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「フィン!」


この時の私を褒めて欲しい。



私はハマロフィンを異空間へと押しやった。その瞬間、激動が肌を震わす。体を圧迫するほどの魔力による圧力。耳を潰したくなるよな怨念にも似た誰かの叫び。身体中の血がふつふつと湧き上がるような怒り。


ああ、エルフの母ハマロフィンが怒っている。


私はハマロフィンの腕を取る。

バチンッ、

しかし、私の想いは届かない。はたき落とされた手がジンジンする。


「よくも!よくも私の子を!人間風情が!俗物がぁああ!!」


この世界が生まれて今日に至るまでエルフが下界から隔離されていた理由はこれだ。

威厳と風格の塊ハマロフィン。


私の作る異空間には闇しか存在せず。大地の母であるハマロフィンは力を発揮することができない。ジタバタと暴れまわるハマロフィンは闇の中をただ流れていくことしかできない。そのうちどこまでも落ちていく深い闇に苛まれ正気を取り戻すことだろう。


迂闊だよ。ハマロフィンの心が定まってないのにエルフ以外の種族をこうも簡単にここに入れたら。ここは彼女の箱庭。エルフの為だけの彼女の箱庭。でも、それをハマロフィンは止められない。子供のしようとすることに口出しできないんだ。彼らも一生命だから。大地の母である彼女はそれをよくわかっている。でも、だからこそ些細なことで黙ってられない。


「八つ裂きしてやる!爪の皮を一本一本剥いでやる!一瞬だと思うな!!じわじわと痛みを与えてやるわ!眠らないよう火のコテで目を覚まさせてあげるわ!!お前の大切な人を1人ずつ殺してやる!!私の気がすむまで殺してやるものか!!」


冷たい水の雫が宙を舞う。

ハマロフィンの手が宙をかすめる。闇に虚しい空気を割く音しか聞こえない。


ほんとは、この国を離れていく子供達のことが嫌なんだね。ほんとはもっともっと近くで可愛がっていたいんだよね。分かるよ。分かるよフィン。でも、でもねフィン。私たちではどうしようもできないよ。子供達は親の気持ちも知らないで勝手に育っていってしまうんだから。

ハマロフィンは子供達に好かれる嬉しさ無邪気に話しかけてくれる嬉しさを知ってしまった。もっと見てみたい。もっとこの子たちのいろんなところを見てみたい。一人一人こんなにも違って守ることだけが、従順に育てることだけが母親の役目じゃないことを知ってしまった。


子育ての楽しさを知ってしまった母親は未来のあるこの子たちがどこまでいけるか見てみたくなるもの。


「ぁぁぁあああ…」声にならない叫びが静寂を染め上げる。






月明かりが樹々のは一枚一枚を輝かせ美しく翡翠色が反射し幻想的な世界を作り出す。

誰もいなくなった静かな夜に彼は佇んでいた。置いてけぼりをくらった子供のように。


「…」


彼女のビンタを食らった左頬が赤く染まっていた。それほど強い力だったのだろう。だが、カルーヤにはその頬を叩いた強さなどわからなかった。


「……………」


風が葉を揺らす。

カルーヤの寂しい気持ちを感じ取ったのか精霊たちがふわっと姿を表す。そして、また彼らは歌うようにカルーヤを照らした。しかし、ふとピタリと動きを止める。そして、光を散らすように消えていった。


変わらず、風が葉を揺らしていく。金髪の髪を風が遊ぶように揺らしキラキラと月明かりを反射させる。穏やかで、幻想的な風景。ひとつ違うことがあるとすれば彼の周りに精霊が1人もいないということ。


「……カンナ…」


小さく呟いた言葉は風に煽られて正しい音で広がることなく掻き消された。

「ちくしょうが…」ふっと、顔の力が抜けその言葉とともにゴロンと草原に寝転んだ。目を開け見上げると星がキラキラと夜空を照らしていた。


「なんだ、なんなんだ…。カン……下界の種族とはよくわからん!」


むず痒くなって飛び出した言葉が夜空に飛びだし、そして消える。


「あー!たいちょー!こんなところにいたんっすか」


いわずもがな、静かだった夜をうるさくするのはハイロードだ。


「…………なんだ」


「随分、不機嫌っすね」


口から出た言葉はなんとも不機嫌を表に出すことを厭わない捻くれた冷めた声だった。しかし、ハイロードも同じく流すように言葉を躱す。その態度にカルーヤはさらに不機嫌になったようだ。


「ふて腐れるのはいいっすけど、若頭が呼んでるっすよ」


「なっ、別に不貞腐れてなど…」


視線を上げるとニヤニヤと何かを察しているハイロードの笑顔があった。カルーヤは赤く染まった頬を片手で隠す。そして、羞恥心が表に出るのを抑える脳に瞬きを繰り返す。

そして、考えに考えた末出した苦渋の策が視線をそらさず睨み上げるというものだった。


して、どれだけの時間にらめっこをしていただろうか。

結論から言うと負けたのはハイロードだ。


「あはっはははははは、っふく、ぷぷ…そりゃないっすよ」


笑い出した。盛大に笑い出したハイロードにカルーヤは怒りと恥ずかしさの入り混じった顔で「なにを笑っている!」と大声を張るがそれももはや笑わす材料でしたかない。


「はは、いいんじゃないっすか!」


「そんなに、笑うな!馬鹿にしてるのか!!」


「はは、そんなことないっすよ。ただ、散々今までやりたい放題やってきたのに今更すぎてたいちょーらしいなっと思っただけっすよ」


「なっ」


「そうそう、そういうところ俺とアイシャは大好きっすよ」


「っ…」


カルーヤは口を開けて止まってしまっている。そんなアホ面をかましているカルーヤにハイロードはニヤリとする。なにか、面白いことを考えたらしい。


「あはん、カルーヤたいちょー愛してますぅ」


カルーヤが一瞬にして攻撃態勢になったのは言うまでもない。


「くそっ気持ち悪い!離せ!」

「なんすか!これやって欲しかったんじゃないっすか!」

「どこがだ!!やめろっ」

「痛っ!!ちょっ、なにも本気で殴ることないじゃないっすか!手加減ってものを知らないっすか!」

「っ、自業自得だろうが!!」

「情けようじゃないっすね!でも、そんなところも俺は好きっすよ!」

「だから!気持ち悪いからやめろ!!!」


襲ってくるハイロードをカルーヤは容赦なく攻撃する。


「えー、みんなの気持ちを代弁していってあげてるのにー…。たいちょーってばひどいっすよ」


「だから、それをやめろ!言われなくても…!」

どこからともなくまた精霊が集まってきた楽しそうな声につられてやってきたようだ。


『楽しいことー』『お祭りー?』『遊んでー』


精霊たちのきゃっきゃする声でその場の空気を全部持ってかれた。


「……」

「ほらー、なにやってるんすか。早く行かないと若頭に怒られるっすよ」


「お前のせいだろ!!」


「そうでしたっけ?」


呆気からんと知らぬ存ぜぬをするハイロードを追い越し1人でにずんずんと進んでいく。

ハイロードは「やれやれ」と笑い何か決意を秘めたカルーヤの後を追った。





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