おかしなはなし
ここでおわりです
36.
「 だって、おかしなはなしだよな 」
バタン、と開いていたぶあつい紙束をとじた男は、手紙をのせた銀のトレーを持って机の前に立つ女にきいた。
「なにがですか?」
「 この《勇者一行》だよ。 えっと、《勇者》の名前なんだっけ?そうそう、《リミザ》だ。どこの地方の出身だっけ?まあ、いい。とにかく、このパーティー、このまえ、うちの連盟からの依頼で《白銀のドラゴン》退治に行ったやつらだろ?そしたらなんかやたらとトラス王国に気にいられたみたいで、このパーティーは、絶対にこのままつぎの依頼を受けてそのまま仕事を続けるべきだ、とか、国王の正式な推薦状とかついてきちゃって、大臣からはつぎの仕事で世話になる国への紹介状もきたんだぞ?」
「ああ、ちょうどトラス国王がご病状が回復なされたところにいたから、そのお祝いでつけてやったんじゃないですか?」
女は冷静にこたえ、銀のトレーを机においた。
「ふん。そうか?それでつぎに、ちょうど連盟に加入したばっかのアチルゴ国からきてた《退治依頼》をまかせてみれば、こんどはアチルゴの国王からの感謝状まできたんだぞ?なんなの?こいつら。なにかの慈善団体員のパーティーとかなの? だって、こんどのアチルゴ国にでむいての仕事、全く関係ないのに、なんでまだ、トラス王国のタルトン王子からの推薦状が届くんだ?」
「さあ。とりあえず、このほかにもタルトン王子からの推薦状はあと五通きてます。それで、次もこのまますぐに《退治依頼》をうけさせるべきだと、トラス王国のカシール国王からの推薦状も」
「トラス王国はあのパーティーに弱みでもにぎられたのか?それなら連盟に訴え出ればいいものを」
トレーからとりあげた手紙をひらきもせず机に放る。
「訴え出られない内容だから、『弱み』というのでは?」
机の前に立つ女がききかえす。
「まあ、そうか。だが、勇者パーティーのひとつやふたつ、こちらで《処分》できると、伝えてあるんだがなあ・・・。あそこのカシール国王、倒れたっていうから、頭もあやういのかもな」
「また、そういうことをくちにしないでください。いいですか、ここは《王様連盟》の事務局ですよ。発言には気を付けていただかないと」
女の注意にうるさそうに手をはらった男は、机においたままだったひもで閉じられた紙束をとりあげた。
「見ろ。アチルゴ国もきっと連盟に加入したばっかりでその《勇者一行》にいいようにたきつけられたんだな。こんなぶあつい国民連盟の『感謝状』なんて送ってくるなんて、たきつけられてないのに送ってきたとしたら、あそのこ国王もちょっと頭おかしいぞ」
「ですから、ウエイドさま、特定の国王への発言はひかえてください」
「いや、だって、おかしいだろ?おかしいよ。 そもそもはじめの《白銀のドラゴン》なんて、情報の確認不足で、生物なんかじゃなかったっていうんだぞ?銀でできた巨大な像だったっていうが、重みで谷底に落ちてったっていうあのパーティーの報告は、おれは信じてないからな」
「銀製の鱗が報告書といっしょにおくられてきましたが、信じてないのですか?」
「ちがうちがう。『忘却の山』にはいったのは本当らしいから、まあ、そこそこの実力者ぞろいなんだろう。でもそれなら、銀でできたドラゴン像を持ち帰ってるかもしれないぞ」
どうだ?というように指をむけられた女は眉をあげ、「ほんとはそんなことおもってないでしょう?」と、わらってみせた。
「 ―― うん、そうなんだ。でも、そうだったらいいなあ、とは思ってる。なんだかこの勇者パーティー、おかしなはなしばっかりだ。いままで聞いたことないことばかりのことが、起こってるかんじがするな。魔族も少なくなった今、おれは、ここでの変化のすくない仕事を愛してるって言うのになあ・・・・」
ひもでとじられた紙束を指先で数度たたくと、それはマッチ箱ほどの大きさになった。
つまみあげた男はそれを銀のトレーに投げる。
「・・・それらの書状といっしょにしまっておいてくれ。このパーティーがこの先なにか問題をおこしたとき、推薦状や感謝状をおくってきた国に責任をおしつけよう。 なにしろ、 ―― おかしなはなしだからな」
まゆをあげて女にほほえみかけた男は、机のすみにおきっぱなしだった書類に手をかけた。
重なっている書類を指先でひきよせる。それは、『リミザ・クリフ』と『ラフィー・ゴンダッド』のもので、その上に置かれた紙には、赤いインクで書かれた疑問形の言葉がひとつ。
《 おかしくないか? 》
目をとめてくださった方、おつきあいくださった方、ありがとうございました!




