魔物の街 2
「ったく!アタシが言いてーのは!」
「それは後にしてくださいな。クラウゼさん、ベルガーさん、西園寺さん……」
明らかにいつもと違う調子の茜を不思議に思いながら空いていた厨房に近いテーブルにポットを運ぶ誠。
「こちらにどうぞ!」
誠の言葉でプラモデル用塗料の臭いが染み付いた新聞紙の敷き詰められたテーブルから移動する要達とまっすぐ出入り口からやってくる茜達。
「おー、かりんとうか。アタシはこいつ大好きなんだよな」
そう言うと一番に誠の手前の席に座ってかりんとうに手を伸ばそうとするランだが、小さな彼女が伸びをしたところでプラモデルの塗料があちこちについているエプロンをした要がそれを取り上げる。
「何すんだよ!」
「やっぱ餓鬼だねえ。甘い物が好きだなんてよ」
まるで子供のような要の嫌がらせ。そしてにらみ合う二人。アイシャとカウラはそのエプロンを元の席に置いて、作業用の安物のジャージ姿でテーブルに腰掛ける。
「お二人とも、およしになってくださいな」
おっとりとしてはいるが、明らかに力の入った茜の言葉を聞いて要がかりんとうの入った器をランの手の届くところに置いた。ランは目つきの悪い顔で要をにらみつけた後、一個のかりんとうを手にすると口に運ぶ。
「非番に御用ってことは、目的は誠ちゃんかしらね」
素早く自分のかりんとうと湯飲みを確保するとアイシャはそう言って静かに安物の椅子に腰掛けた和服の茜を見つめる。
「そうね。いえ、法術特捜の外部協力員全員。つまり保安隊の方々にもご協力いただく必要のあることですわ」
そう言って上品に湯飲みを取り上げる茜。自分の作法にはこだわるが人のそれには頓着しないと言う彼女の思想を裏打ちするように、ばりばりとかりんとうを頬張ってぼろぼろかすをこぼす茜の部下のカルビナ・ラーナの姿に誠は苦笑いを浮かべた。
「それじゃあ俺等は邪魔なんじゃ……」
そう言って島田が茶を啜る。隣ではサラが大きく頷いていた。
「まあ、乗りかけた船だろ?それに良い経験にもなると思うぜ」
ようやく手に入れたかりんとうをおいしそうに食べながらランがそう言った。納得できないような表情を浮かべながら島田がかりんとうを口に運ぶ。
「でも、非番の日に来ると言うことは正規の任務とは別の微妙な問題なんですね」
これまで周りの人々の話をじっと聞いているだけだったカウラが口を開く。茜はカウラを見つめて静かに微笑む。
「やはりベルガーさんですね。まあ公的な拘束は受けたくない事件であることは確か間違いありませんわ。そして……」
そう言うと茜は手にしていた巾着から時代遅れの紙の手帳を取り出す。そして付箋の貼ってあるところを開くと、挟んであった写真を取り出した。




