被害者:乃々花、職業:動画配信者
私は乃々花。19歳。廃墟配信をしている、いわゆる「廃墟女子」だ。今日の舞台は、山奥にひっそりと佇む廃旅館。その名も「紅月館」。数十年前に営業を終え、今では朽ちた木々と石垣に埋もれている。この旅館には、奇妙な噂がある。ロビーに飾られた甲冑が、夜な夜な動き出すというのだ。私はそれを検証するため、今夜、この旅館の一室に泊まることにした。
「よし、配信開始っと……」
胸元につけた小型カメラと、手に持ったスマホの両方で撮影しながら、私は旅館の中に足を踏み入れた。誰もいないはずの館内には、湿った空気と埃の匂いが漂っている。
「うわ…… ガラス、ほとんど割れてるじゃん……。畳もボロボロ…… カビの臭いすご……」
それでも、私は画面の向こうの視聴者に向けて笑顔を作る。 スリムな服の胸元が、カメラの角度で強調されると、コメント欄が一斉に沸いた。
「ナイスサービスショット!」「おっぱい!」「アップありがとう!」
「ちょ、そういうの狙ってないから!」
照れながらも、私は内心ほくそ笑んでいた。こういうのが“数字”になることは、わかってる。
ロビーに足を踏み入れると、そこに問題の「甲冑」があった。 真紅の鎧。まるで血を浴びたかのような光沢。 視線が合ったような気がして、私は思わず一歩退く。
「……こいつが動くって、マジなの?」
スマホのライトを当てるが、当然動かない。ただの飾りだ。私はなんとか泊まれそうな部屋を見つけ、寝袋や食料品を置いた。そして、探索を再開する。調理場は、まるで時間が止まったかのように朽ちていた。シンクには錆が浮き、鍋や包丁も使い物にならない。
「ここじゃ料理動画は撮れないね~」
次に向かったのは大浴場。 タイルの隙間には黒カビがびっしり。鏡は曇り、湯船の底には濁った泥が溜まっている。
「うわあ…… めっちゃ汚い!」
軽口を叩きながら、私はまたロビーを通って部屋へ戻る。その時だった。
「……え?」
視界の中に、あるはずのものが“ない”。
甲冑が——消えていた。
「え…… うそ……!?」
背筋に冷たいものが走った。空気が変わる。何かが、動いている。何かが、この旅館の中を徘徊している。
「はは…… ウソでしょ……?」
ガラスを踏みしめる音が、どこかから響いた。思わず声が漏れる。
「やだ、やだやだやだっ……!」
私は一目散に荷物を置いた部屋へ駆け戻った。カメラを畳に放り投げ、片付けを始める——もう配信どころじゃない。すぐにでも出たい。だが、その時だった。
ドスッ
「……え?」
視線を落とすと、白い胸元から、血まみれの刃が突き出ていた。双丘を裂くように、鋭い刀身が突き通していた。
「っ、がは……」
血が、温かく流れるのがわかる。 刀がゆっくりと引き抜かれていく。 そのたびに、胸が、身体が、裂けていく。ふらりと前に倒れた。 頬が畳に触れる。冷たい。 そして、視界の端に——それは、いた。
赤い甲冑。動くはずのないはずのそれが、まるで命を持ったかのように立っていた。手には、滴る刃。
「やだ…… 死にたく、ない……」
その言葉は、もう声にはならなかった。目の焦点が合わなくなっていく。全身の力が抜け、豊かな胸が潰れるように畳に沈む。
配信カメラは、静かにすべてを映していた。




