魔物の街 21
「それは高梨に言ったんだが……手続き上無理なんだと。それと……アイシャ。少しは自重しろよ。オメーが一番古株組みじゃー階級が上なんだからな」
そう言って悠然とランはお茶を飲む。
「上は今度の魚住の旦那の同盟軍教導部隊のことで頭がいっぱいで、うちには余計な予算はつけたくないのが本音だろうからな」
今度は白米を口に運ぶ要。誠も言いたいことは理解できた。
胡州帝国海軍第三艦隊のエース。前保安隊副長明石清海中佐と並んで『播州四天王』と呼ばれる魚住雅吉大佐を隊長とする『遼州同盟機構軍教導部隊』。同盟機構の軍事機関の正式発足に伴い西モスレムで編成される部隊には前保安隊管理部部長アブドゥール・シャー・シン大尉も引き抜かれていた。
人的損失もくらった保安隊である。予算が削られることも当然想定できた。
「まーな。だからオメー等にはきっちり仕事をして……神前。食い終わったらすぐに出る支度をしろ!」
ランにそう言われて誠は我に返って立ち上がった。ランが何も考えずにここにいるわけではないことは誠も分かっていた。そのままトレーをカウンターに返すとそのまま食堂を出て階段に向かう。
「あら、神前さん。お食事は済ませましたの?」
階段では隣に従者のように西を引き連れて寮を案内させている様子の茜とラーナがいた。
「すいません。すぐ支度をしますので!」
そう言って誠はそのまま階段を駆け上がった。
二階の自分の部屋に素早く入ると誠はまずプラモの並んでいる棚に目をやった。隠しカメラ。隠しマイク。ともかくそれらしいものを見つけようとするが、考えてみれば非正規部隊出身の要が絡んでいれば誠のような素人に見つかる機材を使うわけがないと思い返してあきらめる。
「あの人達に関わったのが運のつきか……」
思わず天を仰ぐ誠。そして体を畳に投げ出した。引っ掛けたジャケットのぬくもりで二度寝に入るような感覚にとらわれながらうとうとする誠。
「おい!」
目の前に要の顔があってびっくりして起き上がり、彼女の額に頭をぶつける。
「起こしてやってこの仕打ちか!」
要に怒鳴られようやく自分がうとうととしていたことに気がついた。
「行くぞ!」
カウラは素早く扉から身を翻す。誠は立ち上がって要達に続いた。
「珍しいわね……ってまさか!」
「おい、アイシャ。昨日はアタシがコイツを眠らせなかった……とか言う妄想は自分の部屋でやれ」
階段を下りながらいつものようにアイシャに突っかかる要。
「おう!それじゃあ行くぞ!」
ラーナに靴の準備をさせて待っていたラン。いつものようにその隣ではほんわかとした笑顔の茜が紫小紋の着物姿で待っていた。
「車はこれ以上乗れねえぞ!」
要はそう言うが、誠はたぶんラン達は茜の車で出勤するだろうと思って生暖かい視線で機嫌の悪い要を見つめていた。




