第十八章 消えた七不思議 4.取材~称明寺~(その1)
~Side 優樹~
勝三さん――真凛のお祖父さん――の話によると、以前の称明寺はお寺と神社が合体したような感じだったらしい。今の場所に移転する時に、お寺と神社を分けたそうなんだけど。
で、ぼくたちは棗さんの紹介で、今の称明寺に取材に来てるわけなんだ。
お寺の和尚さんは昵戒さんという人だけど、最初はどんな漢字なのかわからなかった。
「ジッカイ?」
「うむ。日偏に尼という字での……」
「あ、昵近衆のジツですね!?」
……歴女の真凜が急にはしゃぎ出したところをみると、歴史関係の話なのかな?
「お嬢ちゃんは能ぅ知っておるの。その『昵』じゃよ。それに『戒め』で昵戒」
「……ぼく、別の字を想像してました」
「ま、それも強ち見当外れではないの。……実は、愚僧のお師匠は大層映画がお好きでの」
……映画の「十○」の事かな? 考え過ぎじゃないの?
そう思って聞き返したら、和尚さんイヤイヤと首を振って、
「愚僧には何名かの兄弟弟子がおるのじゃが……その方々の法名を教えて進ぜようか? まず、里西(「巴○祭」)、道悧(「ハ○ー・ドーリー」)、東究(「オリエント急行○殺人」)、素行(「卒○」)……」
……一人二人ならそうでもないけど……これだけ続いているとなぁ……真凛もポカンとした顔だよ……
「……それから解典(「○転木馬」)。この方は愚僧の直ぐ上の兄弟子での、俗名が木場とおっしゃるんじゃ。それもあってか、最初に疑いを持ったのもこの兄弟子じゃ」
「「………………」」
「弟弟子には弁白というのがおる。『ベン・○ー』じゃな。師匠によると、〝白とは百から一を引いた字になる。百のうち九十九までを弁えたとしても、なおかつ白紙の状態で臨むようにとの想いを込めた〟――とか言うておられたが……ま、こじつけ臭いわな。……当人は感動しておったが」
「「………………」」
「その下が良究。多分『○ーマの休日』じゃな。先に挙げた弁白と並べると、良弁僧正という立派な先達のお名前になるというんじゃが……だとしたら、上が良究で下が弁白になる道理じゃろうが」
……これは……クロかなぁ……
「他にも窓康と円孝というのがおる。元ネタが判らんで少し悩んだが……案ずるに窓康は『桑港』で、円孝は『○タの鷹』じゃな。円を〝まる〟、孝を〝たか〟と読むのに気付けば簡単な事じゃった」
「……つまり……和尚さんの名前は……」
「無論、『十戒』じゃな」
……あれってキリスト教のお話とかじゃなかったっけ。お坊さんの名前に使っていいのかな?
「まぁ、それを除けば立派なお師さんであったが……それはそうと、お前様たちが愚僧を訪ねて来たわけは? 棗さんの紹介という事じゃが?」
あ……そうだった。来て早々に衝撃的な話を聞かされたから、きれいさっぱり忘れてたよ。
・・・・・・・・
「ほほぉ……現川小学校の七不思議に、学校用地の素性のぉ……」
和尚さんはぼくたちの話に、興味を持ってくれたようだった。後になって聞いたんだけど、この和尚さん、自分でも郷土史だか郷土誌だかの研究をしてるんだって。その縁で棗さんとも知り合ったみたい。
けど、そんな研究者肌の和尚さんでも、学校が建つ前の土地から骨が出たという話にはおぼえがないそうだった。
「……じゃが待っておくれ……何ぞ読んだような憶えがあるんじゃが……」
和尚さんはしばらく首をひねってたけど、やがてポンと膝頭を叩くと立ち上がった。ぼくと真凛はそのままおとなしく待ってたんだけど、
「これじゃこれじゃ」
そうつぶやきながら和尚さんが持って来たのは、二冊の古い本だった。
「当寺では代々の住持が、寺方や寺領で起きた事を記録に残しておっての。まぁ、備忘録……覚書のようなものじゃが、寺や村の運営には大いに役立っておったのよ。これはその一つで、ちょうど小学校ができた当時の事が載っておる」
表紙を見ると「寺事雑記」と書いてあった。真凜はぼくの隣で食い入るように見てるけど、さすがに手を伸ばすような無作法なまねはしなかった。空気読める系の女子だよね。
「……ふむ……これを見ると、学校の建っておる辺りは、あまり良い評判は無かったようじゃな」
「――え?」
「そうなんですか?」
「うむ。祟りが云々と書いてあるが……具体的な祟りの内容は記しておらんの」
和尚さんの重大発表に色めき立ったぼくたちだけど……具体的な事はわからないと聞いて、一気に気分が盛り下がっちゃったよ。
この話はフィクションです。




