プロジェクト・ゴーホームの呪縛
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ムナカタ・カオルと美田園恭香が、ちょうど自宅についた頃。
軌道爆雷戦コースに乗り、不審船に牙を剥こうとしている、
国連軌道宇宙軍のコンステレーション級1番艦「ジェミニ」。
そのジェミニのブリッジにおいて、ノースヒル艦長以下ブリッジ要員全てが、
どよめきと驚愕に包まれていた。
返信が、届いたのだ。
ノースヒル艦長「…これが、返信内容か?」
通信士「はい、間違いなくこれが全文です」
通信士から回されたデータを、自分の端末で確認し、そして愕然とする艦長。
ノースヒル艦長「副長!」
ガルーツォ少佐「はい!」
ノースヒル艦長は自分の端末を指差しながら、
ノースヒル艦長「読んでみてくれ、声に出して構わん」
ガルーツォ少佐「了解しました」
副艦長のガルーツォ少佐は、艦長の肩越しに端末を覗き込み、
そして、そのデータ内容を声に出して読み始める。
ガルーツォ少佐「火星自治政府所属、エルコンドル二世号艦長発、
国連軌道宇宙軍所属、フリゲート艦ジェミニに告げる。
当艦は【プロジェクト・ゴーホーム】に付帯する国家間協議を終え、火星自治領への帰途にある。
戦闘軌道を解除し、本艦の速やかなる帰投に協力されたし」
ノースヒル艦長「…」
ガルーツォ少佐「…」
沈黙が続くブリッジ。
慌てて臨検を受諾するどころか、理解しかねる理由を傘に、
戦闘軌道を解除せよと「命令」して来た不審船に、
艦長も副艦長も、唖然とするほかは無かったのだ。
ノースヒル艦長「それにしても、何だ?プロジェクト・ゴーホームとは」
ガルーツォ少佐「さあ…全くもって」
目頭を押さえ、思案にふける艦長。
艦長「交渉するフリをしながら、時間の引き延ばし工作をしているとも思えん」
ガルーツォ少佐「そうですね、だからと言って、奴らが我々に応戦するだけの戦力は無い」
ノースヒル艦長「と、言う事は連中…。真面目に返信して来たのか?こんな馬鹿馬鹿しい内容を」
ガルーツォ少佐「艦長、まだタイムリミットの2時間に達していません。
再度通告して、連中の真意を探ってみては?」
副艦長の提案に頷く艦長。
しかし次の瞬間、通信士の報告で事態は一変した。
通信士「指向性通信を受信、艦隊司令部発!暗号解析開始しました」
ノースヒル艦長「うん?」
ガルーツォ少佐「艦隊司令部から?」
通信士「艦隊司令部発とは別に、2件の通信を受信!暗号フィルタ無しの平通信です!」
ノースヒル艦長「全てこちらに回せ!」
ガルーツォ少佐「何だ?何が一体、どうなっている?」
イライラを隠さない副艦長、それとは対照的に、完全に沈黙してしまった艦長。
何故艦長が沈黙したかと言えばもちろん、異常なタイミングで唐突に入電して来た、3件の通信が理由である。
ノースヒル艦長「…副艦長、読んでみたまえ」
再び副艦長に端末を覗き込ませる艦長。
先ほどとは違い、副艦長の声のトーンは低く、そして声量はほとんど無かった。
ガルーツォ少佐「国連軌道宇宙軍艦隊司令部発、哨戒艦隊ジェミニへ。
交差軌道上に存在する、火星自治政府の所属船は不審船にあらず。
速やかに戦闘体制を解除し、往還軌道へ復帰せよ」
次に副艦長が目にしたのは、平通信で送られて来た、2件の通信の内のひとつ。
火星自治政府から送られて来たメッセージだ。
ガルーツォ少佐「…火星自治政府、外交部次席政務官発…。エルコンドル二世号は、
プロジェクト・ゴーホームの秘匿会議に出席した、当方の要人が搭乗している。
如何なる理由を持ってしても、攻撃は避けられたし」
艦長「…また、プロジェクト・ゴーホームだ…」
ガルーツォ少佐「最後の一件。国連軌道宇宙軍統合幕僚本部長及び、国連月宇宙軍軍政部長連名…!
【優先事項1】発令、哨戒艦隊は武器管制を速やかに凍結、通常往還軌道に復帰せよ」
瞳の色は陰惨に満ち、渋い表情で端末を睨み付けたままの艦隊。
ガルーツォ少佐「国連軌道宇宙軍側は言及してませんが…これじゃあ」
ノースヒル艦長「そう言う事だ、このプロジェクト・ゴーホームと言う訳のわからん作戦が、
実質…地球圏と火星圏の国家レベルで、存在していると言う事だ」
ガルーツォ少佐「一体…内容は?」
ノースヒル艦長「そんなものは知らん。ただ、ただ一つ言える事は、
プロジェクト・ゴーホームとお題目を唱えれば、無茶も押し通せると言う事だ…クソッ!!!」
ジェミニ以下、哨戒艦隊は、「プロジェクト・ゴーホーム」と言う名前の呪縛にかかったまま、
静かに、…静かに
武装状況を解除し、母港への帰途についた。




