ラミアの生態について
神への祈りが届いたのか、特に嵐に巻き込まれたりする事無く無事に魔王国へ入国する事が出来た。
いやまあ、他の乗客の方が私達の目的地とは違うトコで降りたりするのは知ってたけど、進行方向が荒れてるからって迂回ルートになったりしてちょっと予定より遅れちゃったんだよね。まあでも誤差の範囲内だろう。
ちなみにだが、私達は誰も船酔いを発症しなかった。数日間の船の旅で船酔いになったら地獄だったから本当助かったよね。良かった良かった。
……うん、アレクがボソッと、
「僕、生前は船酔いでグロッキーになりやすくてよくアイザックに介抱してもらってたな。死んでて良かったー」
って言ってたけど。死んでたとしても足があったり内臓が残ってたりしたらアウトだったかもしれないと考えると、今のアレクで心底良かったなって思う。
まあ、とは言っても私達が船酔いを発症しなかったってだけで、他のお客さんは一部船酔い起こしてたけどね。とても辛そうだったからちょいと魔法でお助けしたら凄く感謝された。うんうん、折角の船の旅がそんな思い出になるのは嫌だもんね。
あ、そういえば船酔いに回復魔法は利かなかった。なんか、回復させると感覚が過敏になるのか酔いやすくなっちゃうみたい。だから闇魔法で三半規管とかの感覚を鈍らせる事で酔わなくさせた。回復って一筋縄じゃなくて不思議だよね。
船の中での話は大体そのくらい、かな。魔物に襲われたりも無かったから本当にそのくらい。
で、今私達はラミアの集落に一番近い港町……から出ているラミアの集落行きの馬車、が到着したから降りたところである。え、早いって?こちとら愛の証明の為に急いでるんだよ!途中の試練に病がどうのこうのとかあったからね!?私達がのろのろしてたらその人達大変じゃん!?そりゃ急ぐよ!急ぎ足だよ!
ただ……。
「じゃ、嬢ちゃん達気をつけろよ!ここは確かに最高の温泉地だが、ラミア達が目を光らせてるからな!仲間の男達から目を離すなよ!物陰に連れ込まれて搾り取られても良いってんなら放置でも良いけど!んじゃあな!俺おっそろしいおっかちゃんが家で待ってっからここに長居出来ねえんだ!帰りは他の馬車捕まえろよ!」
って、御者のおじさんが言ってたのが気になるんだよね。
「ラミィ、どういう意味かわかる?」
「…ん」
聞くと、ラミィはコクリと頷いた。
「ラミア……女、だけの…種族。常に、絶滅の危機……瀕してる。だから、違う種族……の、男、襲う」
「性的に……襲う」と、ラミィは言った。
あー、そういやそんな話出会ったばかりの頃に聞いたような気がする。違う種族の男を襲って精根尽き果てるまで搾り取るとか何とか。
「もしかしてだけどさ、ラミィ」
「……?」
私はコンとアレクとハイドをチラリと見てから問う。
「コン達、狙われる?」
「アレク以外……狙われる、と、思う…」
ラミィの言葉に、コンは全身の毛を逆立たせ、ハイドはとても嫌そうな顔になった。って、あれ?
「アレクはセーフなの?」
「僕これでも顔は良い方だと思うんだけど。あ、幽霊が苦手とか?」
コンもハイドもアレクもイケメンだけど、ラミアからすると生命力強そうな方が好みなんだろうか。そう思って聞くと、イースが呆れたように答える。
「……ラミアからするとぉ、性行為が前提なのよぉ?下半身が無い、しかも幽霊を相手する意味は無いでしょう?子供が作れないんだからぁ」
「あっ」
言われてみれば!
うっかりしてたけど、そういやアレクは下半身が無いんだった。しかも死んでる。これは確かにイケメンだろうと子作りは無理だ。物理的に。
「そういえば僕そういう系無理だね。だから範囲外なんだ。ラッキー♪」
機嫌良さげに鼻歌を歌うアレクを、コンとハイドは恨めしげに睨んでいた。
「…えーと、ラミィ。コンとハイドは私の嫁だからって言えば襲われずに済む?」
「………ん…」
ラミィは少し逡巡してから、
「ミーヤ…の、嫁……で、浮気、駄目……って、言えば…」
と答えた。
その言葉にイースも頷く。
「そうねぇ。本気で絶滅の危機に瀕してたら向こうも手段を選ばないでしょうけどぉ、そうじゃないならある程度は融通が利くはずよぉ」
「成る程」
なら大丈夫かな、と私は頷いた。
あ、ちなみに今のイース、人里じゃないからか角と羽と尻尾を出してます。服は前の布を垂らしておっぱいを隠してるだけの服じゃなくなって、アラビアンっぽい…∞?∞っぽい胸当てになってる。下もズボンだったのがヒラヒラしたスカートになってる。あの、透けてる布を何重にも重ねてる感じのやつ。
「衣装変えたの?」って聞いたら、「ミーヤの好みはこうでしょう?」って言われたよ。…うん、そうだね。今のイースは嫁だから、あの露出度の高い服が他の人に見られるのは、ちょっとね。
…さて、それでは。
「そろそろ集落に入ろうか。コンとハイドは私の近くに居てね」
「離れろって言われても離れねえからな!?」
「ああ。コンの言う通りだ」
二人は少し青褪めながらそう言い、私の服の裾を掴んだ。…ああ、うん、確かに連れ込まれて襲われる可能性があるよって話聞いたら、怖いよね。
ちなみに安全であるはずのアレクは「僕も僕も!」と言っていつも通りの背後霊状態である。良いけどね。
そんな感じでラミアの集落の中に入ったわけだけど……何か、思ったより普通?
「確かに殆どラミアしか居ないけど、街並みは普通なんだね」
「……ん」
普通に家があり、店があり、屋台がありって感じ。町を歩いてる…というか這ってるのは殆どがラミアで、疎らに観光客らしき人が居るなって感じだ。
……あれ、そういや私ってどうすれば良いんだろう。観光地としての人気が低迷してるから改善する案を出せって書かれてたけど、でもだからって普通に私が何か言って聞き入れてもらえるもんなの?
うーむ……。
途中の休憩所らしいベンチに座り、道行くラミア達を眺めながら考える。
「……ミーヤ様、何か考え事ですか?」
「うん、改善案を出せって言われても、具体的に誰にどう言えば良いんだろうなーって…」
「確かに、そうですね」
私の言葉にハニーも眉を顰めた。うーん、責任者っぽいラミアさんが居るのかな。その人に言ったとしても、信じてもらえるかどうかが……。
「なら」
悩んでいると、ハイドが口を開いた。
「一先ずラミィの実家に行って、ラミィの母親と話をしてみたらどうだ?そこから突破口が見つかるかもしれない」
「ラミィ、母親居ない」
ハイドの言葉に頷くより前に、ラミィがスパッとその案を両断した。
「ラミィ……と、いうか、ラミア……は、母親、居ない」
「…えーと、お亡くなりになったとかそういう事とは違う?」
「違う……」
どういうこっちゃ。
最初はラミィのお母さんがお亡くなりになってるとかなんだろうかって思ったけど、ラミア全体でお母さんが居ない?
どういう事なのかを聞きたいけどラミィは結構マイペースだし、話すのがあまり得意じゃないから聞いても核心の部分まで時間が掛かりそう。
「イース先生!どういう事ですか!」
なのでイース先生に質問だ!困った時のイース先生!
イースはくすくすと笑いながら、「はぁ~い」と言って空中にホワイトボードの幻覚を出現させた。あと何か、魔力がドーム状に私達を覆うのも感じた。あ、認識阻害かな?怪しまれないようにしてくれてるのはありがたい。
「まず大前提の知識としてぇ、ラミアは卵生なのよねぇ」
「蛇だから?」
「そうよぉ」
「でぇ」と言って、イースはホワイトボードを指差した。ホワイトボード…というかホログラムのようなソレは、洞窟の中のような背景になった。そして中心部にラミアが座り、周囲に幾つもの卵が置かれている様子を映し出す。
「このラミアの集落には温泉が湧いているからぁ、その地熱のお陰で集落の中は殆どが暖かい気温なのぉ。特に洞窟の中は熱が篭もってて暖かいのよねぇ」
「…温泉…も、洞窟の、中……」
ラミィの補足に、私は成る程と頷く。確かにこの集落の中は暖かい。暑いって感じじゃなくて、心地良い暖かさだ。温泉効果だったのね。
「なのでぇ、そこに置いておけば卵が孵るまでラミアが抱いている必要は無いのよねぇ」
「そもそもラミアは変温性だから向いてないしぃ」とイースは呟いた。ああ、うん、確かに変温性だと卵を温めるのは向いて無さそう。
つまり、地熱で卵を孵すって事だよね。
「そして卵を見ておく係がこの中心で座ってるラミアなのよぉ」
イースがホワイトボードに映っているラミアを指差した。イースの言葉にラミィも頷く。
「ラミア…は、卵、産んで……から、後は…交代制…」
「日替わりで違うラミアが卵の見張り番をするって事なのよねぇ」
「ほうほう」
成る程。それは確かに効率的かも。放置しっぱなしだと生まれる瞬間を見逃しそうだし、かと行って連日見張りやってたら厳しいもんね。日替わり交代なら精神的にも楽そうだし。
「そして卵が孵ったらぁ、既にある程度は動けるくらいには成長してるからぁ…」
イースの言葉と共に、ホワイトボードの映像が変化する。卵が孵化し、中から幼女サイズのラミアが誕生。そして見張り番のラミアが幼女ラミアを抱えて違う部屋に移動した。
ラミアが幼女ラミアを連れて行ったのは……同じような幼女ラミアが居る…同じく洞窟内部、かな?
「先に生まれてた子達と一緒にぃ、ある程度の常識や狩りの仕方を座学で教えるのよぉ。こっちも先生役は日替わりねぇ」
「生まれたばかりのラミアは集団でぇ…そうねぇ、人間で言うところの寮に近い環境で暮らすのよぉ」とイースは続けた。
「そして少女くらいに成長したら外に出て狩りの実践をしたりぃ、一人で暮らすようになるわぁ。で、子供が作れるようになったら男と子作りしてぇ……っていうのが、大体のラミアねぇ」
「まぁ、ラミィは子作りに興味は無かったみたいだけどぉ」と言ってイースはラミアの生態についての説明を締め括った。同時に、ホワイトボードと認識阻害の結界も消える。
「成る程……。だから母親は居ないってなるんだね」
「……ん。皆、先生……で、家族…」
頷くラミィの頭を撫でつつ、成る程ねと私は納得した。
孵化する時に見張り番やってたラミアが母親になるとかでも無いんだね。で、先生役のラミアも日替わり、と。
……まあ、深く考えると母親こそ違えど父親が同じ人物である可能性高いから、皆家族ってのはあながち間違いでも……いや、やっぱり深く考えるのは止そう。ラミアにとってはデフォルトでも人間からすると闇が深すぎる。
「……とすると、結局ラミィのお母さんにお話通してって案は駄目か」
「まず母親が居ないんじゃな」
折角の案が駄目だったからか、ハイドはそう言って顔を顰めた。あはは、確かにこれ難題だもんね。
うーん、試練一つ目でいきなり詰み直前か?クソ、魔王の高笑いが聞こえる気がする。まさかとは思うがここで私が詰む事を想定した上での愛の証明をしてみせろって書いたのか?
ここで詰むわけにはいかんしどうしたもんか……と頭を悩ませていると、
「…でも、ラミアの長……の家、なら、ラミィ……わかる、よ…?」
と、ラミィが当然のように言った。
「…あ、長いるの?」
「ん…。ラミア…の、中で、一番……偉い…のが、長…」
「おばあちゃん……みたい、な…?」とラミィが首を傾げながら言うのに、私は先にそれを教えて欲しかったという言葉をぐっと飲み込む。…うん、ラミアの生態についての勉強は出来たから、良いや。ラミィがマイペースなのは知ってたしね。
「じゃあ、案内お願い出来る?」
「ん…!…任せ、て……!」
微笑みながらむん、と両手を握り締めたラミィを見て、私の嫁可愛いなと思う。ラミィは見た目大人だけど子供っぽいトコがあるのがまた可愛いんだよね。
「…こっち…!」
ぐいぐいと私の手を握って引っ張るラミィに案内されながら、私達はラミアの長の元へと向かう。
ラミアの長、良い人だと良いな。




