魔物の街 59
「同盟の軍事機構か。そりゃあ虎を引きずり出したようなもんだな。それにこの面子。全員軍籍は東和陸軍か……」
要のタレ目は笑っていなかった。吉田はその組織図にいくつかのしるしをつけていく。その数に誠は圧倒された。
「近藤事件で押収した資料に名前の載っている人間がこんだけ。隊長も目をつけている人物達だ。当然これまで近藤事件の裏帳簿を隊長が握りつぶしたことで弾劾を切り抜けてはいるが近藤中佐の帳簿が表ざたになればどういう処分が出るか……」
そこまで言うと吉田は笑みを浮かべる。隣ではまるで話を理解していないようなシャムがニコニコして猫耳をいじっている。
「あの帳簿の公表は最後の手段だからな。表に出れば同盟での各国の待遇をめぐる不満が噴出すのは目に見えてる」
要はそう言ってそのまま自分の端末に目を向ける。
「道理で情報が集まらないわけだ」
そう言ったのはサラと一緒に画面を覗き込んでいた島田だった。頭を掻きながら天を仰ぐ。
「東和陸軍を相手にするのは厚生局の面々も避けたいでしょうからね。でもそうなると同盟軍の情報機関がこの事件の調査を始めるんじゃないですか?」
島田の意見に誠も頷いた。そんな二人とサラを見て吉田は呆れたような顔をする。
「同盟軍の連中が調査を始めて今回の事件の肝である法術師の能力強制開発の技術を手に入れたらどうなると思う?あの連中は本音では地球ともう一回ガチで喧嘩したい連中だ。一騎当千の法術師を大量生産して一気に地球に派遣して大混乱を起こす。そして軍の侵攻」
「勝敗は別としてもかなり見るに耐えない光景が展開されるのは確実だな」
要の言葉を聞くまでも無く誠は状況を理解した。
「でもそうすると研究施設を発見しても軍にばれたらエンドじゃないですか!」
「そうでもないぜ」
慌てた誠の言葉を要がさえぎる。そして端末を操作して誠の画面を切り替えた。そこに映るのは近藤事件に関与が疑われている同盟軍事機構の上層部の将官達の名前だった。
「こちらも手札はあるんだ。研究所をアタシ等が先に発見すればこの上層部の連中が遅れて研究所の存在に気づいても無茶は出来ない。誰もが自分がかわいいからな」
こう言うときの要は晴れやかな顔になる。胡州軍上層部から嫌がらせに近い扱いを受けてきただけに彼女のそのサディスティックな笑顔にも誠は慣れてきていた。
「それでも調査は一刻を争う状況だな。西園寺。コイツと行ってこい」
そう言って吉田は誠の肩を叩く。
「始末書、作ってくれよな」
要の言葉にしぶしぶ頷く吉田。シャムは迷いが消えたような要の顔を見て笑顔を浮かべる。
「俺達は?」
取残された島田。吉田は見つめられるとそのまま自分の席へと立ち去る。すがるような視線を受けているシャムも目をそらしてそのまま自分の席へと向かう。
「ちゃんと私服に着替えろよ」
要はそう言うと立ち上がって端末を停止させている誠を見下ろした。




