魔物の街 84
要が手を離すと静かに座り込む島田。そしてその表情には泣いているとも笑っているとも付かない絶望的な表情が浮かんでいた。
「こんな化け物。その同類が部隊にいるなんて気持ちが悪いでしょ?」
島田の言葉が震えていた。誠は周りを見回す。だがそこには島田への恐怖など無かった。
「何を言うのよ!馬鹿!」
サラの平手が島田の頬を襲う。だが、島田は避けることなくそれを受け止めた。
「お前、それが怖くてアタシ等を避けてたのか?」
「くだらないな」
「いいじゃないのそんなこと」
要、カウラ、アイシャ。それぞれに一言で島田の神妙な顔を退けた。見上げる島田の目に涙が光っている。
「それならお父様も嫌われなきゃいけないわね」
「でも本部では嫌われてますわよ」
「リアナ。それは言わない約束だろ?」
茜に声をかけるリアナとそれをたしなめるマリア。そこにはいつもの彼女達の平静な態度が戻ってきていた。
死ぬことも、年をとることも出来ない不完全な生き物。それは嵯峨が自虐的に自分を評するための言葉だと思っていたが、誠に一番近い先輩と言う立場の島田がそんな存在だと分かると誠の頬に自然と笑みが浮かんでくる。
「なんだよ皆さん妙に冷静じゃないですか」
島田は涙声でそう言いながら立ち上がってテーブルの上のどんぶりに手を伸ばす。油揚げだけをトッピングした濃い口の鰹出汁のうどん。それを一息に啜りこんだ。
「そう言うお前も神妙な顔での告白の割には冷静じゃないか。あのさっきのテレビを見てた表情。今にも泣き出すんじゃないかと心配したぞ」
カウラの言葉に要もアイシャも大きく頷く。それを見て茜は安心したように再び端末の画像に視線を移した。次々に干渉空間を破砕しては暴れまわる肉の塊とそれを防ぐ東都警察の法術師の死闘が続いている。
「東都警察が法術対策部隊と言う切り札を切ったということもたぶんこの化け物を作った人達も理解しているでしょうね。その意味を」
誠もその茜の言葉の意味が分かっていた。嵯峨の情報網にすら引っかからない巧妙な秘匿技術を持った特殊な研究開発組織。それがこれほどの派手なところで現れるにはそれなりの理由があることはすぐに分かった。
「動くだろうな、この事件のきっかけを作った奴が」
そんな要の言葉で画面に目を戻すと、機動隊の正面でぼこぼこと再生を繰り返していた肉の塊が半分に千切れた。
「こちらが本命か」
そう言ってランは見切ったようにうどんのどんぶりを手にする。そして誠も彼女の考えを理解したいと思って画面に目を向けた。
『ぐおうおおおお……』
うなり声を上げるかつて法術師であったもの。そして周りを警戒する機動隊の法術師達は空中でどこから訪れるのか知れない第三勢力への警戒を開始した。
「なるほどねえ」
要の言葉に合わせるようにして宙に浮いている機動隊員が次々と撃墜されていく。
「非合法研究の成果のデモンストレーションにしたらやりすぎよね」
アイシャの言葉もむなしく地上からの一斉射の弾丸が叩き落されていく光景が画面を占めることとなった。




