再会と才能
さて、困った。
何に困っているかといえば一回戦で負けようと思ってたのに気付いたら準決勝まで勝ち進んじゃってたって事………だった。さっきまで。しかし現在進行形で困っているのはこれじゃない。
「従魔兼、嫁!?なんだそれずるい!俺だってミーヤが好きなのに!」
「ふっふーん、良いでしょ!」
「ぐぅう……っ!俺も魔物ならミーヤの嫁になれたのに……!」
控え室に戻って来たら、何故か私の控え室の中でアーウェルとアレクが話をしていたのである。
何で仲良さそうに話してんだよ。そして何で私の控え室で話してんだよ。まさか控え室間違えた!?って思って確認したけど間違い無く私の控え室だし。二人は話に夢中で扉を開けた私に気付いて無いし。
というか、というかさ、
「何で居る?」
「わっ!?」
「ちょ、ミーヤ!戻って来てたなら声掛けてよ!」
「あ、ごめ……いや戻って来たから声を掛けたんだよ!?」
何だこの空気!まるで家に帰ってきたら奥さんがお友達とお茶会してて、それに気付かず普通にリビング入ったら「帰って来てたなら言ってよ!」って言われた旦那のような気分だ。ここ私の控え室なんですけど。
「えーと…とりあえずアーウェル、久しぶり」
「あ、ああ、久しぶり……」
うん、こうして間近で見ると前に比べて健康的になってるのがよくわかる。前は栄養失調気味って感じだったからね。良い事だ。
「で、何故二人はここに?ユーは何しに人の控え室へ?」
「…俺は、ミーヤと話したいなって思って」
「僕はただミーヤにお疲れ様って言いに来ただけだよ。それとメンタルケアの為、かな」
「ほら、僕って壁とか擦り抜けれるからこっそり会いに来るのに最適でしょ?」とアレクは続けた。ああ、従魔は控え室も立ち入り禁止だったもんね。だから足が付かないリッチのアレクが……足が付くっていうか、付く足も無いけど。
「それで、えっと……アーウェル、話したいって何を?」
「そうだ!」
はっと思い出したようにアーウェルは叫ぶ。
「俺もミーヤの嫁になりたい!」
「よーし待て。クールになれ。落ち着いて最初から今に至るまでを簡潔に説明プリーズ」
「ミーヤに嫁が居るって聞いて、俺はミーヤが好きで、だから俺もミーヤの嫁になれば良いんじゃないかって思った」
「簡潔過ぎる」
そして諦めるんじゃなくて自分も嫁になれば良くね?ってなる思考が凄い。ポジティブ。
「愛人でも可」
「それは私が嫌だ」
真顔で言われたガチっぽい宣言をスパッと却下。それはあかんやつ。愛人を目指されるよりは嫁を目指して欲しい。いや、諦めてもらうのが一番なんだけどさ。
「……諦めるっていう選択肢は?」
「親父が死ぬ前に家訓にした「お前らは母ちゃんみたいに移り気になるなよ。一回愛したら死ぬまで愛せ」って言葉があって」
「親父さん子供に随分と重いモン背負わせたな!?」
そういやアーウェルのお袋さん、リーンちゃんが生まれてすぐに他所に男作って出てったんだっけ。それにしたって子供に背負わせる事じゃねえだろうよ…。
正直アーウェルの事は恋愛対象として見てないし、まだ見れないし、どう言えば良いものか……と悩んでいると、アーウェルは微笑んだ。
「ミーヤにその気が無いのはわかってるから、気にしなくて良い。俺が勝手にミーヤに恋してるだけなんだから。諦めろって斬り捨てられないだけで俺は充分嬉しいし」
「うぐぉ…」
止めろ…。良心に突き刺さるから本当そういう事言うの止めて。
「それに俺にはまだ未来があるからな。大人になって、イケメンになって、強くなって…そしたらミーヤの嫁にしてもらう。だからそれまで待っててくれ」
「…それでアーウェルが問題無いなら、良いけど…」
「よっし!」
アーウェルは少年らしい笑顔でガッツポーズした。え、マジで?良いの?これで良いの?しかもアーウェルが嫁になる方で良いの?そりゃ私嫁が居る身だから嫁に行く気皆無だけど。
……まあ、こっちの世界特有の考えかもしれんしね。地球の常識で考えるのは止めておこう。
「てか、ミーヤは俺がミーヤに恋してるのを申し訳無さそうにしてるけどさ、ミーヤに恋してから俺は良い事ばっかりが起きてるんだぞ。もっと胸張れば良いのに」
「いや、だって……え?良い事って?私がしたの病殺しを持ってったくらいだけど」
「それがさ!」
アーウェルはずいっと私に近付いて、黒い瞳を輝かせて言う。
「ミーヤの従魔より強くなったら恋愛対象として見るって約束の為に頑張ってたらどんどんレベルが上がったんだ!色々な武器を試して弓が一番合うって事がわかってから一層強くなったし!」
「強くなったら魔物を狩れるようになったし、ランクも上がったし、前よりちゃんとした物を食べれるようになったし」とアーウェルは指折り数えて良い事を上げていく、が、
「それ、確実にアーウェル自身の頑張りだよね?」
「いや、ミーヤに恋をしたからだ」
「してなくても弓の才能がわかったらこうなってたって」
「ミーヤに恋をしてなかったらなってない」
「なってた」
「なってない」
「話終わらないからアーウェルはミーヤに恋心を抱くの続行、ミーヤはアーウェルへ返事をしないまま、って事で良くない?」
「「……………」」
確かにアーウェルは引きそうになかったし、私も引く気は無かった。そもそもアレクが言った事は最初からそうするつもりの事でもあったし……と、私とアーウェルは顔を見合わせてアレクの言葉に頷いた。
これでこの話は終わりに、という事でとりあえず備え付けのお茶をアーウェルに出す。アーウェルは大人しく椅子に座ってお茶を受け取ってくれた。そして私はアーウェルの向かいに座り、アレクは私の背後から取り憑くかのように首の前へと腕を回した。
「そういやアーウェル、試合見たけどめちゃくちゃ強いんだね」
「そうか?」
私の言葉に、アーウェルは嬉しそうに歳相応な笑みを見せた。
「貧乏だからああいう戦い方になっただけだけど…嬉しいな」
「ああいうって…あの自動追尾の魔法?」
「そう」
「あ、それ僕も気になってた!」
はいはい!とアレクは骨の右腕で挙手した。
「自動追尾の魔法ってさ、僕が知ってるやつは対象の一部…血液なんかを採取して、その対象をターゲットにするよう設定して追わせるやつなんだよ!でもアーウェルの自動追尾魔法、その方法じゃなかったよね!?アレ何!?」
興奮しているのかアレクは私の首の前に左腕を回したままずいっと前に出た。
……私を擦り抜けて、前に。
額の辺りからローブが生えてるみたいな光景だね、私から見ると。てか擦り抜けてるから感触がまったく無くて、なのに視界にはアレクが私を擦り抜けているのが映っていて……ようわからんくなってきた。考えるのを止めよう。寒気がするし。
興奮気味なアレクの質問に、アーウェルは答える。
「あれは矢の先にターゲットを固定する魔法なんだ。だから相手に向かって矢を射る事で、矢は自動的にその相手を追い続けるっていう」
「へえー…そんな魔法があるんだね」
感心して頷いていると、アーウェルは首を横に振った。
「いや、無かった。だから作った」
「魔法ってそう簡単に作れるもんなの!?」
私が言う事じゃないけど!
いやでも私はオリジナル魔法作成のスキル持ってるし……アーウェルも持ってるのかな?と思ったけど、どうも違うらしい。
「俺は作れないけど……リーンが作れたんだ。金が無いから前は文字とかサッパリだったんだけど、図書館に通って文字の読み書きが出来るようになったら、何かどんどん覚えていって……どうも、リーンは物覚えが異様に良いっていうか……頭が凄く良かったらしい」
「兄は弓の天才で妹は知識関係の天才って凄い一家だね」
「ああ、危うくその才能を知らないままだったらと思うと寒気がする。これもミーヤのお陰だな」
いや、図書館の事を教えたのはイースだからイースのお陰だと思う。でもここで言うとまたそっちの手柄だそっちの手柄だって言い合いになりそうだから黙っておこう。私は貝。
にしてもリーンちゃん、記憶力が高かったんだね。あ、いやでも魔法を作成出来たって事は覚えるだけじゃなくてその知識を応用して新しい式を生み出せるって事だから……めちゃくちゃ凄くない?
「でも、この魔法のお陰で凄く助かってるんだ。魔物を確実に射れるってのも助かるし……ほら、矢って消耗品だろ?だから、無駄撃ちしないで済むっていうか」
「ああ、矢って外すと石に当たって折れる事もあるしね」
生前に弓矢を試した事があるのか、「そもそも一撃で仕留められなかったら二本目三本目って撃たないといけないし」と言ってアレクは頷いた。
「その通り。金が掛かるから他の武器が良かったけど、弓矢が一番使いこなせたからな」
「というか他のはいまいち使えなかった」とアーウェルは溜め息混じりにぼやいた。
ふむ、弓矢に才能を全振りしてるのかもね。だから他のはいまいちなのかも知れない。
あと多分年齢も関係してるんじゃないだろうか。まだ13歳、それも最近までガリだったアーウェルにハンマーとかは厳しいだろうし。それに比べると弓矢の方がずっと使いやす……いや、でも魔物が相手だと考えると、どうなんだ…?
やっぱ才能かね、うん。
「ただ、消耗は少なくなったけど矢が消耗品である事には変わり無いから……未だにレンタル武器なんだよな。矢自体は普通に買ってるけど、弓が……」
「稼ぎはあるんじゃないの?」
「あるけど、ブラウンさんに「お前は弓の才能があるんだから安物は使うな。一流の弓を買え」って言われて………「ウチの店のはお前に適してないから売らん。貸しはするがな」って…」
「そしたら十日くらい前に、「武道大会に出て、宝石掴み取りして金確保して、王都の一流の店で良い弓を買え」って言われて王都行きの馬車に乗せられて…」とアーウェルは遠い目で話しながらお茶を啜った。
「信頼してくれてるのも、俺の才能に期待してくれてるって事もわかるんだけど……いきなりそれだけ言われて馬車に乗せられた俺の気持ちわかる?」
「何が起きた」
「本当その一言に尽きた」
私の答えにアーウェルは真顔で頷いた。うん、私もそんな状況になったら「何が起きた」以外の言葉出ないだろうからね。
はぁ、と溜め息を吐き、アーウェルは机に肘をついて目元を揉む。
「まあ、大体の事情は持たされた手紙でわかったし、手紙の中には帰り賃もあったから……本当、完全に善意なんだろうとは思うけど…」
「ははは……」
「でも実際予選勝ち抜いて、一回戦も勝ち抜いたわけじゃん?次の試合に勝てば宝石掴み取り出来るし。そんだけの実力はあるって見抜いてたんだね、その人」
アレクの言葉に、確かにねと私は頷く。
そういやブラウンさん、私の手を握ったり見たりするだけで色々と見抜いてたしな。そんなブラウンさんが作った鞭は意思があるんじゃないか?って思うくらいに動くようになってるし、何度も命を助けてくれたし……ツギルク、才能がある人が住まう地か?メリーじいさんも居るし。凄いなツギルク。
って、あ。
「アーウェル、やばい」
「何が?」
気付いていないらしいアーウェルに、私は控え室にある魔道具を指差した。大会の様子をホログラムで映し出す、テレビのような魔道具を。
映像の中では、ちょうど試合が終了したようだった。
「…次、アーウェルの番だよね?」
「ごめんもうちょっと話したかったけど控え室戻って弓の調整とかしないとだ!」
映像を見て時間が無いと判断したアーウェルは、慌ただしく椅子から立ち上がって私の控え室から出て行った。
「ミーヤと色々話せたお陰でリラックス出来た!ありがとな!」
とだけ、良い笑顔で言い残して。
「…アーウェルが勝つと良いね、ミーヤ」
「そうだね、アレク」
アレクが肩に顎を乗せてきたので、顎の下辺りを撫でると擦り寄ってきた。擦り寄らなくても既に凄い密着度だと思うんだけどね。
にしても、良い弓ね。
確かに才能があるならそれを活かす為にも良い弓を使わせたい。だから安いのを買うよりは、その分もお金を貯めさせて良いのをポンと買って欲しいって感じなんだろうか。ブラウンさんからすると。
「でも良い弓を買っても矢の消耗があるってのが問題だよね」
「え?ああ、アーウェルの事?」
いかん、ついイースと喋るノリで心の声からそのまま喋ってしまった。でもアレクは察してくれたようで、頷きながら答えた。
「確かに、矢の消耗は問題だね。良い弓を買ってもそれでお金が無くなったら矢が調達出来なくて本末転倒になる可能性もあるし。だからこそ、そのブラウンって人はお金が余る可能性が高い宝石掴み取りを狙わせたのかも」
「成る程」
確かにその問題もあったか。高画質でブルーレイ見るぞ!って思ってプレーヤー買っても、そっちでお金使い切っちゃって肝心のブルーレイが買えませんの状態になったらただの置き物でしか無いもんね。
一流の店って事はそれだけお金も掛かるだろうし……色々と考えたうえでアーウェルを送り出したんだね、ブラウンさん。万が一宝石掴み取りの権利をゲットする前に負けても帰ってこれるように帰り賃を持たせたりもしてたみたいだし……アーウェル、ブラウンさんに気に入られてるのかな。気に入られてそうだな。
「でも、矢の問題とか一流の弓とか、全部ミーヤがどうにか出来るって考えると本当にアーウェルの言ってた事が的を射ってて面白いよね!流石弓使い!」
……ん?え、どういう事?凄い笑顔だけどそれどういう事?
口には出して無くても、怪訝そうな私の表情で私の考えを察したらしいアレクは言う。
「もしかしてミーヤ忘れてる?生前の僕と一緒にダンジョンで宝箱開けた時に出たアイテムの事」
「………………あっ」
言われて見れば、矢の消耗がゼロになると言っても過言じゃないアイテム出してたね。
展開を考えてた時はまさか王都編がここまで長くなるなんて思って無かったんです。多分まだしばらく王都編です。




