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ぼくたちのマヨヒガ  作者: 唖鳴蝉
第三部 五年生 二学期
72/118

第二十一章 生月市「テケテケ」伝説 1.発端

お久しぶりの「マヨヒガ」です。今回は四話の連日更新となります。

 ~Side 優樹~


 同じ班の富沢茂――通称・茂ちん――は、ちょっと軽い感じはするけど、これでも地元の旧家のお坊ちゃんだ。ご両親やご隠居さんたちは言わば地元の名士なわけだから、茂ちんの家には普段からお客さんが多い。そのせいだろう、うわさ話なんかを真っ先に聞き込んでくるのも茂ちんだ。


 そんな茂ちんが、さも思わせぶりな様子でぼくに話しかけてきたのは、九月に入って最初の金曜日の事だった。


「……足なしお化け?」

「そ! 榛原(はんばら)の辺りに出るんだってよ」

榛原(はんばら)って、廃工場がある辺りだよね? 空き家が多いし、木立とかで見通しも悪くて危ないから近寄るな――って、先生たち言ってたじゃない。怒られてもしらないよ?」


 治安とかフウキが悪いから、子供はできるだけ近寄るな――って言われてるんだよね。特に暗くなってからはダメだって。

 お化けが出たっていうなら、暗くなってからだよね? そんな時間にあそこへ行くなんて……


「ばっか、オレじゃないってば。家に来てたオバ……お姉さんたちが話してたのを聞いたんだよ」


 茂ちんお得意の立ち聞きかぁ……


「アレだろ? (ゆう)()()(すみ)()と組んで、ヨーカイ探偵とか始めるんだろ?」

「……どこでそんな変な話を聞き込んだのか知らないけど……夏休みの自由研究で少し興味がわいたから、もう少しだけ調べようかって話してるだけだよ。……だれから聞いたの?」


 フーヒョーヒガイの大元を突き止めようとしたんだけど、


「ま、それはおいといて――どうだよ? 足なしオバケって、面白そうじゃん?」


 ――茂ちんに軽やかにスルーされた。……茂ちんの場合、わざとなのか天然なのかがわからないからなぁ……

 ま、それはおいといて――


「確かに面白そうだけどさ」

「だろ? だったら――」

「その前に確かめたい事があるんだけど、〝足なし〟――って、どういう意味?」

「へ? ……いや、足なしは足なしだろ? 足がないって意味で……」

「うん、それはわかるけどさ、どういう風にないわけ?」

「どういう風って……」


 茂ちんは〝言ってる意味がわからない〟――って顔をしてるけど……これって、大事な点だからね?


「だからね、幽霊みたいに足が消えてるのか、それとも下半身がちぎれててないのか、壺とかから上半身が生えてるのか、それとも下半身が蛇なのか――とかね」

「あ……」


 うん、わかってくれたかな? 一口に〝足がない〟って言われても、これだけのバリエーションがあるんだよ。ちょっと考えてこれだけだから、他にもあるかもしれないしね。

 ……どうせ茂ちんの事だから、〝百聞は一見に()かず〟――とか言って、一緒に見に行こうって言い出す気だったんだろうけど……その前に、相手が何なのかわかっていないとダメだからね。幽霊とラミアじゃ、そもそも心構えだって違ってくるわけだし。


 そう忠告したら茂ちんは、うわさをしていた本人に確かめるって言って帰った。……フットワーク軽いなぁ。ぼくとしては助かるけど。



・・・・・・・・



「……足なしお化け?」


 放課後の帰り道、()(りん)に茂ちんから聞いた話をしたら、ぼくとそっくり同じコメントが返ってきた。少し笑えたね。


「うん。どうも茂ちんも立ち聞きしただけみたいで、それ以上くわしい話がわからなかったんだよね」

「う~ん……ただ足がないってだけじゃ、それこそ幽霊からラミア、アラクネまで考えられるわよね」

「アラクネは思い付かなかったけど……けど、そっち方向だと、そもそも〝足がない〟っていう表現になるか――って気もするんだよね」

「……そうね。すなおに下半身がヘビとかクモとか、そういう言い方になりそうな気がするわね。……あ、でも待って。暗くて下半身が見えなかった――っていうのはあるかも」

「……下半身だけが見えなかったっていうの?」

「うん。だって黒っぽい色だったりしたら、そう見えなくもないでしょ?」


 あぁ……そう言われればそうか。前に黒人のカップルが夜の公園で話してるのを見た人が、デュラハンのカップルとか透明人間だとか勘違いした――って話があったっけ。


「――何それ? その話は聞いてないわよ?」


 ()(りん)がその話に食いついてきたせいで、思いがけず話が脇道にそれる事になったけど、


「とにかくこの話は、富沢君からの追加情報が入らないと進まないって事ね。……ねぇ(ゆう)()、富沢君からの連絡は今日のうちに入るのね?」

「さぁ……そもそも情報提供者の女の人をつかまえられるか、それ次第だろうし」

「そうよね……」

「まぁ、茂ちん張り切ってたし、明日中には何か言ってくるんじゃないかな」

「明日かぁ……ギリギリよね」


 ()(りん)は難しそうな顔付きでそう言ってるけど……つまり……?


「え? 見に行くに決まってるじゃない?」


 あぁ……やっぱり……


「やぁねぇ、あたしだって先生の言いつけを無視する気はないわよ? でも――昼間のうちなら問題ないわよね?」


 問題ないかなぁ……


「いい(ゆう)()? あたしたちの目の前に(まよ)()が出現した理由、それを調べる事は、あたしたちにとって最優先事項……ううん、使命なのよ? その手がかりとなりそうな怪異があれば、これを調べるのは必然じゃない」

「まぁ……そうだよね」


 ぼくだって、それを認めるに(やぶさ)か――で、いいんだよね?――なわけじゃないよ?

 ただ……何と言うか……こう、ズブズブと深みにはまっていくような気が……


「――ちょっと待って(ゆう)()。……ほら、あそこ」

「何?」


 ぼくが()(りん)の指さす方に目を向けた時、向こうもぼくたちに気が付いたみたいだった。


「あら……あなたたち」

「こんにちは、先輩も今お帰りですか?」


 新聞部の源先輩がそこにいた。

明日以降もこの時間帯に更新の予定です。

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