魔物の街 7
東都警察本部の玄関ロビーで来客用の椅子に腰かけ、両手であったかい缶コーヒーを飲むランの姿は非常に目立つものだった。さらにその隣では同じく缶のお茶を啜る和服の茜。ロビーを通る警察関係者達がこの集団に混じっている誠達を好奇の目で見るのはあまりにも当然過ぎた。
「コイツが小便行きてえとか言い出してパーキングエリアに止まったのが悪いんだよ!」
要はそう言うとパーカーのフードをいじっていた島田の頭を小突く。
「そこで喧嘩を始めようとしたのは誰だ?」
カウラの視線を浴びて後ずさる要。
「茜ちゃん。ここに来なければいけない理由。ちゃんと示して見せてね」
ここに到着したばかりだと言うのになぜか手に缶コーヒーを持っているアイシャがそう言って椅子に腰掛けている茜を見下ろす。
「そうですわね」
それだけ言うと茜は軽く周りを見回す。そしていつの間にか消えていたラーナがエレベータの前で手を振るのを見つけて立ち上がった。
「神前、刀は……あー、持ってるか」
立ち上がると言うよりソファーから飛び降りると言う調子のランが誠の手に握られた日本刀を確認する。
「なんだ?試し切りをしろって言う奴か?」
冷やかすような調子でランの後についていく要。誠も先ほどの死体の発生とこの日本刀に何の関連があるのかまるで理解できないでいた。
「とりあえず、技術開発局でパスワードを発行してもらわないといけないのでそちらに寄りますね」
全員が落ち着いたとわかるとラーナはそう言った。
「パスワード?」
最後尾を着いてきた島田の言葉。同様に茜、ラーナ、ラン以外の面々が不思議そうな顔でラーナを見つめる。
「まーそれだけ他所には知られたくねー事実なんだよ」
そう言うとランは開いたエレベータに真っ先に乗り込む。昼前と言うこともあって閑散としている。
「飯食ってくれば良かったかな」
頭を掻きながら要がそう言うと茜とランが同情するような視線で要を見る。
「なんだよ、死体かなんかだろ?アタシは腐るほど見てるから平気だよ。そうじゃなくてコイツのことだよ。どうだ?神前。結構えぐいかもしれねえぞ……しばらく肉が食えなくなるとか」
話題を振られて誠は戸惑う。死体の写真なら訓練所でもいくつも見てきたし、以前のバルキスタン戦では実物も見た。確かに食欲が減退するのは経験でわかっていた。
目の前のエレベータの扉が開くとそこには人の気配が無かった。ただ静かな空気だけがそのフロアーを支配していた。捜査活動などで忙しく立ち働いている人からの白い目を覚悟していた誠には少しばかり拍子抜けする光景だった。
「不気味だねえ」
要はそう言いながら先頭を歩こうとする茜に道を譲る。誠もまるで人の気配を感じない白で統一された色調の部屋をきょろきょろと見回しながら歩いた。
「ここですわ」
茜はそう言うと白い壁にドアだけがある部屋へ皆をいざなった。




