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異界に迷った能力持ちの殺人鬼はそこで頑張ることにしました  作者: 瀬木御ゆうや
第2章 結婚する相手はどんな人を選ぶべきだろうか
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48話 エルフの国

彼らは歩き続けた。

道中余計なことを喋るシャデア。

それを無視しながら歩みを止めないナナシ。

そんな彼の腰に猿轡をされて麻袋に入れられ括り付けられた生首だけの切り裂きジャック。

奇妙な彼らは歩き続けた。


道中、オータニア国に向かう馬車を拾って乗せてもらおうと考えたが、その肝心の馬車は最後まで現れず、代わりに騎士が数名馬に乗ってやってくるぐらいだった。


「あれに相乗りさせてもらいましょうよ!」


シャデアは時々そう言うが、ナナシはシャデアがそう言うたびに「アホか」と言って認識出来ないように『能力』を使って騎士達をやり過ごす。

そうする度にシャデアは不満な顔になって頬を膨らませる。

ナナシとしても早くまともな宿に休みたくて仕方ない。だが、これにはナナシなりに訳があった。


「この近辺にいる魔獣が男女1組だとして、俺たちが目の前に出てみろ。その情報がもし騎士達に知られていたら、それこそ面倒だ」

「でも認識変えれば良いんじゃないですか?」

「それもそうだが…それよりも俺は馬とか乗ったことないから、この疲れた身体で乗るのも少し嫌だってのもある」

「何ですかそれ、ただのわがままじゃないですかー!」

「うるさい、これでも俺なりに今後どう動けば良いか考えてんだ。黙って歩け」

「ナナシさんの運動神経ならいけますよ、多分」

「…」

「無視ですか!?」


そんな不毛な会話を幾度も行う。

しかしナナシも実際には馬に乗って移動してはみたいとは思っていた。馬ならば馬車よりも早く移動ができるかもしれないし、運が良ければ相乗りもできるかもしれない。

確かに認識を変えれば何かと都合もいいが、範囲外に出れば効果が無くなることが不安だった。


効果が切れると、認識を変えていた相手の認識も180度変わるということ。

例えばお米とパンの認識を反対に変えて対象者に食べさせるとする。パンとお米の存在を知らずに食べればその対象者にとってのパンはお米に、お米はパンになる。

しかし、すでにパンとお米がどういったものかを知った上で能力を使われると、効果が続くうちはパンとお米を誤解して食べるが、解いた途端に今まで自分が食べていたものの記憶を思い出してパンとご飯の認識は正しくなる。

騎士達に能力を使った時にも同じようなことが起きる。

平原で男女を拾い、快くオータニア国に連れて行ってもらっても効果及ばない範囲外に行かれた瞬間に男女1組の魔獣についての情報を知っていて、それを思い出されでもすれば彼らに追われかねない。

ナナシはそんな追跡など恐れる事もない、前の世界では能力を使ってのらりくらりと過ごしてきたのだから。

だが、この世界に来てからは勝手が違う。

誰も知り合いがいない世界で組織に監視される事もなく、一軒家も買って悠々と過ごす。その生活が快適…とはいかないが、しばらくの間は追跡などといった前の世界では嫌というほど味わった面倒なことには巻き込まれない。

そもそも、1番の理由としては歩き疲れているナナシは今からずっと認識を変える力を使ってさらに疲れるのはもう嫌なだけ、それを胸のうちに呟いて黙々と歩き続ける。

さて、そんな2人は通り過ぎる馬や行商人を見送りながらも少しずつオータニア国までの距離を詰めていく。

歩き続けて3日、馬車でも1日かかる道の終わりの向こうに大きくそびえ立つ大木が見えた。


「ここがオータニア国、エルフ族が住んでいる国です」


デザールハザール王国と同じように大きな門と壁に覆われた国の真ん中に生えているであろうその大木、見た事もないほど大きなその木にナナシは唖然としてしまった。

ここに来るまでにもチラホラと見えていた木だが、ナナシにとってはその木がここまでデカイとは信じられないでいた。まだ国に入っていないので間近ほどではないが、それでも天辺が見えないほどにデカイ。


オータニア国、エルフの住む国。

この世界の全容がまだ分からないナナシにも、それはまさに現実離れの国だということが分かってしまう国。

だからこそ、少し笑ってしまう。

心の内で、エルフというものを殺したくなってしまう。

抑えていた殺人衝動は、ここでタカが外れてしまいそうだった。


(マズイかもな、さっきのドイツ人を殺しても物足りなかったが、ここだと何があるか分からなくて余計に殺したくなる)


ナナシは良い人ではない。

婚約を無しにする。それだけで来たのだ。

だからこそ、この性には逆らえないのかもしれない。

彼は心の内で笑って、オータニア国の門前に来た。

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