99式APE プロトタイプ【蒼騎】は、人類に死をもたらすペイル・ライダー
・
【全天候揚空護衛艦リスキー・ビスキー】
当初は、地球の有機物資源を採取する為の部隊を運搬した、
揚空 (ようくう…船体の形状を利用し、揚力を得て滑空する)輸送艦であった。
そして、一度リスキー・ビスキーは退役し、国連軌道宇宙軍の奨学生を教育する、
実地研修船としての新たな人生を歩んでいた。
そして今、
リスキー・ビスキーは、第三の人生を歩む事となる。
「全天候揚空護衛艦」
全く武装していない状態だった教育船の船体に、45口径40cm電磁投射砲1門
空対地EHM40発、
30ミリ・バルカンファランクス4門が取り付けられ、
リスキー・ビスキーは武装した船となったのだ。
それはもちろん、間近に迫るクリスマスに備えて。
リスキー・ビスキーが今係留されているのは、ドーナツ型コロニーである【中京】の中心。
宇宙港に隣接する、国連軌道宇宙軍所有のドック。
乗組員達は「陸」に降りて、それぞれが待機指示の元での日々を過ごしているが、
今、改装作業に従事する大勢の作業員達に混じり、情報保全部のメリル特務少佐と、カオルの母であるレイコがいた。
場所は艦内の格納庫。
既に、不要の教育実習用のPEEVAは撤去・搬出され、
キング・アーサーから移動して来たAPE、ジュリエット2小隊が駆る、
愛機15式APE【閃華】三体が、メンテナンス台に固定されている。
そして、その奥…格納庫の一番奥。
作業灯も照らさない、薄暗い格納庫の隅っこに、
開封すらしない、中に何が入っているかも不明な、巨大なカーゴが四つ。
メリル少佐とレイコは、そのカーゴの前で浮遊していた。
メリル少佐「どうする、見てみるかい?」
レイコ「いや、今はいい。人の心理として、出して、見れば…動かしてみたくなるものだ」
メリル少佐「ちがいない(笑)」
レイコ「それよりも、私にはやらなければならない事がある」
メリル少佐「そうだな、【プロジェクト・ハデス】。カオル君を守る為にも…な」
その時
感慨にふけっている二人の背後から、二人を呼び止める声がした。
「ここにいたのかね(笑)」
二人の耳に届いた声は、人生の折り返し地点を遥かに越えた、老人の声。
しかし、弱りきった力の無い声とは明らかに違う。
その歳まで戦い抜いてきたかの様な、力強く、自らの固い意志を、言葉に乗せたかの様な、戦士の声。
メリル少佐「キンゼイ艦長!」
無重力下に漂いながらも、器用に身体をひねり、背後から声をかけて来たキンゼイ艦長に敬礼するメリル。
キンゼイ艦長「堅苦しいのは無しだ(笑)久しぶりだね、メリル少佐、レイコさん」
レイコ「すみません、先に挨拶をとも思ったのですが」
メリル少佐「非礼をお詫びします」
キンゼイ艦長「はは、気にしない気にしない。本来なら、私も下船して街にいたはずなのだから」
メリル少佐「それが…、どうして艦内に、お残りになったのですか?」
キンゼイ艦長「うむ、1G環境下だと…腰が痛くてな」
二人にウインクするキンゼイ艦長。
思わず吹き出すメリル少佐とレイコ。
キンゼイ艦長「ふむ…」
キンゼイ艦長は、レイコとメリル少佐、二人の姿の向こう側。
不気味に並ぶ、四つのカーゴに視線を伸ばし、ため息をついた。
キンゼイ艦長「とうとう、来たか」
レイコ「…はい」
キンゼイ艦長「…昔を思い出す。あの頃は、曽ヶ端君と顔を合わせると、
いつも殴り合い寸前まで行ったんだぞ(笑)」
メリル少佐「まあ!」
キンゼイ艦長「そりゃあそうだ、フェイシャの予言に従おうとする者、そして、あえて予言に背を向けようとする者。
反目し合って当たり前」
レイコ「…」
キンゼイ艦長「おかげで、曽ヶ端君は今や少将閣下。私は出戻りのしがない予備役大佐」
メリル少佐「艦長…」
キンゼイ艦長「気にするな、老人の戯言、後悔はしていない(笑)」
レイコ「多くの人の人生…運命を狂わせた事は、今でも私の中では結論が出ていません。
果たして良かったのか、悪かったのか」
キンゼイ艦長「レイコ、君がそれでどうする?君一人に重責を負わせたのは、我々人類の方だ。
君は、君の信じた道を行きなさい」
当人達だけが理解できる、センチメンタルな会話が進む中、
キンゼイ艦長が、メリル達から視線を伸ばし、ふと、大きな荷物に視点を定める。
キンゼイ艦長「99式APE【蒼騎】…。全てのAPEの基礎となったプロトタイプ」
メリル少佐「姿を見ますか?」
キンゼイ艦長「いやいや(笑)
興味が無いと言えば嘘になるが、見れば欲が出て来る、やめとくよ」
メリル少佐「…全長は汎用APEより、一回り大きい19メートル。
基本兵装は無し、全て外部兵装でスペックアップ。
全てのAPEは【蒼騎】のシステムが基本となっているが…」
レイコ「その実、最先端の科学を全て結集させても、駆動系システム以外は、何も解明出来ていない」
キンゼイ艦長「どうやら君たちは、老人の好奇心をからかって楽しむ趣味があるらしいな(笑)」
メリル少佐「どうせ、後1ヶ月もしない内に、全てが公になります。
それに、リスキー・ビスキーにこの4機を預ける以上、艦長にはそれ以上の事を、熟知しておいて頂きたいかと」
急に、真顔に戻るメリル少佐。
それは、社交辞令が終わりを告げ、これから核心に触れる話をするぞと言う、メリル少佐自身の覚悟と、
キンゼイ艦長にその覚悟を持って貰う為の、儀式でもあった。
レイコ「立ち話だと何なので、艦長室に…」
レイコが場所を移動しようと提案した時、
メリル少佐に答えようと、キンゼイ艦長が口を挟む。
キンゼイ艦長「99式APE【蒼騎】…
ヨハネの黙示録に登場する、人類に死をもたらすペイル・ライダー」
メリル少佐「!」
キンゼイ艦長「常識を超えたアストラル装甲で身を包み、
ディメンションコントロールで無敵力場を発生する。
200年前に人類を虐殺し、何故か途中で活動を止めたペイル・ライダー。
それは…人類が地球を追われた根源」
メリル少佐「キンゼイ艦長、何故そこまで…?」
キンゼイ艦長「曽ヶ端ファイルだよ。前任者に、律儀にも閲覧を許可した某曽ヶ端君がいてね」
レイコ「曽ヶ端さんか(笑)」
メリル少佐「そこまでご存知なら、何も言いますまい。
ただ、私とレイコが今…他を差し置いでもしなければならないのは」
キンゼイ艦長「カオル君を守る事だね?」
レイコ「…艦長」
キンゼイ艦長「私もカオル君が大好きだ、独り身ながら、彼の様な孫なら欲しかった。心からそう思う。
構わん、責任は私が持つから、君達の思った通りにやりたまえ」




