第二十四章 ぼくらが廃村に招かれた話 7.廃村探検~収蔵品補修~
~Side 優樹~
まさか逆柱が、この辺りの電柱をみんな引き連れて参加してくれる――なんて思ってもみなかったから、予想外のやっちゃった案件に少し引いてたけど……真凛の言うとおり、ぼくたちが疑われる心配はほぼないんだし、マヨヒガの建設にとってプラスになるのは間違いないしね。凹むのはやめにした。物事は何でも前向きに考えなきゃね、うん。
気を取り直したぼくたちは、足の向くままに廃屋を訪れて、何か取り込めそうなものはないかと探してたんだけど……
「……真凜ちゃん、ほら、あれ」
「大きな甕ねぇ。割れちゃってるけど。植木鉢?」
「じゃなくて、火鉢みたいだね」
「火鉢? あれが? ……一メートルぐらいありそうよ? 差し渡し」
「うん。大家族用だったんだろうね。割れてるから捨てていかれたみたい」
「……取り込むつもり? 割れてるけど……あ、素材?」
「ううん。……あのね……【収蔵品補修】ってスキルが生えたみたい。……【取り込み】のオプション扱いなのかな?」
「はぁっ!?」
うん、真凜は驚いてるけど……正直、ぼくも同じなんだよね。
《対象物の品質は以下の通りです。
【火鉢】 品質:下 貢献度:小 状態:破損 補修:可能(易)
マヨヒガの備品もしくは収蔵品として取り込みますか? はい/いいえ》
まさか、壊れたものを取り込んでから直す……なんて事ができるなんてね。
収蔵物をどこから調達するか悩んでたけど、壊れたものを補修できるんなら、難度は一気に下がるよね。エコだよエコ。
「壊れてるのを直したら、品質とかも変わるのかしら?」
「……確かめておいた方が良いよね」
それが確認できるまでは、手当たり次第に取り込むのはやめた方がいいかな。格の低い収蔵品ばかり集めても、役立たずの場所ふさぎって事になりそうだし。……キャパとかあったらまずいよね。
「直したものを売ったりするのは……難しいかしら?」
「真凜ちゃん……小学生のうちから転バイヤーの道に踏み込むのは、どうかって思うんだけど」
「あら、でも、確かめるだけは確かめておいた方が良いんじゃない? 売り物になるレベルで補修できるのかどうかぐらいは」
「……どうやってそれを確かめるつもりなのか、ぼくとしてはそっちの方が気になるんだけど……」
「フリマか何かでいいんじゃない? こっそりまぎれ込ませておけば」
……結構考えてるんだな。
「だったら、何か使えそうなものを探してみようか」
気合いも新たに見まわりを再開したんだけど……
「どうしたのよ? 優樹」
「うん……あそこ、生い茂った草に隠されてるけど……わかる?」
「わかる――って……あ、石?」
「うん。沓脱ぎ石ってやつだと思う」
縁側から裏庭に降りるところに、大きな石が置いてあった。あれだけ大きな石は、ちょっと見つけるのも難しそうだしね。外構えになるみたいだし、ここは取り込む一手だろう。
取り込んだ跡は真凜の魔法で消してもらえば、ほら、最初からそんなものはなかったみたいだよね。
そんな感じにあちこち見てまわって、石臼とか杵とか錆びた鍬の先っぽとかは手に入ったんだけど――
「……真凜ちゃん……一応確認しておくけど……迷い家のトイレがどんなだったか憶えてる?」
「……いきなり何よ? 憶えてない……って言うか、見てないと思うけど?」
「うん……そうだよね……」
「優樹……何が言いたいのよ?」
「うん……あのさ真凜ちゃん……便器とか、取り込んどく?」
「……はぁっ!?」
いや……信じられないって顔してるけど……大事な事だと思うんだよね。建築中のマヨヒガのトイレがどうなるのかわからないけど、古式ゆかしいボットン便所の可能性が高いと思うし。だとしたら――水洗便器なんて、他の場所では手に入らないよ? まさかぼくらが買いに行くわけにもいかないし。
「――イ・ヤ・よ! 誰が使ったかわからない中古の便器なんて、絶対にイヤ!」
「だったらトイレは……」
「外で……いえ、そういう意味じゃなくって……こっちの世界で済ませておけばいいわ」
「うん……真凜ちゃんがそれでいいなら……」
――これ以上この問題を掘り下げない方が良いと思ったから、ぼくはスマートにこの問題をスルーして、そのまま廃屋を後にした。




