カスミ・レイモンドと、ヒロノブ・レイモンド
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場所は同じく、コロニー3【中京】にある宇宙港。
それも、民間の客船や輸送船が、発着を繰り返す港ではなく、
国連軌道宇宙軍が保有する軍港エリア。
国連軌道宇宙軍のソーラーシステム級フリゲート(巡航艦)艦が一隻、
一回り小さいコルベット艦(駆逐艦)が二隻停泊しており、
ロールアウト中なのか、船体の表面では、しきりに船外活動員が作業を行っていた。
そこへ…
ゆっくりと、何度も、短い秒数で逆噴射を繰り返しながら、教育実習船【リスキー・ビスキー】が入港して来る。
そう、秋季の教育実習航海を終えて、リスキー・ビスキーは【中京】に帰還したのだ。
音の無い世界
音の振動すら伝わらない世界で、軍港全体に鈍い振動を伝えながら、リスキー・ビスキーは無事接舷した。
ドックからゆっくりと伸びた気密通路が、船体の扉に繋がり、乗組員達が通路へと「泳いで」行く。
その中に、ムナカタ・カオル以下、教育実習生の合計5人がいた。
合計5人とは、
ムナカタ・カオル
ミカ・カートライト
ショーン・カザマ
エレノア・シグニス
美田園恭香
市立四日市東高等学校の一年生5人である。
美田園恭香の所属は、国連月宇宙軍ではあるのだが、交歓留学生特権で、
国連軌道宇宙軍の教育実習を受ける事が、認められている。
ミカ「いやああ…疲れたねえ」
エレノア「…うん」
ショーン「まだミカやエレノアは良いよ。俺なんか整備の実習で危うくPEEVAに体当たりする所だった(笑)」
カオル「…船外活動で吐きそうになった」
恭香「わ、私…も…」
ミカ「私なんか脳みそ爆発寸前よ!寝てる時だって、夢に軌道計算が出て来るんだから」
エレノア「私は士官候補生コースも併用してるから、テストに次ぐテストで…」
賑やかに実習の感想を互いに話しながら、軍港事務所を抜け、一般区画へと向かうリニアレールに乗る5人。
コロニー中央にある無重力の軍港から、ドーナツ型コロニーの内側の壁に向かって走るリニアレール。
シートに固定された5人達の身体に、徐々に徐々に重力が発生して行く。
ショーン「なあ、このまま帰宅するのも何だから、どこかでお茶でも飲んで行かないか?」
誰一人、ショーンの提案に異議を唱える者は無く、全会一致で提案は可決。
カオル達は、帰宅前の「お茶タイム」に赴く事に。
コロニー3【中京】の商業エリア。
三階層分に広がる、巨大スーパーマーケット【えびす屋】。その吹き抜けテラスにあるフードコート。
「たこ焼き」「イカ焼き」「フライドチキン」
「コロッケ」「立ち食いソバ」「100%果汁ジュース」
様々な屋台が壁際に並び、テラスには樹脂製の丸テーブルが無数に広がる。
その一角に、カオルを含む教育実習の5人がいた。
ミカ「お待たせ♪たこ焼きたこ焼き」
ショーン「おお、美味そうな匂い♪」
エレノア「カオルにも、はい」
カオル「えっ!?僕に?」
オレンジジュースを大切に大切に飲んでいたカオル、
エレノアが差し出しのはお好み焼き。
エレノア「私のごちそうだから、遠慮しないで」
カオル「うわあ、うわあ♪ホントに良いの?」
見上げるカオル、傍らに立つエレノアは、頬を赤らめながら、コクンと頷く。
すると、
恭香「ム、ムナカタ君…これ」
屋台から帰って来た恭香が、カオルの目の前に、やはり料理を差し出す。
カオル「こ、これはフライドチキン!美田園さん、これ僕に!?」
もじもじと身体を揺らし、照れながら恭香は頷く。
ミカ「エレノアと恭香、火花が散ってる(笑)」
ショーン「しっ!声がデカい」
カオルを挟んで対峙するエレノアと恭香。
女同士の静かな闘いを端から見て笑う、ショーンとミカ。
ショーン「しっかし、カオルも鈍いやつだな。多分あいつ、全然気付いてないぜ」
ミカ「それはそれで問題なんじゃ?ド天然ジゴロって、本人に罪の意識ゼロだからね」
カオル「エレノアも美田園さんもありがとう♪今度は、僕の方ががお礼するよ」
エレノア「…お礼なんて♪」
恭香「…うん♪」
とりあえず、とりあえず和やかな5人の仲間達。
賑やかに教育実習終了の打ち上げをしていると、背後から若い男女の声がかかる。
「ちょっとすみません」「あなた達、教育実習生?」
ショーン「うん?」
全員が振り返ると、そこに立っていたのは一組の男女。
カオル達と同じく、一般生徒は着る事の出来ない、国連軌道宇宙軍指定の、
学生服兼、教育実習生の制服を着ていたのだ。
カオル「あっ、僕達は、四日市東高校一年の教育実習生です」
振り返ったカオルが、笑顔で答える。
すると
「ああ、やっぱり♪」「良かった良かった」
男女は笑顔でカオルの言葉に安堵する。
「私の名前はカスミ・レイモンド」
「俺の名前はヒロノブ・レイモンド」
二人は、今日イギリスのコロニーから引っ越して来て、明日より、
四日市東高等学校に通うのだと挨拶した。
カオル達も挨拶を返し、同じ仲間だと、二人をテーブルに招き入れた。
ミカ「着てる服が男用、女用なだけで、ホント二人そっくりさんね」
ヒロノブ「二卵生の姉弟ですから」
エレノア「でも二人…綺麗よね」
恭香「…うん、…綺麗」
ヒロノブ「そんな、誉めすぎですよ(笑)」
ショーン「しかし、恭香といい、レイモンド姉弟といい、なんか今年の一年生は充実してきたなあ」
カオル「仲間がどんどん増えると、やっぱり嬉しいね♪」
和やかに会話を続けるカオル達。
そんな中で、一瞬だけカスミ・レイモンドと、ヒロノブ・レイモンドが、
カオルに向けていた柔らかい視線を硬直させる。
ほんの一瞬ではあるのだが、酷く冷静で、酷く冷たい瞳をカオルに投げかけたのだ。
カスミ (…あの日、お母様が叫んだ言葉…)
ヒロノブ (…僕達姉弟は、ムナカタ・カオルの出来損ない…)
カスミ・ヒロノブ (…その、ムナカタ・カオルが今、目の前にいる…)
カオル「うん?どうしたの?」
カオルに注がれていた、カスミとヒロノブの視線。
カオルもそれに気付き、何気なく問いただす。
カスミ「え?いえいえ、別に何でもないです(笑)」
ヒロノブ「ええ、何でもないです。ムナカタさん、かっこいい人だなあって(笑)」
カスミ「私も、ちょうどそう思ってたの♪」
カオル「よよ!そんな事言われたの初めてだよ」
顔を真っ赤にしながら、照れまくるカオル。
照れ過ぎて額に汗まで滴らせ始める。
ショーン「ホント…言われた事無いのな(笑)」
ミカ「反応がストレート過ぎて、カオル可笑しいよ」
エレノア (新たな…ライバルの出現…?)
恭香 (…恭香負けない!)




