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如月連の他愛ない話  作者: 平城心の鹿


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如月連の地元の話

「君、名前何て言うの?」

 と、席替えしたときに話しかけられて心底驚いたのは、特段他愛もない話。


「へぇ、僕は、如月(きさらぎ)連(れん)って言うねん。もしかして、あんま知らんかったんやけど、君って関東出身?」


 1時限目は総合の時間で、担任はこの時間に席替えをした。隣に来たやつが突然不躾に出身について訊いてきたので、イラっとした。関東出身だったら、何なの?と返すと、彼はからから笑って、顔の前で手を縦に軽く振った。


「ごめん、ごめん。怒らせるつもりはなかってん。いやさあ、僕、おとんが関東からこっちに来た言うから、ついつい親近感があったんよ。なんか、関東っていかにも先進的、みたいなイメージあんねんけどどうなん?」


 別に普通だよ、とうざったく思いながらそう返事すると、「へぇ、そうなんや。意外やなあ。」と、頭の悪い答えだ。


「んで、関東から関西、まあ奈良に来てみてどう?楽しい?」


「別になんもないよ。あ、でも物安いよね。」


 と、言うと苦そうな顔をして、「やっぱりぃ?奈良ってぶっちゃけほぼ大阪の属国やからなあ。」と、関西ジョークかわかんないことを言った。


「属国?」


 そう訊き返すと、彼は頷いた。


「そう、奈良は大阪の属国みたいなもん。だって、奈良でお勉強したらどこで働くと思う?関東まで行くのは遠いし、大阪なんて三大都市圏やで?大阪に働きに行くやろ?奈良で働く人もそりゃおるけどさ。だから属国。」


 彼は「属国」と言い切ってしまって、えらく乱暴なことを言うなあと引いた。


「あ、引いた?」


 すぐにリアクションから見抜かれたらしい。


「あ、でもそれなりに裕福っていうか、まあ言った通り物はそれなりのお値段やから、お勉強とか子供にお金かけて奈良ん中でも都市部の方は少子化なんてまだわかりにくいで。おもろいやろ。」


 どう笑うんだよこの話。と冷めた目してると、少し困り眉で「受けへんかったかあ、関東の人の笑いは厳しーなぁ。」と、言った。


「関東、関西関係なく、会話に染みこませた、ただの社会じゃんそれ。」


 と、言い返してやると、それもそやな。とニコニコ返事した。


「てか、奈良って観光地でしょ。それで稼いでると思うんだけど。」


 そう自分が乗ってやると、連は顎に手を当ててにやっと笑った。


「そう思うかもしれんけど、意外と全然稼いでへんくてな。生産業が一番稼いでんねんで。」


「どこで知ったのその情報。」


「奈良市のホームページとかに一応出とんで。まあ、観光業を飲食業とかで捉えても、やっぱ稼ぎ少ないわ。」


「……正直、これ以上現実見たくないかも。」


 奈良って鹿と大仏でゆったりしてると思ってたから、あまりにも夢ぶち壊しの内容で耐えられなくなった。話を変えようとオブラートに言う。


「じゃあ、現実っぽくない話なぁ……ムズイな。」


「若者だよ?」


「若者だからって別に夢をみるわけちゃうよ。」


 その通りです。反論できなかったので、そのまま連の話を聞くことにした。


「いや、歴史という現実の積み重ねを常に直視するわけやからさ、僕ら。夢みてって言われても難しねん。」


「超哀しい話じゃん。」


「現実を直視させる話なら、まだあんで。」


「仕方がない。聞くわ。」


 もっと諦めた。


「奈良公園に鹿おるやん。」


「いるね。お辞儀するのあれ、すっごく行儀良いなあって思う。」


 自分がそういうと、声を抑えて連が笑い始めた。「何笑ってるわけ?」と聞くと、こう答えた。


「あれお行儀ええわけちゃうで。お辞儀したら、観光客が餌くれるって学習したから、あれぺこってしてるだけやで。だから、お辞儀見たくて渋ったらどつかれんで。」


「え、どつく……?」


「どつくの意味知らん?突進されたり、嚙まれたりすんで。」


「ええ……聞きたくなかった。」


 自分がその現実にショックを受けてると、更に現実を上塗りしてきた。


「あと、鹿、賢いのか知らんけど、学習の一環で横断歩道渡るようになってんの、知ってる?」


「マジで?凄いな。」


「あれも普通に渡ったら車に轢かれるって学習してるからやで。とか言っても、年間確か100頭くらいは死んでもうてるらしいけど。かわいそうやんなあ。」


「本当にかわいそうって思ってる?」


「しゃーない。これが今の自然の在り方や。」


「随分と非情。」


「奈良の生産品の1つに鹿の皮あんで。」


「神様の使いじゃないの!?」


「使い言うても、1000頭単位でおるはずやから、割と生産品と扱ってもそこまで影響ないで。まあ、あまりにもここ最近雑な扱いな気もするから、愛護団体が発足して活動してはるけどな。」


「流石に?」


 連は頷いた。


「あ、因みに確か鹿のジビエの店どっかにあったで。」


「本当に神様のお使いなの!?」


「春日大社さんのとこで管理してるし、縁起的にお使いやで。ただお使い言うても、結局動物やからな。あ、鹿皆べたべた触るかもしれんけど、あれ触らん方がええで。」


「何で?」


「汚いからや。」


「シンプルイズベストな理由!」


「ばっちぃし、あと何や。天然記念物やから、触ってえらい目にあったら、何言われるかわからんし。」


「現代的な理由だなあ。」


「幾ら歴史的言うても、京都よりは!多分現代とマッチしてるんちゃうか!?」


「それは偏見だよ!!」


 自分がそう叫ぶと、軽く睨まれた。


「何や、自分、京都の肩持つんかい?」


「何で自分脅されてるんですか?」


「京都は確かに抹茶美味しいし、きちんと夕方超えても営業しとるし、ラーメンも美味いけどな。あれはあまりにも歴史に媚び売り過ぎや。」


「何か急に火力増してない?どうしたの?」


「何で京都がいかにも『うちがトップオブ歴史どすえ』って顔してんねん。」


「たんま、ガチたんま。それ以上殴るのはいけない。」


 別のクラスメイトがこんなことを言った。


「歴史の古さで言えば、宮崎か島根ちゃうんか。」


「それ言うたら終わりや。」


 1時限目が終わるチャイムが鳴った。


「2時間目、国語やけど教科書ある?」


 鞄の中を探すと……あった。


「あるんか。ならええわ。関西の空気馴染むの大変やろうけど、頑張ってな。」


 連は自分の肩をぽんっと叩いて、いつもつるんでいるであろうクラスメイト連れて教室の外に出た。

 自分は大人しく教科書を開いて、今日やりそうなところどこなんだろうと、ペラペラめくっていた。近くで女子生徒がキャッキャッしてた。


「相変わらず、連ってさ、変だよねー。」


「わかるー。いや、面白いんやけどさ。」


「でもあれで、学年トップやで?やっぱ勉強してんのかなあ。」


「勉強してるんやろなあ。てかさ、顔も結構クール系っていうか目がかっこいいよねえ。」


「わかるわー。だから、2組の子告ったらしいで。」


「どないなったの。」


「フラれたって。」


「うわー、理想高ー。でも2組の子わかるわー。あれ、めちゃ褒めてくれるやん。ああいう彼氏ほしいわー。」


 耳をそばだてる話じゃなかったな、と後悔して教科書に目線を戻す。5分前チャイムが鳴って、そのタイミングで連が帰ってきた。連の顔をちらりと見る。

 こういう顔とか雰囲気がモテるのか、とわずかにムカついた。ストレートの黒い短髪、少し大きめでツリ目な黒……灰色の目で、デカい。身長があれ、180センチはありそう。運動してるのかわかんないけど、肩幅も広い。


「何見てんの。恥ずかしわー。見んといてー。」


 と笑いながら、自分の隣に着席する。


「正統派王子様かよ。」


 と嫉妬が隠せないまま呟くと、「そやなあ。」と連は呟いた。


「正統派王子様は、多分こんなきもないでー。」


 連は笑い飛ばした。余計にその余裕っぷりと自虐に嫉みが隠せなくなりそうだ。


「何でそんな険しい顔してんの?」


 相当その妬みが顔に出ていたらしく、言及された。


「うるさい。持ってる人間にもたざる者の気持ちがわかる?」


 かなり捻くれて意地の悪い返しをした。


「うーん、自分も全然持ってる側ちゃう?いやデリケートな話かぁ。ごめん。今の忘れて。次、国語やけど、どう?自信ある?」


「自信も何もいつも使ってる言語がわからないで、生きていけるわけないでしょ。」


 さっきから鋭い返しばかりなので、連の眉も下がり眉になった。


「何かやった?僕。気に障ったんやったらごめん。」


「別に。ただの嫉妬だから。」


 いざ授業中、国語の時間、源氏物語について勉強するようだ。隣をちらっと見ると、教科書じゃなくて、古典便覧を開いている。自分の視線に気づいて、連の視線が便覧からこっちに移る。


「便覧見る?」


 こそっと訊いてきて、自分もこそっと「見ない。」と返した。「そっか。」とほんの少ししょぼんな顔をして、また便覧に視線が戻った。板書もそれなりにこなして、プリントが配られる。問題を解いて、わかんなくなって、顔をあげてまた隣を見た。

 まだ古典便覧を見ていた。そしてまたこっちを見た。


「そういえばなんやけど。」


「何だよ。」とむっとした顔をしたら、こう言い始めた。


「藤原道長直筆の写経、実は奈良にあんねんで。」


「どういうこと?」


 思わず訊いてしまった。連が再びにやっと笑う。


「引っかかったな?吉野の方で発見されてんや。金色の文字に紺色の紙や。確か。僕見に行ってんよ。奈良国立博物館で展示してたときに。」


 ただの自慢かよ。


「こらー、幾ら優秀だからって、転校生に迷惑かけるんじゃありませーん。」


 国語教師の注意が飛んできて、肩をすくませながら連はプリントに視線を戻した。ちくたくと時計の針は進んで、やがてチャイムが鳴った。


「……そういえば、ずっと便覧見てたけど何で?」


「和歌見てた。」


「和歌?」


「ん、奈良を題材にしてそうなやつそれなりにあんねんやんか。自分知ってる?阿倍仲麻呂のやつ。」


 わからなかったので首を横に振った。


「あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも ってやつ。この三笠山って奈良の山のこと。」


 無意識に「ほへー。」と間抜けな返事が出た。


「あと、奈良の山ならそれより前の持統天皇もゆかりがある人やわ。」


「えっと……はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま……?」


「その最後の天の香久山っていうのが、橿原の方にあんねん。ああ、これも知っておくとええで。大和三山。」


「連って止まらないね。」


 そう呟くと、「だっておもろいからな。」と特に面白みのない返事が返ってきた。


「畝傍山と天の香久山と耳成山っていうのが大和三山。これ覚えてると、地味に試験で役立つかもやで。」


「かも?」


「うん、自信あらへんもん。」


「1時限目の奈良語りのときは、すごい自信満々だったのに?」


 困ったように連は笑う。


「あれも知らんで?」


「無責任!」


 連は笑って、そんなこと言わんといて、と言った。


「あ、せや。」


 連は何かを思いついたようだ。


「あれ、女性天皇で有名な人たち、結構奈良にゆかりあんで。推古天皇も持統天皇も奈良の飛鳥やし、その間の2回即位しはった、これ、重祚言うねんけど、女性天皇の皇極天皇も飛鳥やし。元正天皇も奈良やし。」


「すごいな。」


 すこーし感心した。


「そやろ。ま、これ、他人の褌(ふんどし)で相撲とってるだけやけど。」


「本当に連はあげて落とすスピード早くない?」


「ジェットコースターっておもろいやろ。」


「もしかして、人間の判断基準面白いか否かだったりする?」


「それはちゃうわ。幾らおもろくてもこっちのこと好きじゃない人とお喋りすんの辛いやんけ。」


 なぜか連の視線にビクッとした。声を整えて返事をした。


「それは、そう。案外まともな判断基準なんだね。」


 そう言うと、「何やその返事。思ったより冷たいやん。」と、さっきとうってかわって拗ねられてしまった。


「ごめんって。」


 反射的に謝ったけど、こんなことで拗ねるとは案外メンタルが弱そうだと思った。


「ええよ。」


「許すのも早くない?」


 心の中で前言撤回した。


「人間関係は早く修復して、早く諦める方がええやん?」


「まぁ……確かに?」


 今までの会話と温度感が違うその発言に納得できないまま、7時間目のチャイムが鳴った。


「ねー、今日こそは一緒に帰ろうやー連ー。」


 隣席に女子生徒がそれなりに集まってきた。


「ごめん、無理やわ。女の子とおったらついつい長話してしまうもん。おかげで、よう怒られんねん。僕。」


 断った矢先に、連がこっちを見た。


「え、何?」


 突然の振り向きに動揺して尋ねた。


「そういえば、自分、どこに住んでんの?」


「え、歩いて10分くらいのところ。」


 女子生徒が連より先に反応した。


「めっちゃ近(ちっか)ー!なにそれ、羨ましいんやけど。」


「まあね。おかげでちょっと寝坊してもすぐ学校来れるから助かってる。」


 自分がそう答えると、連がふっと笑った。


「確かに羨ましいな。僕、歩きどころかガチ時間かかるからさ。」


「どのくらいかかるの?」


「9時に起きたら1時間目終わるくらい。」


「45分!?」


「連、そんな時間かかんの!?やばぁ!うちやったらめちゃサボってるわ。真面目やなあ。」


「そんなことあらへん。ちゃんと学校行かんかったら、めっちゃ親に心配されんねん。」


「余計真面目やってそれ。」


 女子生徒がけらけら笑いながら、連の背中をちょっと強めに叩く。


「とりあえず今日は無理やけど、また別の日にどっか行く?近くに商店街あるし、そこでハンバーガーとかポテト食べんのアリちゃう?」


 そう連が女子生徒に喋ると、女子生徒は食いついて「めっちゃいい~!じゃまた!」と発して、教室を出ていく。


「なるほど、だからモテるんだな。」


 そう自分が呟くと、連は声を抑えて笑った。何だよ、と訊くと手を縦に前に出して振って答えた。


「これでモテるんやったら、大概の男子はモテんで。」


「それは連の顔が良いからでしょ。」


 呆れながら返した。


「あのな、女の子は断るときは良さそうな代替案出したらええし、褒めておだてて軽ーくお姫様扱いしとったらええねんで。楽やから自分は面倒臭くないし、女の子は気持ちいいし、でお互い得やろ?」


 その返事で顔が引きつりかけた。


「連、結構腹黒だな!?」


 連はのけぞって爆笑した。

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