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閻魔ハナ

11/7 加筆修正しました

****


はっとして目が覚めた。


夢から覚める一拍前、息を止めたのだろうか。

はっはっと短い呼吸を繰り返しながら、ハナは身を起こした。

ぎしり、と寝台が軋む。

気温がそう高いわけではないのだが、

寝汗で寝間着がぐっしょりと濡れている。気持ちが悪い。


――またあの夢を見ていたのだ…


「またあの夢を見た」と感じているのに夢の内容はさほど頭に残っていない。


ハナは額に浮かんだ脂汗を、手の甲で拭いながらため息をつく。


嫌な汗をかいたが、悪夢だったのかと聞かれると正直よくわからない。

もう一度同じ光景に立った時、これが嫌な夢なのかそうでないのか思い出す――そう毎回のことだ。


目が覚めた後まで、夢の中の感情を引きずることもなく(というか覚えていない)、

「よく見る夢をまた見た」という認識でしかない、「毎回のこと」で済ますことができるので、支障はないのだろう。


カーン カーン カーン


遠くで鐘が鳴っていた。


――鐘の音3回。


死者の魂が霊界の門をくぐったことを知らせる音だ。


ハナは急いで立ち上がり、慌ただしく身支度を始める。




――仕事だ。









******








ギイギイ…

ギイギイ…



渡し舟は軋んだ音を出しながら、三途の川を横切っていた。

本日の川の流れは至って穏やかなはずなのに、舟の軋む音がうるさい。

舟はカビのせいなのか、ところどころ黒ずんでいる。浸水もよくするからつぎはぎだらけである。

一言でいえば、ボロイ。


 (この舟に愛着があるといえばあるが…そろそろ経費予算に組み込んでくれないだろうか)


ハナは遠い目をした。叔父であり養父である閻魔大王の顔が浮かんだ。厳しい表情かおを浮かべている。

そう――自分が一番下っ端なのだから、古い舟を使うのに文句は言えまい。



ギイギイ…

ギイギイ…



舟がく音を聞きながら、かいを操作する。

櫂はくらい水の中を浮き沈み、水流を自由に割る。

水底は伺えず、櫂をつきさしても底につくことはない。

ただただ昏い闇が広がっているこの川に落ちれば、そのまま冥界へたどり着くのだと聞く。


(この川は、やはり現世うつしよものとは違うのだろうな)



現世うつしよが生者の住まう世界なら、

幽世かくりよは死者の世界だ。


幽世には4つのみやこがある、といわれる。

全ての魂の父である精霊王せいれいおう御座おわす精霊界。

人の魂を現世に産み落とす、天帝てんていが統べる天上界。

死者が――主に生前の罪業つみが重い死者が住まう国・冥界めいかいには、冥王ハデスが君臨する。


そして閻魔庁の大王おおきみを筆頭にした霊界は、死者の生前の罪業を暴き、罪と罰の重さを測り天秤にかける。魂の、次の行き先を決めるみやこだ。

ハナはそんな霊界ところで暮らしている。


――そう幽世には4つの界がある、といわれる・・・・

伝聞でしか表現ができないのは、精霊界という存在をハナが身をもって経験していないから――それに尽きる。


ぼんやりとそんなことを考えながら櫂を漕いでいると、目的の船着場が見えてきた。





****




舟を杭に固定し、ひときわ大きな軋みと共に地面に降り立つ。


大小不揃いの岩石がごろごろ転がっている河原である、非常に歩きにくいが、

歩き進める内、まちまちの大きさだった岩石ははやがて砂利と変わった。


ザクザクと歩きながら、周囲を見渡す。


(恐らくここらへんだと思うのだが…)


鐘のあいずがあってから、さほど時間は経っていない。


ひたと視線が止まる。


果たして探していた人物だろうか?




視線の先に―――人が倒れていた。








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