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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
黙示録の4騎士編
32/77

軌道爆雷戦




場所は大きく、大きく変わり、地球公転軌道。


時計の逆回りに太陽を周回する様々な惑星群。その中の一つ、水と緑に覆われた【奇跡の惑星】地球。

その地球の公転軌道から脱出し、火星をフライバイしつつ (惑星の引力を利用して加速する航法)、

再び地球へと帰還する一団があった。




国連軌道宇宙軍【UNOSF】

13年度に就航した、最新鋭のコンステレーション(星座)級フリゲート艦、1番艦の「ジェミニ」と、

従来からの、国連軌道宇宙軍主力艦、ソーラーシステム(太陽系)級フリゲート艦「ティターニア」と「オベロン」の2隻である。


コンステレーション級1番艦「ジェミニ」の名前の由来はもちろん、

星座級の総称の通り、12星座の双子座から命名されており、

ソーラーシステム級の2隻は、天王星の衛星から命名されている。


その三隻のフリゲート艦は、地球~火星往還路の哨戒活動を終える直前。

一路地球に向かい、帰りの途についていたのだ。


ジェミニのブリッジ。


今回の航海は作戦活動ではなく、単なる哨戒活動である為、

CDCやCICと言った作戦運営部門を設けず、

このジェミニのブリッジで、全てがまかなわれている。


ちょっとしたオフィス事務所程度の、天井の低いこじんまりした空間。

出入り口のある気密扉、最後方には、艦長のゴードン・ノースヒル大佐のシートが。

艦長のデスクを中心に前方へ放射状に、航宙士、電探員、操舵士、通信士、武器管制官のデスクが広がっている。

モニターが壁面にベタベタと設置される、窓一つ無い無機質な空間で今、

副艦長のエミリオ・ガルーツォ少佐が、当直員達と雑談を繰り広げながら、平穏で暇な「深夜」の航行に臨んでいた。




【国連軌道宇宙軍最大の軍港、バンクーバー。

そのバンクーバー内に設置された、職員専用食堂。

食堂お勧めのAランチより、美味い店はあるか?】




そんな他愛も無い話題で、ブリッジは盛り上がっていた。


そもそも、軍・港湾職員専用の食堂を引き合いに出すと言う時点で、この手の話は笑い話になる。

なぜなら、出される料理は全て電熱器で温めた箱型のパック料理。

ほとんどがペースト状に粉砕された食材で、「牛肉」「ハンバーグ」「オムレツ」と、

箱に表記されていて、確かにそれらしい味がしても、

食べている内にバカバカしくなって、笑ってしまう物であったのだ。


「ベルリンで食ったソーセージは美味かった」


「一度、ロンドンで天然のハムステーキを食べたらさあ…♪」


「日本国コロニー2【関西府】で怪しい寿司食ったけど、それはそれで良かったぞ」


「なんて名前の店だったかなぁ…」


和気あいあいと、深夜時間が流れるジェミニの船内。

ブリッジの要員達も、それなりに力を抜いて、交代の時間を待っているだけ。


すると、




電探員「…うんっ?」




各種ソナー類を駆使して敵の有無を探索する、電探員が意外な唸り声を上げた。




ガルーツォ少佐「どうした?何かあったか?」




副艦長のガルーツォ少佐が、電探員の唸り声に反応。報告を求める。




電探員「長距離波ソナーに感有り!大型輸送艦一隻、本艦との交差軌道で火星方面に進行中!」




ガルーツォ少佐「識別番号は?」




電探員「ちょっと待ってください、識別番号が見当たらない…。エンジンの噴射パターン照合中」




先ほどまでの緩んだ空気とは打って変わり、緊張感に包まれるブリッジ。

慌ただしく端末を操作する電探員の結論を、他のクルー達は固唾を飲んで待っている。




電探員「判明しました!火星自治政府所有、エルコンドル二世号。

武装商船として、諜報活動を行っていた過去があります」




ガルーツォ少佐「スパイ船か…よし!【航海情報に無い艦船、認識情報不提示】

3時46分、不審船を臨検対象と確認、規定に則って臨検状況を開始する!」


キュイ!キュイ!キュイッ!

キュイ!キュイ!キュイッ!


ジェミニの船内に響くけたたましいサイレン。

ガルーツォ少佐は既に、艦長のデスクに置かれた通話機を手にし、艦長へ報告を始めている。




ガルーツォ少佐「はい、どうやら火星自治政府のスパイ船の様です。

はい、ブリッジでお待ちしています」




通話機を置くガルーツォ少佐




ガルーツォ少佐「艦長が来る、それまでに片付ける事片付けるぞ!」




白色灯が輝いていたブリッジが、薄暗い赤色に包まれる。

電灯の切り替えが行われ、ジェミニは臨戦モードに突入したのだ。




ガルーツォ少佐「通信士、ティターニアとオベロンに不審船情報をリンク!

指向性通信で、臨検状況我に続けと伝えろ」




ガルーツォ少佐「キャプテン・オン・ザ・ブリッジ!(艦長が操舵室に入室)

操船は艦長に!」




声高らかに操船指揮交代を告げる、副艦長のガルーツォ少佐。

艦内にサイレンが鳴り響いてから3分も経たず、ノースヒル艦長が、慌てて入室して来る。




ノースヒル艦長「不審船に変化は?」




電探員「エンジン噴射、軌道変更噴射等、変化は一切見られません」




ノースヒル艦長「よし、指向性通信で不審船に対し、臨検宣言を通達しろ!」




通信士「アイサ!こちら国連軌道宇宙軍、哨戒艦隊旗艦ジェミニより、

火星自治政府所属のエルコンドル二世に告げる!こちら国連軌道宇宙軍…」




ノースヒル艦長「副艦長」




ガルーツォ少佐「はっ!」




ノースヒル艦長「奴らの目的は何だと思う?」




艦長の座席から一歩引いて、直立不動となったガルーツォ少佐は、

真剣な眼差しとは違う、戸惑いを伴った声で、艦長に返答する。




ガルーツォ少佐「連中の航跡を辿ると、どうやら月か地球軌道の帰りの様ですが、

今まで、まるで連中の情報が無かったのが、かえって不思議で…」




ノースヒル艦長「貴官もそう思うか」




ガルーツォ少佐「と、言う事は艦長も?」




ノースヒル艦長「普通なら、ヨタ情報でもガゼ情報でも、

何かしら情報保全部から、情報が入って来て良いはずなんだが」




ガルーツォ少佐「そうですね、今回はまっさら…」




一瞬沈黙する艦長と副艦長。


火星自治政府のスパイ船が、国連軌道宇宙軍のフリゲート艦隊と交差する…。


宇宙空間は広い。交通渋滞などまるで有り得ない孤独な世界で、艦船同士が交差軌道に乗る事は、

非常に珍しい事例であるはずなのに、まるで情報が入っていない。

つまりこれは、異常事態と判断しても、おかしくない事例であるのだ。




ノースヒル艦長「…きな臭いな」




ガルーツォ少佐「きな臭い話ですね」




ノースヒル艦長「しかし、無視する訳にもいかんな」




ガルーツォ少佐「無視は…出来ませんね」




ぱぁん!


ノースヒル艦長は自分の太ももを両手で叩く、ブリッジには乾いた音が反響した。




ノースヒル艦長「よし、軍人は軍人の道を行こう!警戒態勢から戦闘態勢に引き上げるぞ!」



キュイ!キュイ!キュイッ!

キュイ!キュイ!キュイ!




『艦長より達する!

火星自治政府所有の不審船に、臨検状況を行使する!

全クルー戦闘態勢へ!軌道爆雷戦を仕掛けるぞ!!』




ジェミニの艦内に響く、ノースヒル艦長の開戦宣言。

ブリッジでは、艦長の宣言で、慌ただしさが増して来ている。




ノースヒル艦長「航宙士、軌道爆雷戦コース策定!」




航宙士「アイサ!」




ノースヒル艦長「通信士、不審船との通信タイムラグは!?」




通信士「約45分です」




ノースヒル艦長「臨検宣言通告発信から10分、通信が向こうに届くのが…」




振り返り、ガルーツォ少佐の腕時計を気にする艦長。




ガルーツォ少佐「後35分。返信が届くとすれば、最短で80分後になります」




ノースヒル艦長「了解した。武器管制官、軌道爆雷1番から3番まで発射準備!」




武器管制官「アイサ!軌道爆雷1番から3番まで準備開始します!」




航宙士「軌道爆雷戦コース策定、完了しました!」




ノースヒル艦長「よし!軌道爆雷戦コースを、ティターニアとオベロンに通達!」




航宙士「アイサ!軌道爆雷戦コースをティターニアとオベロンに通達!

ブリッジにデータリンク完了しました!」




ノースヒル艦長「操舵士!武器管制官!データリンク確認したか!?」




操舵士「データ確認!」




武器管制官「データ確認!」




ノースヒル艦長「よし、データ通り、現行軌道軸から15万km降下するぞ、

速度そのまま、スラスター短微噴射連続で15万km降下!副長、復唱を」




ガルーツォ少佐「アイサ!速度そのまま、スラスター短微噴射連続で15万km降下。

ダイブ!ダイブ!ダイブ!」




宇宙空間に、上下左右は無い。


しかしそれでは、艦船運用に支障をきたす為、統一基準として、人類社会的に、上下左右が存在する。


太陽を中心とした惑星群の中で、地球の公転軌道を【横軸】。

そして横軸から北半球方面を【縦軸上】、南半球方面を【縦軸下】と規定している。


航海を行うにあたり、また艦隊運用を行うにあたって、

横軸と縦軸の微調整を行うのが、宇宙の水先案内人である、航宙士の仕事なのだ。


高速で進行するフリゲート艦ジェミニと、後続の艦二隻。

船体のあちこちに微妙な噴射跡を残しながら、航宙士が策定したコース通り、

「15万km下方」…つまり、前方斜め下へと向かって行く。


何故、軌道爆雷戦を行うにあたり、わざわざ推進剤を消費しつつ、大幅なコース変更が必要となるのか。

それは、国連軌道宇宙軍と国連月宇宙軍及び、各独立国家の全てが参加し、月面で締結した、

【静かの海条約】を、批准しているからである。


元々、惑星間を航行する艦船は、公転軌道の【横軸】を移動する。


太陽を公転する惑星間の最短距離を狙った航法も、また惑星の引力を利用したフライバイ航法でも、

必ず公転軌道の【横軸】移動…つまり立体的な「上昇」「下降」の無い、二次元的な移動が基本である。

仮に、度が過ぎる「上昇」「下降」を行うと、惑星引力から脱出しただけの慣性がその船体にかかり、

戻る際も、大量の推進剤消費が必要となる。つまり膨大な推進剤消費による、

無駄な航法以外の何物でも無いのだ。


さらに、公転軌道の【横軸】から逸脱する為、各惑星の引力圏のネットワークからも逸脱し、

そのまま戻れなくなる可能性が極めて高くなる。

つまり、太陽系からはじき出されるとイメージすれば良い。


そして、この、無限に広がる宇宙空間において、

極めて厚さの薄い公転軌道…【横軸】で、軌道爆雷戦を行えば、

結果としてどんな現象が現れてくるか…?


公転軌道【横軸】で、大量に爆散した軌道爆雷の破片が、

デブリ(宇宙ゴミ)となって、大量に公転軌道を漂う結果となるのだ。


たった1cm四方の破片、宇宙ゴミでも、秒速数千メートルで交差したら、一体どうなるか…?


それを避ける為の条約が【静かの海条約】。


軌道爆雷戦等の戦闘行為を行う際は、公転軌道【横軸】での水平射撃を禁止し、

攻撃対象に対して「上昇」するか「下降」し、角度を付けて、

爆散物が上方か下方へ、太陽系脱出を行う軌道を取る事が、義務付けられているのだ。




最新鋭のコンステレーション級1番艦「ジェミニ」


今、火星自治政府所有のスパイ船に対して、【横軸】から15万kmほど下降し、軌道爆雷射出の態勢へと移行した。




ガルーツォ少佐「…通信タイムラグ50分経過」




艦長「返信はまだ来んか?」




通信士「一切気配はありません」




ノースヒル艦長「不審船に動きは?」




電探員「噴射による軌道変更の形跡は見られません。

エンジンパターンもアイドリングのまま、相変わらず慣性航行状態です」




ガルーツォ少佐「相手側が、返信出来ない状態なのでは?」




ノースヒル艦長「不審船の艦内で、反乱が起きているとでも?」




ガルーツォ少佐「仮定の話は…、するものではありませんね」




ノースヒル艦長「そうだな、確かな事は、我々の警告を未だに無視していると言う事だ」




静まり返るブリッジ。誰もが、艦長の判断を息を殺して待っている。


何かしら返信出来ない状況が発生しているとして、元々、不審船が抵抗する意志を持っていなければ、

爆雷攻撃を仕掛けて殺傷する事は、早きに逸したと責任を追求される恐れがある。

だからと言って、いつまでも不審船の反応を眺めていれば、

両者とも軌道交差コースから外れ、不審船はまんまと逃走してしまう。


相手側の素性と航海目的、そして寄港地を明らかにさせ、そして寄港地に駐屯する、

国連軌道宇宙軍の臨検部隊に臨検させるのが、本来のこの哨戒艦隊の臨検活動である。


【迂闊に撃つ事も出来なければ、迂闊に見逃す事も出来ないのである】




艦長「航宙士、軌道交差コースから離反するまでのタイムリミットは?」




航宙士「後…26時間と19分です」




ノースヒル艦長「そうか、わかった」




ガルーツォ少佐「艦長、いかがしましょう?」




ノースヒル艦長「最後通告を行う。もし、返答が出来ない状態なら、

それなりに微噴射したり、エンジンふかしたりして反応を見せろとな」




ガルーツォ少佐「そうですね、それがよろしいかと」




艦長はデスクの通話機を取り上げながら、通信士に「こっちに回せ」と命令する。

つまり、不審船に向ける指向性通信を、艦長が行うと言う事なのだ。




ノースヒル艦長「こちら国連軌道宇宙軍、哨戒艦隊旗艦ジェミニより、火星自治政府所属の不審船に通達する。

本艦の臨検通告に対して、返答も何の反応も無いのは、敵対行為と見なされる。

速やかに返信するか、何らかの行動を取り、攻撃・逃走の意志が無い事を明確にせよ!

これは最後通告である!我が哨戒艦隊は既に、軌道爆雷戦の準備は果たした。

後は、貴船の良識に全てを委ねる。2時間以内に返答されたし!2時間後に、軌道爆雷戦を開始する」




通話機を置き、肩で息をする艦長。

一旦、自分自身を落ち着かせ、再び通話機を手にする。




ノースヒル艦長「艦長より達する、軌道爆雷戦は継続中も、臨戦態勢を解除!各部所は交代で休憩を取る様に」




ジェミニは戦闘状況下ではある。

ジェミニ以下、ティターニアもオベロンも、軌道爆雷を射出するのは、今か今かと待ち構えている。


だがしかし、ここは広大な宇宙。

敵に通信を送るのさえ、片道45分もかかる、気の長い闘い。

ノースヒル艦長はその時間を考慮し、クルー達に休憩の指示を出したのだ。


ガルーツォ少佐が食堂の担当者に依頼しておいた、チューブ飲料が届く。

艦長もそれを受け取り、チューブに口を付けて、中身を吸い取る様に飲み始める。




ガルーツォ少佐「…静か過ぎて、不気味ですね」




ノースヒル艦長「鬼が出るか、蛇が出るか…。いずれにしても我々は、

時間が来たら軌道爆雷を射出する。ただそれだけだ」




ガルーツォ少佐「そうですね」




ノースヒル艦長「だがやはり…、個人的な見解ではあるが、連中の言い訳は聞いてみたいな」




ガルーツォ少佐「連中の…言い訳ですか?」




ノースヒル艦長「不作為の罪の事だよ」




ガルーツォ少佐「…何の罪の事ですか?」




艦長の言うところの意味が判らず、目を点にしている副艦長。

艦長はめんどくさそうに、副艦長に意味を説明する。




ノースヒル艦長「不作為の罪とは、何かを為そうとせずに、何もしなかった事で事態を悪化させてしまう…。

そんな愚か者の怠惰と判断ミスを言った言葉だ」




ガルーツォ少佐「なるほど、今の連中の事を指して言う言葉ですね」




ノースヒル艦長「うむ。何とか、馬鹿馬鹿しくても良いから…、言い訳の一つでも言ってくれぬものかな」





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