぶち当たったら負ける確率がはるかに高い相手の方へと行くメリットはない。
もちろん自分に自信のある者は挑みに行くだろう。特に、三鷹圭は覇気がなく見た目は弱そうだったため、舐めてかかる人はいるはずだ。
呼び込むか、押し出すか。どちらに動くにしろ、他の人の行動が分からなければ大胆な動きはできないが、少なくとも炎の出た方向には行けないということだけは確定した。
そこからしばらく、何も起きなかった。言うなれば膠着状態、それぞれ息を潜める者や準備を施す者たちは不気味に息を潜めていた。
「っ、」
大きな音が響いた。
今度は魔術ではない、戦いの音だ。しかもかなり近い位置。これは様子を窺うべきだと判断し、上岡はビルの屋上へと走った。
上岡が屋上から様子を窺うと、ちょうど廃墟と樹海の境目あたりで二人の男が戦っていた。
それを見てから周りを見回す。炎が出たのは岩場の方、ある程度場所を確認できてから二人の戦いを上から観察し始めた。
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及川茂雄は焦っていた。
四ツ橋証券代理人である及川は、サバイバルが始まってからすぐに仕掛けを設置しに動いていた。突然の爆音と爆炎には焦ったが、それ以外には何も問題なく仕掛けを行うはずだった。
しかし、それが完全に終わるまでに敵が来てしまったのだ。
「一人目、見つけましたよ」
「っ、」
及川の選択する予定だったフィールドは廃墟だ。それ以外だと都合が悪い。しかし、スタートが樹海だったせいで移動に時間がかかってしまった。
「……やるしかない」
目の前の男、四ツ橋化学代理の水島静樹が余裕そうにその場で小さく跳んでから、右手を前に構えた。それに対抗するように、右手を腕を伸ばすようにして前へ出す。
「『炎よ我が魔力の元に生まれろ』」
「なるほど魔術師か」
及川が詠唱すると、小さな魔法陣が前に展開される。それを警戒して水島は腰をさらに低く構えた。
「火炎っ!」
魔法陣が赤く光るとともに、及川から炎が放たれた。
しかしその魔術は、魔法陣以上に威力の低い弱々しい炎しか出ない。十歩近くある彼我の距離を炎は詰められなかった。
「や、やっぱり!」
「?……ふむ、ただの雑魚でしたか」
端正な顔立ちをした水島は、薄気味悪い仮面のような笑いを見せた。
小石を拾い及川を狙い投げる。非常に速い速度で投げられた石は、髪の毛にかするだけで後ろへと飛んでいった。
「あ、あぶねっ……」
投げられた小石を見ただけで、及川は相手を格上と判断した。そしてもう一度魔術を使おうとした時、
「『炎よ、ぐぁっ……」
背中に石のような何かが当たり、痛みのあまり中断させられた。
「くそっ、また一人っ!」
すぐさま後ろを向いて誰の攻撃かを確認する。しかしそこには誰もいない、攻撃の痕跡すら残っていない。後ろに映るのは、廃屋の塀くらいだ。
隠れられたのだと、及川は判断した。
そして、目の前の相手から気を逸らしたことに気付き前を向いた時には、水島は眼前まで迫っていた。
「シッ!」
「っ、ぐぉっ……」
振り落とされた拳が胸部をえぐる。その痛みにバランスを崩され、一歩下げさせられた。
無言で開いた一歩を詰める。下から上に上がるように繰り出された拳は、及川の鳩尾を正確に打ち抜いた。
「まず一人」
「うっ、……このっ、」
呻き声を上げつつもその声を聞き、及川は気合で身体を地に投げた。その動きは流石に想定外だったようで、水島の手刀は空振りに終わる。それを確認する前に腕の力だけで跳び一気に間合いを広げた。
「へへ、このままやられてたまるかってんだ」
「チッ」
指で鼻を擦る。水島はめんどくさそうに舌打ちを返した。それを皮肉な笑いで返す。そして手を前に上げた。
「ならよ、コイツには耐えられるかな?『炎よ我が魔力の元に生まれろ』っ!」
「そんなこけおどし、効くと思い……っ、!」
水島は後ろから威圧を感じた。
魔法陣は及川の前には現れなかった。その代わりに、水島の背後から赤い光が照らされる。
水島の背後には、先程の何十倍もある巨大な魔法陣が赤く回転を始めていた。
「なんっ、!」
その特大級の威力を予感させる大きさに、水島は身体ごと横に投げ出した。
そして宙に浮いたタイミングで、強烈な衝撃が自分の身体に伝わったのを理解した。
「っし、撤退!」
廃屋の壁にぶつかりブロック塀を頭からかぶった水島を見届ける前に、及川は逃走した。
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この二人の戦いを見ていた上岡は動き出した。
魔法陣を展開させ雷の魔術を発動させると、ヘッドホンがそれをキーにスイッチが入る。そしてわずかに光るそれを耳につけつつ、上岡は廃ビルを飛び降りた。
「カモは逃さない」
羽織っていたパーカーの両袖が、雷魔術で供給される電気によって変形していく。そして数秒の間に、袖先は二本の突起へと変化した。
そして走る。狙いは及川、水島はダメージを負って体力回復を図っているようだがそれは無視だ。
情報収集は基本中の基本、それが上岡の心得。
予選上がりの三人の能力は把握している。
「『詐欺師』、及川茂雄。タネがわかれば怖くない」
ヘッドホンで捉えた足音を追う。すでに狩りは始まっていた。
いろんな方が設定まで作ってくださいましたが、すべてを盛り込むことはできていません。裏設定ということにしておきますのでお許しください。
一ノ瀬幸子
ランク2 『幸運女』運の魔術を扱う。本人の戦闘力は圭が素の実力でも倒せるくらい弱い。非常に弱気、本人も魔術を使っている実感がない。
提案者 SYASYAさん
上岡成美
ランク4 『雷の魔術師』雷を使う、魔術師としてはオーソドックスな低身長女。魔術師にしては珍しく大学に通っている。雷を操るのに感電したせいで、顔の右側にリヒテンベルク跡が残ってしまった。雇われ先の四ツ橋電気とガッツリ技術提携している。
提案者 竹の子さん
及川茂雄
ランク3 『詐欺師』見せかけだけの魔法陣を出現させることができる。威力は何もない。神城学園では落ちこぼれと蔑まれていたが、意外と自分の魔術は応用できることに気がついた。
提案者 ユウさん
水島静樹
ランク5 『伸縮自在』弾力を操作できる。空中展開からの立体機動や物の変形からの爆破など、応用範囲も広い。顔はいいし能力の使い方も優れているが、カッコつけるわりに肝心なところで残念になる男。
丸 不生さん




