第十八章 消えた七不思議 5.取材~称明寺~(その2)
~Side 優樹~
「……まぁ、縁起の悪い場所だった――って、わかっただけでも収獲じゃない?」
「そうだけど……」
真凜は慰めようとしてくれるけど、ガッカリとした気分は上向かない。
「まぁまぁ、悲観するにはまだ早いて。そこでこっちの――今一つ古い方の登場じゃ」
……うん? そう言えば……和尚さんが持って来た本は二冊だったっけ。……「寺誌遺録」?
「こっちはさっきの三代前の住持が書き記したものでの、まぁ……更に百年ほど昔のものじゃ」
「そっちに何か書いてあるんですか?」
うん、真凜ったら興味津々だね。
「うむ。彼の地に起きた怪異の経緯がな」
「「怪異!?」」
ぼくと真凜の声がハモったのも、無理ないよね?
「そ……それで、何と」
あぁ……真凜ったらものすごい食い付きっぷりだよ。……まぁ、歴史と怪異が揃って出されたわけだから、無理もないかな。
「ふむ。……それがどうもこんぐらがっておるんじゃが……当時の住持殿の記するところに拠ると、最初の発端は地揺れ……地震であったそうじゃ」
「「地震」」
……意外な単語が出て来たな。それも〝最初の発端〟――って。……何かの祟りの結果で地震が起きたというんなら、まだわかるんだけど……?
「村での被害は……まぁ、大概揺れはしたようじゃが、そこまで大きくはなかったようじゃな。被害が大きかったのは一軒だけ。それも当時の豪農のところでの、家が傾いて半ば沈むようになっておったそうじゃ」
「「………………」」
「ま、これだけなら怪異――お住持は『恠異』という字を使っておるな――というほどのもんでもないんじゃが……豪農の田んぼに化け物が現れたそうじゃ」
「「化け物……」」
話が核心に近付いてきたなぁ……
「うむ。これによるとじゃな、何でも〝姿黒く妖しき者ども、田の内より数多出でて罵りけり。失せにし後はただ砂のみ残りたり。ゆえに化砂坊主とぞ〟……となっておる」
「〝けさ坊主〟?」
「うむ。化ける砂と書いて『化砂』――じゃな。中々上手いネーミングじゃの」
「それが怪異なんですか……」
……ぼく、思い当たる節があるんだけどなぁ……。前にテレビでやってたよ。
「坊は心当たりがあるようじゃの? そう、家が傾いたのは地震による液状化現象、現れた砂の化け物というのも、液状化に伴う噴砂じゃろう」
「液状化……」
真凜はボウゼンとしてるね? けど、ぼくも和尚さんの意見に賛成かな。少なくともこの怪異については、地震によって引き起こされたものとみていいよね。
「……じゃがな、今も昔も『持てる者』は『持たざる者』のやっかみを受けるものだと決まっておる。この時もそうじゃったようでな、色々と後日談があったようじゃ」
「「後日談……」」
「うむ。まずな、化砂坊主が罵っておったという言葉じゃが……これが、〝返せ、返せ〟と言っておったのだと言い出す者が現れた――〝田を返せ〟と言っておったのだとな」
「……泥田坊……」
「鳥山石燕の『今昔百鬼拾遺』に載っておるやつじゃな。あれでは北国の話じゃとなっておったが……ま、当時の百姓衆の中に、読んだ事がある者がおったのかもしれん」
「「………………」」
「そんなケチの付いた田んぼを耕す者はおらんし、小作人も皆逃げ出すやらで、以来すっかり落ちぶれてしもうたそうじゃ」
「「………………」」
「そうするとな、今度はそれを、富農が何ぞやらかした報いじゃと言い出す者が現れよった。それによるとな、件の富農は河童憑きの筋で……」
「「河童憑き!?」」
「お住持の話に拠るとそうなっておる。この辺りではあまり聞かんが、九州の一部では河童が憑くという話もあるらしいの。――ま、聞きなされ。その富農が一人娘を嫁に出す時、憑き筋の娘は困ると言われて、河童と縁を切った。それから水の恵みを失って、家が傾いた……となっておるそうじゃ」
「河童って……」
「泥田坊はどこへ行ったのよ……」
「この話は明らかに後付け臭くての、富農の没落後に急に言われ出したそうじゃ。当時のお住持も〝心無き流言蜚語の類なりや〟――と書いておる」
「はぁ……」
「怪談が生まれて広まる過程を体現したような話ですね……」
和尚さんの話はとても参考になったし、感銘も受けたけど……七不思議の説明としてまとめる前に、確認しておかなきゃいけない事ができたね。……真凜は気付いていないだろうけど。
「和尚さん……この話、ぼくらが報告しちゃっていいんですか?」
これって立派な学説だからね。ちゃんとした学会誌に載せられるような。……少なくとも、小学校のポスターで発表するようなものじゃないと思う。
「ふむ……構わんよ。発表するならもう少し突っ込んだ調査研究が必要じゃろうが、今はその暇が無いでの。坊たちに任せておいた方が面白そうじゃ。調査協力者として愚僧の名前……いや、寺の名前を出してくれて、書物をきちんと引用してくれればよい」
「あ……はい。原稿ができたら一度お持ちします」
この話はフィクションです。




