第40話 兄 1
妹がいた。
父に、弟か妹が生まれるんだよと言われたときは、まだ意味が分からなかった。
けれども、両親があまり相手をしてくれなくなり、
母のお腹が少しずつ大きくなっていき、
なにか不思議なことが起こっていることは分かった。
不安なまま時が過ぎて、屋敷中が昼夜騒めいてようやく妹が生まれた事を知らされた。
初めて見た妹はとても小さかった。
「かわいいでしょう。貴方の妹よ。大事にしてあげてね」
見たこともないうれしそうな顔で母が言い、父が泣きながらうなずいていた。
そう言われた私は、両親の関心を得られない不満をここぞとばかりに爆発させ、
しばらくの間、妹が泣くたびに癇癪を起こしては周りの人間を困らせていた。
それを終わらせたのは妹だった。
妹が、オニイタマ、と舌足らずな声で私を呼んだ瞬間、
心臓を鷲掴みされたような衝撃を受けた。
まだおぼつかない足取りで、父や母を素通りし私の方へ歩いてくるのを見れば、
そのころには父や母が妹だけではなく私のことも間違いなく愛してくれていると理解したのもあっただろうが、
不満も不安も吹き飛んで、大事な妹だから守らなければと自然と思えるようになったのだ。
それからすぐに、私は父の跡を継ぐために、妹は王子妃となるための勉強が始まった。
母は妹に付きっ切りになり、父は領地や王宮と屋敷にいることが少なくなった。
その分私は一人になることが多かったが、妹の未来を考えれば致し方ない、今は足場を作るためだと我慢できた。
私たち家族に力がなければ、王宮に上がった妹を守るどころか、会えなくなるかもしれないのだから。
妹は父の髪と瞳の色に、小柄な母の容姿を受け継いで、とても美しい少女になった。
幼いころから落ち着きがあり、勉強も良くできた。
ダンスは少し苦手なようだったが、もう少し大きくなり体力が付けば大丈夫だろうと言われていた。
すべてが順調だった。
このままきっとうまくいく、そう思っていたのに……。
王子殿下との顔合わせを前に、突然、病を発症した。
高熱を出したかと思ったら、ひどい咳をして意識をなくした。
そして、病の名も、治療もままならず。
なんの手の施しようもなく、そのまま数日で、あっけなく死んでしまったのだ。




