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まるで今までの暑さも恐怖もなかったように夜の暗闇が街だった場所に静けさをもたらす。


そう、あの醜く哀れな魂が物々しさを残すことなく祝福されたのだ。一体なにが起きたのかわからない。


女神からの祝福。それは、光の女神の輪から外れてしまった哀れな魂を女神の身元に返すための光魔法。しかしその魔法は困難だ。女神にも近い魔力と光属性を持たなければ完全な女神からの祝福は行えない。故に、祝福を行ったあとは物々しさとしこりを残す。


光魔法を使い灯りを打ち上げる。


炎が消えた場所にはあの少女がぐったりとしていた。瞳は開いているが死んだように光を失ったままだ。


何よりきになるのは、翡翠色だった髪が漆黒に染まっていた。そして、その隙間から覗く光を失った真っ赤な瞳が彼女を違う種族であり危険な者だということをものがたっていた。結っていた髪は解け、町娘がよく着るような彼女の服は炎で焦げボロボロになっている。ここまで仕上がって仕舞えばもう言わずに入れないだろう。


しかし、フェルベメールは気づいていた。目の合わせたことのあるあの赤い、冷たい瞳を。


よもやまさか…と。


「…はは、まさに神のみわざだね」


動揺しているのか、乾いた笑い声と共に少し恐怖を含んだエルムの声が静寂に響く。


うすうす、この女の存在にエルムも気づいているのだろう。いや、頭のいいあいつが気づかないはずがない。



よもや、女神という存在がこの世に存在しているとは。

女神という存在は1つ、聖女という存在がいてはじめて疎通ができるもの。

2つ、聖女に限り精神体のみで女神と会うことができる。

女神という存在は、地上に降りればその地は荒れ、或いは豊かになりすぎその影響力は世界をも変えるとされている。

故に、女神という存在しているということ自体がおかしな話なのだ。


「おい…」


意を決して話しかける。



「………ぅっ!!はぁはぁはぁ」


冷汗を大量に流し、全身に酸素を取り込ませるために肩を上下させ息を吸う。


ああ、久しぶりだからきっつい

すべてを受け止めきった私の魂はひどく疲れていた。いつぶりだろうこんなに魂が疲れる闇の力を使ったのは。

そんな愚痴を思いながらも、何かを抱きしめるその手で優しくそれを撫でた。


「まったく、世話かけさせてくれるわね、ハーマー」


『ごめんね、ごめん。ディモンシー』


抱えんでいた手を緩めるとゆるゆると火が小さく現れた。ハーマーだ。

いつもよりだいぶ小さく今にも消えてしまいそうだ。


「ううん、あなたはなにも悪くない。…悪くないわ」


『……』


弱々しく揺れる火は徐々にその光を失っていく。


「………眠っていいのよ、安心して私が送り届けるよ」


そして音を立てることもなく消えてしまった。


そう、消えてしまったのだ。


火の精霊は強い。火は調和を守るために調和壊す精霊。だが、そんな強い彼女も自然に帰ってしまった。精霊はみんなそう。背負えない思いや力の暴走で均衡が崩れれば、崩れた均衡を補正するかのように消えてしまう。いや、自然に帰ってしまう。精霊という存在は自然が豊かで穏やかであることの象徴。故に乱れたことが起これば存在してられなくなり自然に帰るのだ。

しかし彼女という、ハーマーという存在が消えてしまったことに変わりはない。


「おいっ」


声のする方に目を向けると存在そのものが光だとでもいうような純粋無垢な彼がいた。


ああ、眩しいな

いろいろなことがありすぎて、頭がついていかない。

とりあえず、


「眩しいからもっと離れて」


しっしと手で彼を追いやると私はハタハタと服のホコリを取り立ち上がる。

目に付いたのは解けた黒い髪。


「なにが起こっておる!!!」


ガシャガシャと音を鳴らしながらやってきたのは神殿で見たあのうるさいおじじだ。


「ひやぁあ、忌子がいるわ!!!」


「忌子だ!忌子が出たぞ」

「ちょっと誰か早くどっかにやってよ!うちの子に汚れがうつるわ」

「なんてことしてくれたんだ!俺の家がパァじゃないか!くそっ、殺してやる!」

「黒い髪に赤い瞳、なんておぞましい」

「あの火事は忌子の仕業だったんだ」

「ばあちゃん俺悪い子だったから」

「逃げろ、殺されるぞ」


いつの間にか街人がぞろぞろと集まってきていた。忌子忌子とうるさいな。


「フェルベメール様、光の女神のお力でどうか闇に愛されているあの邪悪な忌子に光の女神の祝福を」

「そうですわ!!フェルベメール様!」

「闇に愛されてるなんて汚らわしい!」


「若造が出る幕はない。このノラハマーンが排除してしんぜよう」


鼻をフフンと鳴らし得意げに前に出る。そして躊躇なくその剣を抜いた。


どうしてこう、人間は自分勝手なんだろ?

自分勝手にくるくる物事が回っていく。まるで自分以外誰もいないみたい。


黒い髪に赤い瞳。そして、長いエルフにも似た耳を持った種族。


魔族。


私の可愛い可愛い子供達。


今ではおとぎ話にもなってしまった。忘れられた種族。3000年前、人族と魔族の大きな戦争があった。まるで闇と光が対立するのように、決められた定めかのようにその戦いの火は切って落とされた。


結末は言うまでもない。


停戦の無有も返す間もなく、我々は攻め落とされた。世界一の魔力を誇る私の子供たちがあっという間に血肉に変わる。


なにがあったのか、誰がそうさせてしまったのか思い出したくもなかった。

自分の感情のまま怒りをぶつけていいと慰めた、妹たちは知らない。唯一無の中で生きた私に与えられたものを。


私の力はすべてを無へと帰す闇を司る力。同時にそれはすべてを受け入れ許し輪廻の輪に帰す無償の愛、許しという名の愛。

そして、永遠の汚れを背負う器。



くるっと振り返る。そして、街人、そしておじじを見る。


いつだったか…いや、3000年前に一度こんなことをした。戻るはずない者たちが戻ることを祈って。よもや、こんな理由でこの魔法を使いことになろうとは。



今回はただの忘れてしまった人族への皮肉。



魔法陣が炎で焼け焦げた街に広がる。青い淡い光を放ちキラキラと輝き出す。すると、みるみるうちにそこには元の街の姿があった。


その魔法と同時に変身魔法を唱える。髪は銀髪へと変わり瞳の色は金色へと変わる。


幻想的なシュチュエーション。唖然とする街人。まさに劇的な演出。目を離して物事を正常に判断できる者などごくわずか。

しかしその者の声など小さきもの。


人間とはひどく脆く儚いもの。ほんの小さな奇跡にも輝きにも目を光らせ夢を見る。

いや、違うか。自分の目に信じられない物事をこぞって崇拝したがるのだけか。


私は一歩前に出ると、首都からわざわざこんなところまで出向いていた例のフェルベメールたちににこりと微笑んだ。


「光の女神ヒミラリアの小さな騎士よ。ありがとう、あなたのおかげで街は救われました。ここに生きる人々の魂は救われたのです」


「おお、女神が…」他の騎士たちと違い。彼は怪訝そうな顔をしたけれど。こういう時になにを言っても無駄だと理解してるんだろう。口には出さない。


「祝福と褒美を与えましょう」


忘却魔法を展開させる。


ありがとう、ヒミラリアの加護を受けし小さき騎士さん。お前のおかげで長く止まりすぎたここを離れる理由ができたわ。

年をとるのはやーね。情が移ってしょうがない。

_____早く、終われ


今夜の火事はすべてなかったことに。すべては悪い夢。明日目が覚めた時にはいつもと同じように気持ちのいい朝が待ってる。

さようなら、マカロン、ミフィーユ、ルナ、市場のおじさんたち、井戸端会議のおばさんたち、空き地で遊ぶ子供たち、本を読み聞かせてくれる本屋のおばさんに、教会でいつも話を聞いてくれるシスター、イケメンはどこっていつも品定めしてる腹黒なお姉さんたち、民兵のみんなに、定食屋さんのおじさん、口はうるさかったけど頼りになる領主様、生意気で私は嫌いなタイプのガ…次期領主様、わざわざ遠くから買いに来る商人に、マダムたち……


早く早く_________


全部全部、私が持って行きます。


私、1人がいなくなってもきっとなにも変わらない。


この世界はそれだけ命が軽い世界だもの


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