第49話 聖女たち 1
神殿の始まりは、白い石板である。
世界中に点在する石板はどれも寸分違わず同じもので、手のひらを天に向け腕を広げた男性と思われる影が、その後光の中に人や森、動物を従えた姿が彫り込まれている。
長年、雨風にさらされていただろうに少しの痛みもなく艶々と光輝き、どのような方法で傷つけようにも傷一つつけられず、どんなに動かそうとしても微動だにしない。
いったい誰がそれを作り、いつからそこにあるのか誰も知らない。
だが、いつの間にか人々はその石板に神秘を感じ、祈りを捧げるようになり、石板を守るために神殿を立てた、と言われている。
そして、その神殿に仕えるのは、石板に不思議な力を感じる者たちだ。
私もその一人。
子供の時分から石板の不思議に魅了され、成人とともに神殿に仕えることにした。
家族には石板の力を感じられる者はおらず、私の行動も理解できないと反対されたが、そうしなければならないと感じたのだ。
神殿での生活は単調だ。
朝起きて、石板を眺めて、神殿を訪れた人の話を聞いて、石板を眺めて、炊事洗濯をして、石板を眺める。
不思議なもので、神殿で石板を見ていると、心が無になる瞬間がある。
そうなると石板の力が可視化され、自分の中に入ってくるのが見えるようになる。
それが長くなればなるほど、石板の不思議な力はその身の内に多く宿り、今度は外に向かって使えるようになる。
力は、他者の心を穏やかにし、病を癒し、愁いを浄化する。
私たちによって不安を取り除かれた人々は、石板に祈りを捧げ、その祈りはまた力になり私たちに戻ってくる。
それは神の力なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
神はどこかにいらっしゃって、我々のことをご覧になっているのは間違いないが、石板が見つかってから今の今まで、私たちは神の姿も見たことがないし、声も聞いたことがない。
けれども、私たちにとって、力とは神のものだった。
いつか、石板の不思議と力が、神のものであるか解明される時が来る。
そう思っていた。
しかし、それが今だとは思わなかった。
いつものように皆で石板を眺めていると、突然石板が光を放ち、辺りに声が響き渡った。
―――我が力を得た者たちよ。今こそその力で世界を救うのだ。
そこにいた誰もが信じられないという顔をした。




