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魔物の街 70

「忙しくなるんじゃなかったんですか?」 

 誠は思わずそうつぶやいていた。寮に着くと待っていた嵯峨は誠達に無期限の謹慎を命じた。理由は捜査権限逸脱。だが、誠は黙認していた嵯峨の突然の変身に驚きながら抗議したが、一度決めたことを嵯峨が翻すことは考えられないとカウラに窘められて黙り込んだ。

 そして誠は次の日の朝、出勤する隊員達を見送った誠達はすることも無く食堂でコーヒーを飲んでいた。

「世の中思惑通りに行かないもんだよ」 

 そう言いながらチョコレートに手を伸ばす要。カウラも平然とクラッカーを食べている。

「そうよ、誠ちゃん。焦っても何も無いわよ」 

 アイシャはニコニコ笑いながら自分専用のチーズケーキを口に運んだ。嵯峨の突然の命令に切れた島田は簀巻きにされて部屋に放り込まれている。朝、出勤する隊員達と入れ替わりにやってきたサラが部屋にいるとはいえ、不満を彼女にぶつけていることは容易に想像がついた。

「安心しろよ。捜査権限の委譲は済んでないんだ。ライラ達が出来るのは任意の事情聴取ぐらいだろうな。むしろレンジャー隊員がその得意とする交渉術を駆使して人海戦術で労せずして情報が集めてくれる。良いことだろ?」 

 見た目の子供のような姿からは想像もつかない老獪な話をつぶやくラン。そして一人日本茶を飲みながら穏やかな顔で誠達を見つめる茜の姿があった。

「ああ、そう言えばさっきレベッカが遊びに来てたわよね」 

 思い出したようにアイシャはそう言うと立ち上がった。サラより少し遅れて遠慮がちに食堂に顔を出し、そのまま非番の西の部屋に彼女が向かったのは誠も知っていた。

「なんだよ、野暮なことならやめておけよ。叔父貴にどやされても知らねえぞ」 

 そう言う要だが、明らかにタレ目を輝かせてアイシャについていく気は満々のように見えた。隣のカウラも暇をもてあましているというような表情で一言言えば立ち上がるような雰囲気だった。

「そうだな。西を指導するもの上司の務めだ」 

 ランが立ち上がる。さらに含み笑いの茜、心配そうな表情のラーナもコーヒーを飲み干して立ち上がる。

「止めましょうよ、そんなこと」 

「おい、神前。笑いながら言っても説得力ねえぞ」 

 微笑む要を見て誠もつい立ち上がっていた。そして一同はいそいそと食堂を後にして寮の階段に向かう。

「どうする?そのまま一気に踏み込むか?」 

「西園寺。それはさすがにやりすぎだろ」 

 ノリノリの要をたしなめるカウラ。だが慎重な言葉とは裏腹に一段飛ばしで颯爽と階段を駆け上がっている。呆れているラン達を尻目に誠、要、アイシャ、カウラは素早く三階の西の部屋にたどり着いていた。

「おい!上官達の訪問だ!諦めて部屋を開けろ!」 

 要がドアを叩く。誠達は呆れながら要を見つめていた。

「ああ、西園寺大尉」 

 すぐに扉が開いて西が顔を出す。すぐさま計ったように素早くアイシャが部屋に飛び込み、扉をカウラが固定しているのを見て誠も悪乗りして後に続く。

「あのー……シンプソンさん?何をしているのかしら?」 

 立ち尽くすアイシャの前にゲーム機のコントローラーを持って座り込んでいるレベッカが見えた。

「『戦国群雄伝 国盗り物語』」 

 誠も西の端末の画面を見た。そこには髭面の日本の戦国時代の武将の顔が映されている。

「渋い……って言うかなんで非番の日に部屋でこんなゲームやってるんだ?しかも二人で」 

 ただその事実に要は呆然と西達を見つめていた。

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