第三十六話 ヴェルター家で方針会議
王都邸に戻ってすぐ、わたしは会議を開いた。
参加者はお父様、ルード、ジルの三人だ。今回はシルベルク氏はいないが、後で報告する。
「国王から提案があったでしゅ。内容を共有して、受けるかどうかを決めたいでしゅ」
三人が揃った。
「まず内容でしゅ。王宮付き魔法師として名前を登録するでしゅ。住まいはヴェルター家のまま。王宮への出仕は強制しないでしゅ。書面で約束するでしゅ。ただし、力の使い方はわたしが決めるという条件でしゅ」
「それが陛下の提案か」
「わたしが条件を加えましゅた。書面と、使い方の自由でしゅ」
「陛下はそれを受け入れそうか」
「ヴォルフ侯爵に相談してから返事すると言っていましゅた。三日以内でしゅ」
お父様が少し考えてから言った。
「フィアは、受けたいのか」
「受けた方がいいと思うでしゅ」
「なぜ」
「隠し続けることには限界があるでしゅ。翁はわたしの存在を感じ取っているでしゅ。このまま続ければ、いつか強制的な手段を取られるでしゅ。それより、条件をつけて正式に対処した方がいいでしゅ」
「書面の約束は守られると思うか」
「守られない可能性もあるでしゅ。でも、書面があれば後で抗議できるでしゅ。口頭より確実でしゅ。それに、ヴォルフ侯爵が関わることで、内部の監視役になるでしゅ」
「よく考えているな」
「考えてきたでしゅ」
ルードが言った。
「俺は反対だ」
全員がルードを見た。
「なぜでしゅか」
「フィアはまだ三歳だ。王宮付きとして登録されることで、将来的に引き出される可能性が高くなる。書面の約束があっても、状況が変われば変わる。それに……」
「それに?」
「フィアが自分で選んだことではない感じがする。陛下から提案されて、条件をつけたとはいえ、受け身だ」
わたしは少し考えた。
「ルード、一つ聞かせてくれましゅ」
「なんだ」
「断り続けることで、わたしたちは何年持てると思いましゅか」
「……」
「翁はわたしの存在を感じ取っているでしゅ。彼が進言し続ければ、いつか強制的に動かれるでしゅ。その前に、こちらが条件をつけて動く方が、主体的でしゅ」
「それは分かる。でも」
「でも?」
「お前が三歳のうちに決めることじゃない気がする。もう少し成長してから、自分の意思で決めた方がいいんじゃないか」
わたしはルードを見た。
(ルードは、わたしを守ろうとしているでしゅ。でも、今動かないことが守ることになるかどうか)
「ルード、ありがとうでしゅ」
「何に対して」
「わたしのことを、ちゃんと考えてくれているでしゅ。でも、一つだけ」
「なんだ」
「今動かないことも、一つの選択でしゅ。でも、何も決めないことが、最もリスクの高い選択になることがあるでしゅ。前世で何度かそういうことがあったでしゅ」
「……具体的には」
「問題を放置して、後から手がつけられなくなった案件でしゅ。早めに動けば、条件をつけられたでしゅ。でも、放置した結果、こちらに選択肢がなくなったでしゅ」
「今回も同じか」
「可能性があるでしゅ」
ルードがしばらく黙った。
「……お前が決めることか」
「最終的にはお父様が決めるでしゅ」
ルードがお父様を見た。お父様が少し間を置いてから言った。
「俺も、受けた方がいいと思う。フィアと同じ理由だ。ただ、ルードの言うことも正しい。書面の内容を、できるだけ厳密にしたい」
「どんな内容を入れるでしゅか」
「登録は名前だけ。年齢が成人になるまで、王宮への出仕は求めない。力の使い方は本人の意志に従う。違反した場合はヴォルフ侯爵が調停に入る。そういうことを明記したい」
「それならヴォルフ侯爵に、書面の内容を確認してもらうことを条件にするでしゅ」
「そうしよう」
ジルが言った。
「旦那様、一つよろしいですか」
「なんだ、ジル」
「先代の当主が残した記録に、王家との過去の交渉の事例があります。明日、確認させてもらえますか。書面の内容を作るときに、参考になるかもしれません」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」
わたしは全員を見た。
「では、方針をまとめるでしゅ。受けることを前提に、書面の内容を詰めるでしゅ。ヴォルフ侯爵の確認を条件にするでしゅ。三日以内の返事を待つでしゅ。ルードの懸念は、書面の内容でできる限り対処するでしゅ」
「……それで頼む」
ルードが短く言った。まだ完全には納得していないかもしれない。でも、この判断がひとまずの最善だと受け入れてくれたのが分かった。
「ルード」
「なんだ」
「心配してくれて、ありがとうでしゅ。そういう意見を言ってくれる人が必要でしゅ」
「……別に」
「でも、いてくれてよかったでしゅ」
ルードが視線を逸らした。
「……早く帰りたいな」
「もうすぐ帰れるでしゅ」
「ティナに土産でも買って帰るか」
「薬草でしゅか」
「そんな土産があるか。もっと可愛いものだ」
「そうでしゅね。ティナしゃんが喜ぶものでしゅ」
会議が終わった。
三人が部屋を出た後、わたしは窓から王都の夜景を見た。
(ルードは反対したでしゅ。でも反対意見がある方が、判断が正確になるでしゅ)
前世でも、全員が賛成する会議より、反対意見が一つある会議の方が、後から見て正しかったことが多かった。
ルードがいることは、このちーむにとって大事だ。
(来た目的は、ほぼ達成できたでしゅ。あとは返事を待つだけでしゅ)
ノートを開いた。
方針決定。登録を受ける方向で進める。書面の内容を詰める。ルード、反対意見を表明。内容に反映。
最後に一行。
みんながいるから、いい判断ができるでしゅ。




