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武道大会、準決勝



 あの後アーウェルが無事に勝利したのを私と一緒に見届けてから、アレクは観客席に戻って行った。



「あーん!折角だからちょっと抜け駆けしてミーヤに僕の体を触ってもらっていちゃいちゃしようと思ってたのに!アーウェルとの会話とかバトルの様子に夢中になってたら時間の進み速過ぎ!もう!」



 とか何とか言ってたけど、頭を撫でたら機嫌が直ったらしくにへらと笑って戻って行った。

 ……アレクが擦り抜けるの、あんまり見た事無かったけど……本当に擦り抜けるんだね。凄い。いや、さっき私の頭部を擦り抜けてはいたけど、視点的な問題でしっかりとは見れなかったから。あと普段は私に抱きついてくるしご飯も普通に食べるからちょっと忘れてたよね。

 さて、それは置いといて、だ。



「準決勝一試合目!はーじまーるよー!バーバヤガの向こう側にあるヒイズルクニから来た刀使い!目にも見えない速度の刀はマジで凄い!里見さとみ連龍れんりゅう!」



 凄く、日本っぽい人が居る。

 白髪混じりの黒髪をオールバックにしたご老人。渋いがとても似合う色合いの袴を着て、腰に刀を差している。あれは…打刀と脇差かな?サイズからして。お姉ちゃんが前に刀にド嵌まりしてたから覚えてる。合ってる自信は無いけど。

 つか、バーバヤガの向こうって言った?言ったよね?あれか、イースが言ってた日本っぽい国か?ヒイズルクニって…日出ずる国!?このネーミング確実に勇者が付けた名前だな!?めちゃくちゃわかりやすい!

 にしても、そうか、ヒイズルクニって言うのね、こっちの日本っぽい国は。

 うわー、うわー、何か空気が懐かしく感じてくる。錯覚だろうけど。でも袴姿の安心感が違う。この和風っぽい感じ、めちゃくちゃ安心する…。



「そして!俺らの想像の斜め上を飛んで行く不思議な魔法を使う女の子!凄腕の魔法使いかと思った?残念魔法使いじゃなくて魔物使い!ミーヤ!」



 おっと、フィールドに上がらなくては。

 フィールドに上がって里見さんの正面に立つ。おおう、目が猛禽類のように鋭いなこの人。ご老人っぽいのに筋肉しっかりあるし……武士って感じだ。

 しかもわかりやすい構えを取ってない。左手は刀を抜きやすいようにか鞘に触れてるけど、前傾っぽい姿勢にはなってない。というかとても姿勢が良い。正座の時とか背筋ピーンとしてそう。



「それじゃあ……試合開始!」



 メルヴィルさんがそう言った瞬間、攻撃が、



「…………………」


「………?」



 来なかった。

 里見さんはまったく微動だにしていない。開幕居合い斬りでもされるんじゃないかと思ってたんだけど……里見さんは、私をただ静かに見つめていた。

 え、どうしよ。待ち?待ちの姿勢なの?攻撃されたらカウンター入れるみたいな戦い方なのかなこの人。正直言ってここまで勝ち残る気が無かったから里見さんのバトル見て無いんだよね。だから戦い方も刀使うっぽいって事しかわからなくてとても不安であります。

 …帰って良い?棄権したいんだけど。もう充分戦ったし。

 というか一回戦で敗退する予定だったのになんでここに立ってるんだよ私は。一回戦の相手が人の鞭を欲しがったり、二回戦の相手が徹夜で最高最悪にハイな状態だったからですねわかります。わかりたくないけど。

 どうせいっちゅうねん……と困っていると、里見さんが動いた。



「私は」



 里見さんは、少し眉を顰めた表情で言う。



「私は、女性を傷付けたくは無い。どうか戦う前に、降参してはくれないだろうか」


「あ、じゃあお言葉に甘えて」



 私はメルヴィルさんの方を向いて、



「メルヴィルさん、私降参でお願いします」



 と言った。



「…え、マジで?良いの?これ準決勝だよ?」



 メルヴィルさんは驚いたようにそう言うが、元々私ここまで勝ち残る気無かったんだよね。ただ負けたら鞭とか命とか失いかねなかったから戦うしか無かっただけで。

 というかさ、里見さんのオーラが確実に強い人のオーラなんだよね。オーラっていうか何ていうか、覇気?覇気っていうのか?こう、肌でピリピリ感じる戦場の気配っぽいアレ。アレだよ。アレを感じる。

 あと気遣いを感じた。今までの奴等からはまったく感じれなかった気遣いを。

 表情からして里見さん本人は余裕で私を倒せるだけの実力はあるんだろうし、女である私を斬りたくないってのも本当だろう。ミサンガ反応してないし。前二人と比べてとんでもなく紳士的だ。もし私が恋愛ゲームの攻略キャラならこのイベントでハッピーエンド確定ルートへ直行出来るレベルで好感度が上がってるね。

 さて、それはさておきどうしよう。メルヴィルさん、驚きで呆然状態なんだよね。とりあえず驚きマックスなメルヴィルさんを納得させるには……。



「里見さん明らかな強者オーラ出してますし、わざわざ気遣ってくれたし、勝てる気しないし、そもそも参加賞狙いだったんでもう充分目的は果たしたし……」



 納得させれそうな事実を幾つかピックアップしてみる。

 ………うん、



「棄権させてもくれないような前二人と比べて、わざわざ逃げ道用意してくれたし……本当お願いなんで降参でお願いします」


「ここまで勝ち進んだのに、良いの?」


「言っておきますけど勝たないと武器とか命とか奪われかねなかったから必死で勝っただけで、一回戦から帰りたくて仕方なかったですからね?露出狂と切り裂き魔が相手とか正直訴えたら勝てるんじゃないかレベルでしたからね?」


「うん、ランダムだから俺達スタッフに非は無いって言いたいけど、本当ごめん。あれは無いよね」



 私の静かな怒りを感じたのか、メルヴィルさんは即座に謝った。…メルヴィルさん、芸人だけど長生きする性格だよね。生き残るポイントを押さえてるって感じ。



「こっちとしてはそいつらで腹いっぱいだし、こんなにもまともな対戦相手が居たんだって感動で胸もいっぱいになったんですよ。これ以上は要らん」


「うん、そう言われるともう俺ら何も言えない」



 「実際キワモノとばっかり当てちゃったの事実だし」と呟いてから、メルヴィルさんは大きく息を吸って、



「ミーヤ降参!戦わずして勝利を収め決勝進出が決定したのは里見連龍だぁああ!」



 と叫んだ。



「ミーヤだっけ?あの嬢ちゃん若いのに引き際わきまえてんな」


「昔のアンタだったら「馬鹿にしてんのか!?」ってキレて返り討ちにあってたでしょうね」


「確かにあの子、ほぼ強制的に戦う以外の選択肢消されてたもんな」


「準決勝一試合目、あっさり終わったな。でもちょうど酒買い足したかったし助かったわ。おーい!酒こっちにも頼む!」


「ぐおおおお!!ミーヤちゃん一点狙いの俺の賭けがああああああ!!」



 観客席から聞こえる声からブーイングらしいブーイングも無くてちょっと安心。石とか投げられたらどうしようって思ったけど、マナーがしっかりしている人達ばっかりでほっとした。いや、最後なんか賭けしてる奴居るけど。一点狙いで私に賭けてくれたのか……申し訳ない。



「……言った私が言うのも何だが……本当に良いのか?」


「降参の事ですか?」


「うむ」



 里見さんはしかめっ面で頷いた。

 ……気遣いを感じる。今までの奴等に比べて紳士的過ぎて泣きそう。道案内してくれたレオンさんも紳士的だったけど、里見さんは日本っぽい空気も混ざっててめちゃくちゃ安心するんだよね。



「最初っから棄権する気でしたし、寧ろ降参をすすめてもらったお陰で言うタイミングが出来たので助かりました。前の二人は降参する暇も無いっていうか、降参したら私が何かを失わないと駄目になる状況にしやがったというか………」



 フ、と私は乾いた笑みを浮かべる。本当にアボットとオルコットには酷い目に遭わされた…主にアボット。オルコットも中々に危険だったけど、事情が事情だからまだ許せる。ただしアボットお前は駄目だ。とにかく自分の欲を満たす事しか考えてなかったもんアイツ。



「まあ、えっと、だからその、気にしないで下さい」


「……ああ、感謝する」



 そう言い、里見さんはふっと温かみのある微笑みを浮かべた。わあイケメン。

 ……と、そういや負けた後どうしたら良いんだろう。普通に控え室まで戻れば良いんだろうか。

 うーむと首を傾げるとメルヴィルさんが、



「あ、負けても普通に控え室まで戻るのは同じだから。荷物置いてある事もあるしね。あとミーヤは準決勝まで勝ち進んだから宝石掴み取りの為に控え室で待機してて」



 と言い、「こういう公衆の面前でやると闇討ちされる事もあるから控え室でやる事になってるんだよね」とケラケラ笑った。いやそれ笑い事じゃねえだろうがよ。超怖いんですけど。

 すると、私が少し顔色を悪くしたのに気付いたのか、



「では、控え室まで付き添おうか?女性を一人で歩かせるのもなんだろう」


「え、あ、ありがとうございます!」



 里見さんがそう言ってくれた。私は慌てて頭を下げる。うわあ、とても助かる。

 とりあえずフィールドから建物の中へと移動し、控え室まで一緒に行ってもらう。

 …うん、正直一人での行動が微妙に怖かったんだよね。コブジトゥで危うく死ぬトコだったし。居たのがハイドだったから良かったけど……いや、選択肢間違ってたら死んでた事を考えると良くも無いけど、まあとにかくガチでヤバイ化け物相手だったら死んでただろうからね。

 だから一緒に行動してもらえるのはとても助かる。里見さんは強いし紳士だしで安心だ。日本っぽいし。



「すみません退いて退いて!」


「おいこっち!酒飲んだ冒険者がバトル始めた!足止め得意な奴来てくれ!」


「ギルドからここ数日で溜まりに溜まった書類とかを今の内に処理したいから職員ちょっとで良いから返してって連絡が来ました!」


「あの」


「後でこっちから給料出すから武道大会終わってから観光に来てるギルド職員に頼んで臨時で働いてもらってくれ!今は無理!って返事しとけ!」


「宝石掴み取り用の宝石、コブジトゥの宝石も入れます?まだ発掘再開したっていう報告の為に貰った少数の原石しか無いですけど」


「アホか!ちゃんとカット済みの宝石って決まってるだろうが!あと硬度も一定で揃えるように!これ本当大事だからな!」


「そこの、ちょっと」


「掃除の手伝い寄越してくんない!?獣人さん達の抜け毛が凄いんだけど!」


「予選で使った部屋の修繕も!」


「おーい、回復薬の在庫何処やった?」


「待って」


「あ、すんません棚の上に置いたままでした」


「お前背デカいんだからそういうの止めろって言ってるだろ!確かに邪魔にならないけど俺ら届かねえから!」



 ……凄く、忙しそうだな。

 さっきまではそうでも無かったはずなんだけど、準決勝まで来たという事で場が盛り上がってきてるんだろう。そして同時にスタッフさんの仕事が増えてるっぽい。沢山の人があちこち走り回っていて……お疲れ様です。

 とりあえず邪魔にならないように、と里見さんと共に壁側へ寄る。下手に真ん中付近歩いてたら衝突事故起こしそうで怖いんだよね。さっきから聞こえる声の中に人混みに飲まれて困ってるっぽい人の声も混じってるし。ごめんなさい、巻き込まれたくないので自力で助かってください。

 スタッフさんとぶつからないように気をつけながら歩いていると、



「……ミーヤ殿」


「はい?」



 里見さんに話しかけられた。里見さんは鋭い目元を少し緩めて、



「…先程は、貴女の言葉で少し気が楽になった」



 と言った。



「へ?」



 どうしよう、心当たりが無い。

 そう思っているのがわかったのか、里見さんは目元を細めて微笑んだ。



「降参をすすめられて助かった、と言ってくれただろう?」


「ああ、言いましたね」



 事実だし。



「一回戦の時、私の相手が女性でな……同じように言ったら、男女差別による侮辱だと言われてしまって。…とても、怒らせてしまった」


「ありゃま」



 里見さんは表情こそあまり変わっていないものの、周りの空気が少し落ち込んでいるようだった。



「「女だからと侮辱するのか」と……私はただ、女性に傷を付けるのは好まぬからそう言っただけなのだが……彼女は、それを侮辱と捕らえたらしくてな」


「幼少期に女だからっていじめられた経験でもあるんですかね?」



 でも、それってそういう事言う人の方が男女を差別してる気がするけど。被害妄想っていうか何ていうか………。そもそも受け取り方が卑屈過ぎやしないだろうか。

 男女差別だ!って言う人はレディーファーストで扉を開けてもらった時に、「扉も開けられないと思っているのか!?」って受け取るのかね?普通に「あ、開けてくれたんだ。ありがとうございます」で良くない?

 うーむ、難しいトコだよね。マイナス思考の人って結構意識を切り替えられないトコがあるって感じだし。ドロドロ恋愛ドラマから少年漫画系バトルアニメにチャンネルを変えるくらいの感覚で切り替えれるようになれれば良いんだけどね。



「まあ、その人はその人で事情があるんでしょうが……特に気にしないで良いと思いますよ。人の感情なんて千差万別、風が強い日の雲みたいなモンです」


「ほう、その心は?」


「目を逸らした隙に変わっている」


「成る程」



 くくく、と里見さんは声を殺して笑った。



「くく……ミーヤ殿は度量が広いな。私などこの歳だというのに、言われた言葉を根に持って落ち込んでしまうとは……見習わなくてはならん」


「いや、見習うトコ無いと思います」


「そうでも無かろう。刀を持つ者は心が鈍ると刀も鈍る。鈍った刀、なまくら程危険で恐ろしい物は無い。だからこそ、そのように曇らぬ心を見習わねばと思った次第だ」


「ほ、ほほう……」



 そこまで言われると照れる。曇らぬっていうか、単純に混乱して思考がごちゃごちゃになるからさっさと意識を切り替えるようにしてるってだけなんだけど。



「と、ここです」


「む、ああ、ここがミーヤ殿の控え室だったか」


「はい」



 話していたら、気付かない内に到着していた。危ない危ない、危うく通り過ぎちゃうトコだった。



「では、私はこれで。帰りはスタッフに頼んで迎えを呼ぶように。女性の一人歩きは危険だからな」


「そうします」



 従魔が立ち入り禁止だったのは試合での不正防止の為だったし、多分もう大丈夫だろう。そう思って私が里見さんの言葉に頷くと、里見さんは満足そうに微笑んだ。



「…そういえばミーヤ殿はもう酒が飲める歳なのか?」


「はい、17歳です」


「そうか、では後に宿屋でまた会うだろうから……その時に良ければ共に酒を飲もう」



 「どうやらミーヤ殿はヒイズルクニに興味があるようだし、私も話したいからな」と里見さんは笑った。おおう、チラチラと着物とか刀とかを見てたのバレテーラ。



「多分その時はうちの従魔…嫁達も一緒だと思いますが、それでも良ければ是非」


「勿論。酒を飲む人数は多い方が楽しい」



 「では、また夜に」と言って、里見さんは自分の控え室の方へと去って行った。

 渋カッケェ…。何だろう、この、この……憧れるような、感覚…?

 多分凄い紳士的だし真面目だから、男として見習いたいなって気持ちになってるんだと思う。私女だけど。でも旦那として見習いたい格好良さがあった。嫁が居る身としてああいうイケメンになりたい。

 今はまだポンコツだからね……頑張ってイケメンなスーパーダーリンになりたいものだ。そう思いながら自分の控え室の扉を開けると、



「準決勝はザンネンでしたけど、お疲れ様っす」


「何でやねん」



 満面の笑みを浮かべたタバサが我が物顔で椅子に座っていた。何で居んのお前。



ミーヤの控え室、出入り自由説。

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