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序章
――女が泣いていた。
美しい女だ。
どうか助けてほしい、何を代償にしても構わない、だからどうか――!
女はそう言って目の前の男に懇願する。
救いを求めるかのように伸ばした手は男まで届かない。むなしく宙を彷徨い空気を掴み、
拳をきつく握ったまま床に落とす。
ハナはこれは夢だとわかっていた。
よく見る夢だ。
この女のことを自分は全く知らないし、
夢から覚めた瞬間、この女の顔を思い出せないのだろう。毎回のことだ。
何度か見た夢の光景にいると悟った瞬間、この美しい女の顔はこんな感じであった、と思い出す。
これも毎回のことだ。
カーン カーン
遠くで鐘が鳴る。
女の顔をもう少し見ていたいという明晰夢のなせる業か――
ふと女と目が合った。