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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
黙示録の4騎士編
39/77

母さん…戦争だよ。戦場に行くんだよ?




季節は12月


国民投票で「四季」を導入した、地球軌道に点在する日本国のコロニー。

その一つ、コロニー3【中京】もやはり、日々の最高気温の設定を18度以下に抑え、

公共機関等の壁面モニターや、天井のスカイモニターでは、晩秋から初冬の景色を投影し始めている。


12月1日に施行された戦時統制法は、全ての国に適用され、人類の経済生活は緊縮モードに突入している。


寒い時期、そこへのしかかる経済不安。


ここ、コロニー3【中京】の商業エリアでも、行き交う人々の背中は、

寒々と…すすけている様に見えた。




商業エリアの一角にあるファストフード店、【キングダム・バーガー】の2階に、

四日市東高校の国連軌道宇宙軍奨学生が、集っている。

生徒会長の伊達庸子、そして副会長のエリック・氷室、三年生の二人、そして二年生の赤磐雷太。

一年生のショーン、ミカ、エレノア、美田園恭香、レイモンド姉弟の6名。


この場にカオルはいない。事情があって、カオルは遅れて来る事になっている。


席を囲む奨学生達。目の前には各々が頼んだ合成ハンバーガーやドリンクが。




伊達「まさか…我々に階級が交付されるとはな(笑)」




苦笑いする伊達、赤磐は上機嫌だ。




赤磐「戦時任官最高っすよ!まさかこんなに早く貰えるとは」




氷室「私の記憶が正しければ、士官コースを併用している伊達会長が準尉。

私とエレノアが1等軍曹」




ショーン「そして後のメンバーが3等軍曹」




ミカ「いきなりの2等士1等士飛び越えは♪」




ヒロノブ「それだけ…、責任が重いって事ですよね」




エレノア「でも、何か引っかかる」




恭香「何が…引っかかるの?」




伊達「やはり、エリーも気付いてたか」




エレノア「うん」




赤磐「何が引っかかるんだ?」




何やら…

嬉しいのか不審なのか、ちぐはぐな会話を続ける奨学生達。

そう、彼らは選ばれたのだ。

【全天候揚空護衛艦リスキー・ビスキー】の搭乗員として。




場所は変わり、同じコロニー3【中京】の、リニアトレインの中継駅。

三階層をぶち抜いて、東西南北上下、右周り左周り…様々な方向へと、レールが伸びている。


各フロアから駅へと繋がる陸橋。

カオルはその陸橋の上、柵の上に両手をつきながら、景色を眺めていた。


壁面モニターには紅葉が終わりかけ、うっすらと雪化粧を始めた山々の景色が。


カオルの背後では、行き交う人々が。


「弱ったわねえ、光熱費切り詰めなきゃ」


「私の旦那、宇宙軍の臨時工員に採用されたよ」


「今月から小遣い減らされちまったよ」


「おちおち晩酌も出来なくなったよなあ」


カオルの背中越しに聞こえて来るのは、人々の混乱の声。

喜び、悲しみ…様々な人の本音が、カオルの耳に届く。




カオル (…なんか、いろいろ変わったんだな…)




カオルの表情は、笑顔ではなく、だからと言って憂いてもおらず。

自然体そのままで、何かしら、全てを受け入れてそれでも尚、

釈然としていない様な、透き通りながらも透明感の無い、

まるで、分厚い天然の氷の様な、空気を放っていた。




今よりさかのぼる事2時間前、国連軌道宇宙軍、日本国中京支部の事務所で、カオルや奨学生は任命式を受けた。


出席した生徒達全てが、護衛艦リスキー・ビスキーの乗組員として、

12月の終わりに予定されている【地球奪還作戦】に出撃する。

しかし、あくまでもカオル達は未成年。

階級は付いたものの、【幼年兵】としての地位が基本で、要は使いっぱしりだった。


ただ、そんな事はどうでも良い。どうでも良かった。


カオルの胸の内に今、魚の小骨の様に、引っかかって取れない気持ちの原因は、

任命式にカオルだけ呼ばれた医療検査。その病室での出来事であった。


母が、レイコ・F・ムナカタが、検査室でカオルを待っていたのだ。

それも、保護者としての立場ではなく、国連軌道宇宙軍、全天候揚空護衛艦リスキー・ビスキーに乗船する予定の、

情報保全部のメリル特務少佐の助手、レイコ・F・ムナカタ特務大尉としてだ。





カオル「か、母さん…?」




検査室の扉を開き、腰を抜かした様な、ひょろひょろの声を上げるカオル。




メリル少佐「良く来てくれたね、カオル君。はじめまして、私はレイコの友人のメリル・ウィルドットだ」




カオルに向かい、右手を差し出すメリル少佐。


カオルはぎこちなく右手を差し出し握手するも、メリルの背後で、バツの悪そうな顔で立っている母、

…レイコが気になってしょうがない。




メリル少佐「おや、どうやらおどかしてしまった様だね(笑)

カオル君、すまない」




と、屈託の無い笑い声を室内に響かせ、メリル少佐はカオルに「いきさつ」を説明する。


本来、メリルとレイコは中京大学情報学部の準教授と講師であるのだが、

情報戦略の観点から、国連軌道宇宙軍に協力を求められ、

このたび、メリルは特務少佐、母レイコには特務大尉の肩書きが与えられた事。

そして、今後の人類社会に対しての情報戦略構築を目的として、護衛艦リスキー・ビスキーに搭乗する様に命じられた事。

半分以上はウソなのだが、真剣な表情で、それはカオルに告げられた。




カオル「母さんが…戦場に?」




レイコ「いきなり決まったんだ、ごめんな。カオル」




カオル「いや、だって…」




メリル少佐「すまないカオル君。私もまだ未熟で、どうしてもレイコが必要なんだ」




カオル「母さん…戦争だよ。戦場に行くんだよ?」




レイコ「わかってるよ、でももう…決まった事なんだ」




メリル少佐「戦時統制法でね、民間人の軍属化・徴用。拒否する事は出来ないんだ」




カオル「そんな…」






検査が終わった後の診断室。

医師の結果報告もそのままに、喧々囂々と大騒ぎのカオル達。

結局はカオルが「飲み込む」しか、この場を収める方法は無かったのだが…、




カオル「母さんを早く楽させたいから、国連軌道宇宙軍に入ったのに!

母さんが幸せになって、彼氏の一人でも作って欲しいと思ったから頑張ってたのに!

それが…それが!母さんが戦場に行くなら、意味が無いじゃないか!」




まるで、漫画の様に「うわあああん!」と、足をバタバタと、手をバタバタと振り、

走りながらカオルは部屋を飛び出して行った。




医師「あ、あの…」




メリル少佐「ふむ、カオル君は異常無しだ。良かったな、レイコ♪」




カルテを見ながらレイコを見やるメリル少佐。

しかし、レイコは両手で顔を覆い、号泣していた。





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