魔物の街 5
食堂を追い出されて部屋に戻った誠は、部屋の隅に置かれた錦の袋に入っている部隊長の嵯峨惟基から拝領した日本刀に手を伸ばした。
『神前さんはお父様からいただいた刀を持っていらしてね』
部屋に戻る誠に茜がどういう意図でそう言ったのかは分かりかねた。
着替えを終えてずっしりと重い紫の袋に入れられた刀を握る誠。そしてそのまま紐を解いて金色の刺繍が施された袋から刀を取り出す。剣道場の跡取りでもある誠は何度か日本刀には触ったことはあった。しかし、柄や拵えは明らかに江戸時代の作と思われるその刀は明らかにこれまで触れた胡州や東和で作られたそれとは趣が違った。
鞘を払う。そしてそのまま自然に流れるような刃をじっと眺める。銀色の刀身。おそらくは何人かの命がその波打つ刃で奪われたのかと思うと背筋に寒いものが走る。
「おい、何やってるんだ?」
ノックもせずに部屋に入る遠慮の無いのは要以外にはいなかった。冬のよそ行きと言うようにスタジャンにマフラー、いつものジーンズと言う姿の誠が正座をして真剣を眺めている光景はあまりにもシュールだったので要は呆然と立ち尽くしている。
「誠ちゃん!切腹でもするつもり?良いから来なさいよ!」
デリカシーの無いアイシャの一言に誠は我に返ると刀を鞘に納め、袋に仕舞って紐で閉じる。
「自衛に日本刀か?叔父貴みたいな奴だな……ってあれも実際は拳銃くらいは持ち歩いているけどな」
諦めたような要の声。誠もただ苦笑いを浮かべながらそのまま階段を下りて踊り場にたどり着く。
「遅かったな、神前。じゃあ茜の車にはアタシと神前とサラとラーナで」
「クバルカ中佐!なんで俺がカウラさんの車に……」
『それはこっちの台詞だ!』
抗議しようとした島田を声を合わせてアイシャと要が怒鳴りつける。哀れにのけぞる島田。サラが心配そうに彼を見つめる。
「じゃあ行きましょう」
茜はそう言うとそのまま玄関を出た。冬の空は雲ひとつ無い。吹きすさぶ風。茜は楚々として寮の隣の駐車場に止めてある電気駆動の高級乗用車に向かう。
「そう言えば何でこれが……」
誠が手にしている日本刀を茜に見せようとしたとき、茜は自分の車のトランクを開けた。
「それはこちらに」
問いに答える代わりに茜が手を伸ばす。仕方なく誠は茜に刀を手渡した。
「アイツ等……」
呆れたようにランがため息をついた。その視線の先のカウラの赤いスポーツカー。いつも出勤に使っている車の前で島田と要が怒鳴りあっている。
「放っておきましょう。子供じゃないのですから」
そのまま茜は運転席のドアを開ける。誠とサラは借りてきた猫のように静かに後部座席のドアを開く。
「ちょっと香水が効きすぎているかしら?大丈夫?」
後ろの二人を見てにっこりと笑った後、シートベルトを締める茜。すぐにモーターの力がタイヤにつながり、車がバックを始める。
「まああいつ等もナビでこっちの位置を特定できるんだ。迷子にはならねーだろうしな」
ランの皮肉めいた言葉に釣られて笑う誠。茜の車はそのまま砂利のしかれた駐車場を出た。




