見よ、蒼ざめたる馬あり、これに乗る者の名を死と言い、 黄泉、これにしたがう
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堂上「まるで…オカルトじゃねえか、ふざけんじゃねえよ…」
その日の夜
コロニー3【中京】の商業エリア。
飲食街の片隅にある「行きつけ」の居酒屋に、デイリー中京の記者、堂上誠一郎はいた。
カウンターとテーブルが2つしかない、小さな小さな居酒屋で、
カウンターの隅に座りながら、相変わらず飲んだくれている。
堂上「おやっさん、お酒ちょうだい!」
機嫌の悪そうな表情でおかわりを注文しながら、堂上の視線は、カウンターの上に置いた、一冊の古ぼけた本へ。
眉間に皺を寄せ、まるで理解していなさそうに、堂上はその古ぼけた分厚い本をめくって行く。
堂上「第一の封印が解かれ…現れたのは、白い馬。その背に乗る者は王冠をかぶり、弓を手に持つ。
完全なる勝利の象徴、万物の【支配】を意味する者」
堂上の目の前に、店主がコップを置く。
堂上は、頭を右手でかきむしりながらコップを手に。
酒を喉に流し込みながらも、視線は完全に本に固定されている。
堂上「第二の封印が解かれ…現れたのは赤い馬。その背に乗る者は大剣を持ち、人々から平和を奪う事を許された者。
戦争を扇動する【怒り】を意味する者」
小さな声でぶつぶつと朗読するも、読めば読むほどに難解なこの本。
脳裏には、メリル少佐の言葉がちらついて離れない。
メリル少佐 (200年前、我々人類が地球から追い出された事件、様々な人々がそれを【黙示録】と呼ぶ。
先日のコバヤシ中将の演説でも、黙示録と表現していた)
堂上「第三の封印が解かれ…現れたのは黒い馬。その背に乗る者は天秤を持ち、人々の不幸を計る事をゆるされた者。
飢饉を広め、人々に【混沌】を与える者」
メリル少佐 (…【黙示録】。文学的表現、スピーチ用に誇張された表現だと思う?
真相を知らない者達は、気軽にこの言葉を用いるけど、本当にあの事件が、黙示録だったら、あなたは信じる?)
ごくっ!ごくっ!
堂上「おやっさん、すまん!またおかわりちょうだい!」
店主「何だか最近、堂上さんは荒れてるねえ…」
「これが飲まずにいられるか!」
その言葉をぐっと飲み込み、堂上はおかわりの酒を受け取った。
堂上「第四の封印が解かれた時…」
堂上は一瞬、息を飲む。
堂上「見よ、蒼ざめたる馬あり、これに乗る者の名を【死】と言い、黄泉、これにしたがう。
【死】には、【支配】と【怒り】と【混沌】と、地の獣を用いて、人々を殺す権威が与えられた」
目頭を押さえる堂上
堂上「この【死】が、ムナカタ・カオルだと言うのか…?」
身体が、腕が震える。堂上の内に湧き上がるのは怒りの炎。
バリバリと歯ぎしりが聞こえそうなほどに、上下の歯を噛み締め、
憎悪の瞳で、堂上はこの古ぼけた本…「ヨハネの黙示録」を睨み付ける。
堂上「人類の命運が左右される、人類の存亡がかかった事件だからこそ、
俺は信条をねじ曲げて協力して来たんだ」
堂上は本を荒々しく閉じ、隣の椅子に置いてあった自分のカバンへ、無造作にしまう。
そして、完全に冷え切ってしまった焼き魚を、乱暴につまみながら、
これまた完全に冷え切ったお茶漬けを、ザラザラと胃の中へと叩き落とす。
堂上 (人類の最後の希望は、空中要塞アーシラトでも、APEでも無かった。
真夏の夜にガキ共が好んで見る…眉唾の心霊特集番組。
そんな程度のものが、人類の最後の希望なのか!!!!!!)
堂上は表面上は落ち着き払い、会計を済ませて店を出る。
戦時統制法で上がった物価、滞る物流。そして、人々目に見えてめっきり減った、夜の繁華街。
まだ、泥酔すらしていないのに、堂上は目を真っ赤に充血させる。
眉間の皺は、鼻すじの皺とつながりそうな程に、益々深くなっている。
堂上(何も知らずに死んで行く兵士に、何も知らずに我慢を重ねる一般市民に、
俺はそれでも戦争に参加しろと、煽り記事を書かなきゃならないのか!)
怒気と言うよりも、まるで殺意の様な堂上の空気。
だが、内面から湧き出るそれとは反比例して、堂上は、背中を丸めながら、丸い背中で悲哀を表現しながら、
トボトボと、家路についたのだった。




