閻魔ハナ
11/7 加筆修正しました
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はっとして目が覚めた。
夢から覚める一拍前、息を止めたのだろうか。
はっはっと短い呼吸を繰り返しながら、ハナは身を起こした。
ぎしり、と寝台が軋む。
気温がそう高いわけではないのだが、
寝汗で寝間着がぐっしょりと濡れている。気持ちが悪い。
――またあの夢を見ていたのだ…
「またあの夢を見た」と感じているのに夢の内容はさほど頭に残っていない。
ハナは額に浮かんだ脂汗を、手の甲で拭いながらため息をつく。
嫌な汗をかいたが、悪夢だったのかと聞かれると正直よくわからない。
もう一度同じ光景に立った時、これが嫌な夢なのかそうでないのか思い出す――そう毎回のことだ。
目が覚めた後まで、夢の中の感情を引きずることもなく(というか覚えていない)、
「よく見る夢をまた見た」という認識でしかない、「毎回のこと」で済ますことができるので、支障はないのだろう。
カーン カーン カーン
遠くで鐘が鳴っていた。
――鐘の音3回。
死者の魂が霊界の門をくぐったことを知らせる音だ。
ハナは急いで立ち上がり、慌ただしく身支度を始める。
――仕事だ。
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ギイギイ…
ギイギイ…
渡し舟は軋んだ音を出しながら、三途の川を横切っていた。
本日の川の流れは至って穏やかなはずなのに、舟の軋む音がうるさい。
舟はカビのせいなのか、ところどころ黒ずんでいる。浸水もよくするからつぎはぎだらけである。
一言でいえば、ボロイ。
(この舟に愛着があるといえばあるが…そろそろ経費予算に組み込んでくれないだろうか)
ハナは遠い目をした。叔父であり養父である閻魔大王の顔が浮かんだ。厳しい表情を浮かべている。
そう――自分が一番下っ端なのだから、古い舟を使うのに文句は言えまい。
ギイギイ…
ギイギイ…
舟が啼く音を聞きながら、櫂を操作する。
櫂は昏い水の中を浮き沈み、水流を自由に割る。
水底は伺えず、櫂をつきさしても底につくことはない。
ただただ昏い闇が広がっているこの川に落ちれば、そのまま冥界へたどり着くのだと聞く。
(この川は、やはり現世の川とは違うのだろうな)
現世が生者の住まう世界なら、
幽世は死者の世界だ。
幽世には4つの界がある、といわれる。
全ての魂の父である精霊王が御座す精霊界。
人の魂を現世に産み落とす、天帝が統べる天上界。
死者が――主に生前の罪業が重い死者が住まう国・冥界には、冥王が君臨する。
そして閻魔庁の大王を筆頭にした霊界は、死者の生前の罪業を暴き、罪と罰の重さを測り天秤にかける。魂の、次の行き先を決める界だ。
ハナはそんな霊界で暮らしている。
――そう幽世には4つの界がある、といわれる。
伝聞でしか表現ができないのは、精霊界という存在をハナが身をもって経験していないから――それに尽きる。
ぼんやりとそんなことを考えながら櫂を漕いでいると、目的の船着場が見えてきた。
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舟を杭に固定し、ひときわ大きな軋みと共に地面に降り立つ。
大小不揃いの岩石がごろごろ転がっている河原である、非常に歩きにくいが、
歩き進める内、まちまちの大きさだった岩石ははやがて砂利と変わった。
ザクザクと歩きながら、周囲を見渡す。
(恐らくここらへんだと思うのだが…)
鐘の音があってから、さほど時間は経っていない。
ひたと視線が止まる。
果たして探していた人物だろうか?
視線の先に―――人が倒れていた。




