魔物の街 94
「ずいぶんとまー……そのなんだ。広すぎじゃねーのか?」
同盟司法局ビルの最上階。司法局渉外部本部長室に足を踏み入れたランがそう言うのに合わせて、誠やカウラは嵯峨の保安隊隊長室とその広さを比べて辺りを見渡す。保安隊本部の事務スペースすらこの部屋ですべてまかなえる広さに彼等は圧倒される。
「これはクラウゼ先任!」
応接セットに腰掛けていたこの部屋の主、明石清海中佐が立ち上がって敬礼する。テーブルの上には山盛りのもり蕎麦が置いてある。先に到着していた茜の班のうちサラと島田以外がうまそうにそれを啜っていた。特にアイシャは見せ付けるようにして蕎麦を啜って見せている。
「叔父貴が来たのか?」
茜に声をかけた要が静かに頷くラーナを見つけるとそのままずかずかとランを追い越してどっかりとソファーに腰掛ける。
「そういうこと。かなりたくさんいただいたからもうすぐ新しいのを島田君達が持ってくるわよ」
そう言ってアイシャは蕎麦をめんつゆにたっぷりとつける。
「おめえは蕎麦の食い方知らねえな?」
「いいでしょ、好きに食べたいんだから」
いつものようにアイシャに突っかかる要に苦笑いを浮かべながらランは明石に上座を譲られて腰を下ろした。
気を利かせたラーナがめんつゆを用意して、あわせるように茜が箸を配り始める。
「で、明石。隊長が来た理由はなんだ?」
めんつゆにたっぷりとねぎを入れながらランが明石の大きな禿頭を見上げる。
「ええとまあ……何からいうたらええのんかよう分からんのやけどなあ」
「とりあえず東都警察とのこれからの情報交換の窓口はわたくしが勤めることになりましたわ」
めんつゆを置いた茜の言葉に頷くラン。隣では明らかに多すぎる量のわさびをめんつゆに入れる要の姿が見える。
「おい、西園寺」
「いいだろ?アタシがどう食おうが……」
そう言ってめんつゆに蕎麦を軽くつけた要だが、そこにわさびの塊がついていたらしく一気に顔をしかめて咳を始めた。
「あせらんでもええんやで。今、島田が茹でとるさかいそないな食い方せんで……」
「うるせえタコ!」
一言明石を怒鳴りつけるがまだ口の中にわさびが残っていたようで要は目をつぶって下を向いていた。
「捜査の人手が足りない問題はこれで解決したと。で、もう一度聞くけどあのおっさんはなんか言って無かったか?」
一口嵯峨が打った手打ち蕎麦を味わった後、めんつゆをテーブルに置いたランは一気に蕎麦を口に流し込むようにして食べる明石を見上げた。
口についた汁を拭った後、明石は静かに口を開いた。




