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如月連の他愛ない話  作者: 平城心の鹿


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3/3

如月連のご飯の話

 授業が終わって、放課後、連は自分をご飯に誘った。


「奈良には美味いもんなしとか何もなしとか言われるけど、そういうわけちゃうんやで。」


 へぇーと普通に自分は聞いていた。そもそも奈良なんて、連から色々聞くまでは、鹿や大仏くらいのイメージしかなかったし、京都と同じくらい古いイメージしかなかった。


「まあ大阪の粉もん、京都の和風のをかしなお菓子とかそういうのに比べたら、慎ましゅうてわかりにくいかもしらんけどな。せっかく関東からこっちに来たんやろ?メジャーやけど、案内させてや。」


「メジャー?」


 自分がそう聞き返すと、嬉々として彼は話してきた。


「メジャー言うんは、僕らの学校のそばに商店街あるんよ。僕的には大阪の天神橋筋商店街の方がバカでかいと思うんやけど、向こうはこっちのほうがでかい言うんの不思議よなあ。ってごめん。逸れたわ。因みに自分オタクかオタクじゃないかは知らんけど、地味に驚かれんねん。小さいけど、オタク向けの店がフードチェーン店が並ぶ通りから並行にずれた通りにあるって言ったらな。」


 自分はそこまでオタクじゃないから、ほんとそうなんだとしか思えなかった。ニコニコして話されると申し訳なくなった。


「って、ご飯食べに行こ。僕だいぶ腹減ってあかんわ。いますぐポテトとかハンバーガーとか食べたい。」


「いや、そこは奈良のご飯じゃないの!?」


 そう突っ込むと、連はにやっと笑った。


「言葉は染まっとらんけど、だいぶ空気は滲んできたやん。いらっしゃい、こちら側へ。」


「ちょっと嫌だ。」


 自分がそういうと、連はええ……とちょっと哀しげな顔をした。

 学校から出て、連は門で立ち止まった。


「えっと、駅の方向かったら商店街。駅とは逆方向に歩いたらラーメンのチェーン店があるで。どうする?」


「学校じゃ東向商店街に行く話じゃなかった!?」


 連はへらへら笑って、「ごめんごめん、冗談冗談。」と、駅の方へ向かった。


「そやなあ、着くまで奈良のご飯について喋ろうかな。」


 やっと本題に入った感じがした。


「奈良といえば、やっぱ高速で餅つくあの店のよもぎ餅かなあ。まあ安定してて美味いけど、あそこなあ大体混んでるんよなあ。混んでんの平気?」


 連が微妙な顔をしてこっちに尋ねてきた。


「奈良の混雑って多分関東に比べたら超マシだよ。大丈夫。」


「関東すごいなあ。大阪とか京都の混雑だけでもう僕はげんなり。あれは無理やわ。あんときに多分自分は大阪とか京都とか無理やし、東京とか絶対死ぬなあと思たわ。」


 実際奈良って夕方でも番号の小さい号車なら空いているから羨ましい。まあ、この辺りが特殊なのかなとも思うけど。


「他にはないの?ご飯。」


「んー、まあよもぎ餅喋ったし、葛餅も美味いで。あれは透き通ってぷるぷるなのがええ。あ、あと2月くらいにはこの辺り、イルミネーションすんねんけどそのときの会場の入り口前で葛いりココアっていって、あったまるドリンクが販売されんで。あれ、いくらやったかなあ。まあイルミネーションの時期なったら自分で調べて。」


 出た、丸投げ。知らんけどと同じくらいの頻度でお出しされるであろう丸投げ。


「何や、そんな変な顔しやんといてや。覚えてへんねんからしゃーないやん。じゃあお菓子の話は一旦やめて、しっかりお腹にたまるご飯について喋るわ。」


 正直自分はお菓子よりそっちの方が気になった。


「まあ、奈良市ちゃうんねんけど、白菜と豚肉がたくさんの辛くてやみつきになるラーメンがあるで。因みに名前が違うだけで似たようなのが奈良市には2つある。どっち食べても美味しいで。冬とか、疲れてるときに食うと、ある意味生き返る。」


 考えただけでよだれが垂れそうになった。


「あとラーメンが重いなあ思うんやったら、柿の葉寿司もおススメやな。メジャーなのは鯖寿司を柿の葉で包んだやつやと思うけど、鮭の寿司とか桜大根とかやったかな、そういうのを包んだのもあるで。自分はまあ魚の寿司包んでる方が好きやな。バナナみたいに柿の葉をめくって食べると、いうほど手は汚れへんし、寿司そんなに大きくないから一口で食べれんのがええとこ。」


 柿の葉寿司の話になった途端、更に饒舌になった。


「大阪の粉もんのポジションが奈良やと柿の葉寿司や。快急とか急行が止まりやすい駅には、お土産品として柿の葉寿司の専門店が店だしてんで。柿の葉寿司の店を挙げても4店くらいあるし、まあ色々食べ比べて違い探すのもおもろいんちゃう?」


 まあ確かに、とそれには納得したが、寿司の前にラーメンの話を聞いたせいでラーメンの口になってしまった。寿司について語るなら、早くラーメンを食べたいと思った。


「……真面目に聞いてへんな。その商店街はもうちょいかかるで。横断歩道渡って、左に曲がって暫く歩いたら着くわ。あ、でもラーメンは右に行かな無いな。ご飯食べんのが目的やし、先ラーメン屋行くか。ラーメン屋はオタク向けの有名な店のある通りの、学校に近い方の入り口にあるで。」


「遠くない?」


「遠いけど、よく言うやん?空腹は最高のスパイスって。」


「スパイスキツすぎて辛(から)いよ。辛(つら)いよ。」


 連はその発言を聞いて、「今更そんなこと言ってええの~?」と言った。


「これから食べに行くラーメンは辛味が絡み合ってるラーメンやで?」


 寒いなと思った。

 暫く歩いたら、こじんまりした店舗が見えてきた。


「え、ここが?」


 連が扉を開けて中に入った。中に入ると、白い壁と階段、食券機があった。カウンター席と壁に面した席があって、カウンター席にキッチンが隣接していた。


「いらっしゃいませー。」


 先客が振り返った。


「あ、如月じゃん。」


 そう発言した彼女は、ラーメンを食べている最中だった。白髪に白藤色の瞳のスレンダーな美人だ。


「何食べに来たの?」


 不思議だなと思ったのはなぜかと思ったけど、彼女が標準語だからだ。


「店名のラーメン。ほら、自分こっち来(き)。食券買い方わかる?」


「馬鹿にしないでよ。わかるよ。」


 自分がそう反抗すると、「ああそうか。」と彼はちょっと後ろに避けた。食券の前に立ってどれを食べようかと見繕っていたけど、どれも気になって諦めて振り返った。


「まあ、普通のにしといたら?」


 そう言われて、まあそれもそうだな。と自分は納得して、1000円前後の煮卵が付いていない、チャーシューも多めに乗せられていないものを頼んだ。連は若干ウキウキで炒飯とセットのその目的のラーメンを選んでいた。


「こんな美人目にしといて、口説かないなんて男の風上に置けない。」


 すっかりラーメンを食べ終えたみたいだ。席から離れるのかと思えば、ニヤニヤしながらラーメンに隠れてたチャーハンをレンゲで食べ始めた。


「うるさいわ。ナンパなんてせぇへんわ。してる暇あったらもっとええ子探すわ。」


 珍しく連が荒々しく返事していて面白い。食券を渡して連と彼女の様子を伺いながら、ラーメンを待つことにした。


「相変わらず如月ん家って素はそれだよねー。私の家の方がお上品。」


 平然と彼女は連を煽っていた。


「へぇ、それがお上品。そうやとしたら、看板に偽りあるわ。そんだけ真っ白な髪の毛なのに、中身は真っ黒やもん。京都人どころか大阪人の方がもっと上手に煽りはるわ。」


「ほらすぐに赤くなって煽り返す。それだから、私の方がお上品なわけよ。学ばないんだねー。てか、学校じゃ良い点数取って、鬼の首を取ったように喜んでるみたいだけどあの学校で幾ら成績が良くたって、全国規模で見ればそんなじゃない。」


「そんなんしてへんわ。それに僕に対して、『鬼』とか言わんといてくれる?」


 ちょうどそのタイミングで注文したラーメンとかが出来上がった。

 食べ始めて時々ちらりと見てて思ったけど、二人とも食べ方が丁寧でいかにも中流以上な雰囲気を纏っているように感じた。


「ごちそうさま!」


 先に当然白髪の彼女の方が食べ終わった。立ち上がって自分の方に近づいてきた。


「え、何。」


 と困惑していると、肩をポンとして彼女は軽く自己紹介した。


「私、桃金(ももがね)桜子(さくらこ)。私も関東なんだけど、お父さんの仕事の関係でこっち来たんだ~。よろしくね。」


 自分が何かリアクションをする前にガラガラドアが鳴った。また肩をポンポンされた。


「僕から1つ忠告するとしたら、おススメせぇへんわ。あれと関わんの。」


「単純に苦手だからじゃないの?」


 自分がそう返すと、ぷいっと顔をそらされた。そのまま視線をラーメンに戻して食べるのを再開した。図星じゃないか。

 ラーメンがやっぱり辛くて、何度か水を煽ったけど結構ボリューム感あって美味しかった。辛いものって口の中がヒーヒーするのになぜかまた食べたくなる。不思議だ。


「美味しいやろ。あ、ごちそうさまでした。」


 箸を揃えて、コップは空っぽにして連は立ち上がった。


「ありがとうございましたー!」


 お腹いっぱいになった。


「口の中まだラーメンの味する。」


「な、結構味あるやろ。そのせいで余裕あると食べたくなるんよなあ。困るわ。」


 口をハンカチで拭いながら、自分たちは普段使ってる駅とは逆方向の大通りに向かって歩いていた。


「財布にどのくらい余裕ある?それ次第でどうするか変わるんやけどさ。」


 財布を確認して、大丈夫そうだと返した。彼はなるほどなとでもいうように、口元に手をあてて考え始めた。


「まあ京都でもやると思うやけどさ、ぶらぶらしよか。」


「え、ぶらぶら?」


 自分の感覚的にはスイーツでも食べるのかと思った。


「これも奈良市ちゃうんねんけど、イチゴも美味しいんねんで、奈良県は。」


「へぇ、イチゴ。」


 連は辺りを見回して、ここちゃうなと言いながら大通りに向かって歩き始めた。


「結構韓国系の料理とかカフェが集まってるんだねここ。」


 自分がそう言うと、「そやな。」と相槌を打った。


「まあまあ今となって対外関係ややこしいけど、奈良と中国、韓国とかの大陸側の国って関係それなりに深いんねんで。そもそも奈良の平城京かって、造りは中国の長安をモデルに設計しとるし。まあ歴史関係の話はこのくらいにするけど、スイーツの方が目立つかなあ。まあ流行ったしな。でも、大阪のあの焼肉の香りがえげつないあそこの方がよう集まってると思うけどな。あそこも大阪行くのに通るけど、中々すさまじいな。」


 ほどほどに彼の話を聞き流しながら、大通りに出た。落ち着いたイメージが強かったけど、やっぱり観光地だし、夕方だけどそれなりに人で混雑している。


「あんまり人がいないんじゃなかったけ?」


 自分がそう言うと彼は苦い顔をした。


「夕方くらいになると飲食店閉まり出すやろ?せやから人が減んねん。奈良にもホテルあるけど、どっちかというと奈良のホテルより京都とか大阪のホテルの立地の方が交通の便ええから、日帰りする人多いねん。」


「それって、たくさん人来る人は来るけど、すぐ帰るってことだよね。」


 彼は頷いた。


「だから人口の倍人来てるけど、そんだけ来れんのはそういうことやねん。まあ、令和6年のそれぞれの都道府県が出してる、観光客関係のデータ見ると面白いと思うで。」


 思っていたけど、情報ソースが結構信頼ありそうなの多いのが妙にツボ。


「……何か普段と違うな。口角が上がっとる。面白かった?」


「別に何でもないよ。」


 噂の高速餅つきのあの店の前には、それなりに列が出来上がっていた。


「観光地だから値段高めなのかと思ったら、思ってるより安いね。」


 自分がそう言うと、彼は頷いた。


「なあ、僕もそれ驚いたわ。餅屋さんの前でこんな話するのもアレな気がするけど、実は奈良ってかき氷も有名なやんで。この辺りやとかき氷オンリーな店はぎょーさんあらへんけど、かき氷も出す店もそれなりにあんねんで。市役所周辺にもまあビッグなカフェチェーン店があるけど、そこからちょっと離れたところに奈良名物を出しはるお店もあんで。そこは……よっぽどお財布に余裕あらへんと行くのおススメせぇへんけど。あ、でも名誉のためにフォローしておくと、穏やかな感じやし奈良っぽいお土産もそばで買えんねんで。」


 なんて名前って訊いたら、えーっとと言いながら彼は検索し始めた。


「あ、これこれ。」


 スマホの画面をスクロールしながら見せてくれた。


「どのくらい?」


「ほんまに観光地お値段って感じやで。かき氷と柿の葉寿司、柿の葉茶のセットを頼むと大体2000円くらいはしたかな。あ、あとで一応調べといて。」


 相変わらず丸投げするなあと思っていたら、手に餅がそれなりに詰められたパックを置かれる。


「奢り。どうせ観光するなら気持ちよくできるほうがええやろ。お返しは要らんよ。ありがとうございます~。」


 そう言いながら、自分たちは店前から離れた。


「僕は食べなれてるからそっくりあげるわ。お母さんかお父さんか、まあ家族と楽しみ。てか、そろそろ帰った方がええんちゃう?」


 連は腕時計を見せながらそう言った。確かに良い時間だ。


「今日は、ありがとう。」


 連はにっこり微笑んだ。


「また明日ね。」


 来た道を戻りつつ、自分は帰途についた。

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