ダンジョン
シロを城に置いてくるだけだった筈だったのだが、気づいたら城での滞在期間が何日も経っていた。
王族なら城に居た方が普通なのだが...生憎、俺は普通じゃないからな。
この数日間、俺は全く冒険者ギルドに顔を出していない。
Sランク冒険者が居れば、どんなに難しい依頼でもあっと言う間に片付けてくれるので、ギルドにとってはSランク冒険者は無くてはならない存在だ。
あとはSランクの依頼が沢山貯まる、と言うのも問題だ。
なにせ、Sランク冒険者は変わり者しか居ないので俺以外は全くギルドに顔を出さない...つまり連絡が取れない、と言うことだ。
因みに俺は他の奴らの数百倍はギルドに顔を出してくれるそうだ。
俺は何か有事の時以外は毎日顔を出しているので、単純に言えばあいつらは一年に数回しか依頼を受けていない、と言う事になる。
ギルドについて詳しい事は知らないが、一年に数回しか仕事しないのはどうかと思う。
それでも許されるのが凄まじい力を持ったSランクとしての所以なのだろう。
「じゃあ、そろそろギルドに顔出さなきゃ。留守は頼むぞ?」
「お任せください」
ラミュにそう伝えてから城を後にする。
留守を頼むって...俺は具体的に何を頼んだのだろうか...?
部屋の掃除とかか?
俺の部屋は一時期本と食事の後でぐちゃぐちゃだった時があるからな。
今は割と綺麗にはしている。結局部屋はあんまり使わないんだけどな。
実は王都には冒険者ギルドが無い。
因みに冒険者ギルドは大陸共通であらゆる場所に点在している。不可山脈の更に北を除いて、だけどな。
何故ギルドが無いのかは知らないが...前も言った通り、王都は山...と呼んでいいのか分からない柱みたいな奴の側面に無理やり建物貼り付けまくって橋で繋げただけの狂気に満ち溢れた都市なのだ。
一応山、と言う事になっているので勿論麓と言う物が存在する。
割と王都並みに発展している麓に冒険者ギルドがあるからあまり困ってはいない。
因みに麓は王都判定にはならないようだ。なんで?
あと現地の人によると一年に何回か落石とか人が落ちてきたりして心臓に悪いらしい。
そんなところ住みたくねえなあ...。
「すみません、ノアルト様ですね? 少しお時間宜しいでしょうか?」
「あ、ああ」
ギルドで手つかずの依頼かSランクの依頼を探していた時、従業員の人から声を掛けられた。
その人に着いていく形で、俺はギルドの奥へと通された。
「ダンジョンに潜って欲しい?」
「はい、ただ単に潜って貰う、と言う訳では無く、ダンジョンコアの破壊をお願いしたいのです」
「コアを? しかしそんなことをしたら...」
ダンジョンが機能を失いアイテムはおろか、モンスターも出てこなくなるので大変な損失になってしまう。
「いえ、それよりも重大な事になってしまったのです。最近ダンジョンが活性化し、浅い階層でも強力なモンスターが湧き出るようになっています。それこそ、Aランク数パーティーでやっと討伐できるようなモンスターばかり...」
「それは本当なのか!?」
簡単に言えば、属性を持たないドラゴンがミニサイズになってそこら辺をウロウロして倒しても永遠に湧いてくる、と思って貰いたい。
それに、ダンジョンだって無限に広がっている訳じゃないのでモンスターが溢れ出て来る事だって十分にあるのだ。
「もう抑えるのも限界なんです! このままだと...」
「そういう事なら分かった。俺が何とかしよう」
俺は一瞬で魔力を回復できるし体力も魔法で回復が可能なので多分世界で一番持久戦に強いと思う。
つまりダンジョン攻略にはうってつけの逸材だ。
「ですが...一人では足りないかと思い、もう一人もそのダンジョンに向かって貰っています」
「もう一人?」
「はい、ジオニカ様に先にダンジョンに向かって貰うよう依頼を出してあります」
ジオニカか。アイツと連絡取れたのか?
「偶然先日にギルドに顔を出して頂いたようです。と言っても、こことはだいぶ遠いギルドみたいですけどね」
ジオニカは数人中二番目くらいにギルドに顔を出さない...と言うか各国をフラフラしているだけなのだが。
因みにアルヴァは数週間に一回はギルドに顔を出すらしい。
これでも歴代Sランクで見れば高頻度らしい。
だとすると俺は超高頻度。素晴らしい。
「えーっと、ダンジョンの場所は―――っと」
向こう側から飛んできた鳥型モンスターを避けながら目的地まで飛行を続ける。
今回の目的地も山。
と言っても只の山では無い。
「うわ...」
アルヴェル帝国の北の方。不可山脈にギリギリ入るか...いや、入らないな、って所にソレは存在した。
朽ち果てた木々が地面を覆う、死の大地。
そんな大地に聳え立つソレ...そう、火山だ。
ゴポゴポと音を立て、赤いマグマが煮えたぎる恐怖の山。
周りの大地は恐らく火山から漏れ出た毒素か何かで侵されたのだろう。
聖魔法とか光魔法が有れば毒素を消すことも出来るが、どうせまた火山から毒素が流れ出て終わりだろう。
そんな環境を見て思わず声が漏れてしまった。
そんな火山の中にダンジョンがあるとの事。
早速それらしき入口...と言っても穴と階段だが、を見つけた。
中に入ると、何やら音が。
――ムシャッ...――ムシャッ...。
何かを引きちぎるような音。
これは...。
「また食べてるのかよジオニカ...」
「うおぉ、誰かと思ったら王子君じゃないか。びっくりしたなぁ。急に後ろから喋り掛けないでくれよ...」
俺が声を掛けたのは俺と同じくSランク冒険者のジオニカ。
緑色のショートヘアに同じく緑色の瞳をしている小さな少女。服装はとても戦闘用とは思えない。まあ俺もかなり適当な服装しているから人の事言えないが。寝間着で戦ったこともあるし。一見只の布切れを体に巻き付けているだけのような姿をしている。
しかしある程度魔法や魔道具に精通している者ならこの布が自動修復機能を持っていることが分かる筈だ。破れてもすぐに元通りになるってことだな。
そんな彼女は大の食事好き。大食いだ。めちゃくちゃ食べる。
俺も美味しい物に目がないが、コイツの場合は少し違う。
美味しい、美味しくない、はコイツ、ジオニカの問題ではないのだ。
コイツは基本的に自分で倒したモンスターしか口にしない。
ジオニカ曰く、命の取り合いの敗者への供養だそうだ。
それに、自分で取った命以外を食べるのは命への冒涜だとか...。
そこに味の良し悪しは関係ない。
正直よく分からないが、彼女は大食いなのでお腹が空くとモンスターを大量虐殺して、売り払う分の体の部位も残さず、骨以外全て食べる。恐ろしい奴だ。
因みに野菜を食べるのはセーフらしい。あくまでも肉は自分で狩ったモンスターじゃないと駄目なようだ。
先ほどの引きちぎるような音も肉を嚙み千切る音だったようだ。
今食べているのも多分ハイオークとかだろうし...ハイオークはあまりおいしくないって評判なんだが...。
余談だがモンスターごとに割と美味しい美味しくないの差はある。
オーク系はマズイが、ゴブリンの肉は油が乗ってて美味しいそうとか。
てかハイオークの死体...じゃなくて骨が数十匹分くらい転がってるが...これ全部食べたのか?
ハイオークって全長三メートルくらいはあるんだが...。
「ごちそうさま...いや、待たせて済まない。では早速ダンジョンコアを破壊しに行こうか」
「あ、ああ。...そんなに食べて腹とか大丈夫なのか?」
「心配には及ばないさ」
そう言いながら、彼女は自分の背の丈の二倍はある斧を担いで歩き始めた。
彼女と行動を共にするのは初めてではない。
これまでも数回同じ依頼をこなしてきた仲だ。
だから彼女の面倒臭さを俺は知っている。
「おいおいちょっと王子君、私が今からやろうろしてたモンスターを倒すのは止めてくれないかな?」
「いや、たまたまだと思うぞ?」
魔法を連射しながらジオニカがターゲットにしようとしたモンスターを先手で狩る。
ジオニカはその大きな斧を使って神速の踏み込みから相手の首を一発で切り落とす、と言う戦闘スタイルを極めている。
これは恐らくモンスターを食べる時に肉体が残っていなかったら食べる部分がなくなるから極力体にダメージを与えないように立ち回っているから...だと解釈している。
それで、コイツが食事を始めると大体数分くらい暇な時間が出来てしまうからジオニカより先にモンスターを倒す事によりコイツの食事時間を減らそう、と言う魂胆だ。
コイツは自分で取った命しか食べないからな。
食べてるのほおって先に進んでもいいのだが、ジオニカは前衛としての能力は非常に高い。
不慮の一撃は事前にジオニカが弾いてくれるからな。
まあ首しか狙わないって言う舐めプが成立している程の実力があるからな。
防御に関してはあまり縛りがないようだ。
そんな前衛が居れば何かと楽になる為置いていこうにも置いていけない。
関係ない事を考えていると目の前で数十匹くらいのモンスターが瞬き程度の時間で首が断ち切られている。
いや仮にもドラゴンと同じくらいの強さの奴をいともたやすく瞬殺するなよ...。
体も相当硬い筈だし...それを豆腐の様にスッパスパと...。
「うむ」
倒したモンスターの肉を焼いて頬張るジオニカ。
彼女の持っている肉がモンスターの物じゃなかったら美味しそうにお肉を頬張る少女として絵になってた筈なんだが...どうしてこうなった。
彼女は魔法はモンスターを焼く事くらいにしか使わない。
まあ扱える属性は火くらいしかなさそうだが。
属性。今の人間が使う八種類の魔法属性。
これらは生まれつきの才能に大きく左右され、属性が二つくらい扱えればちょっと特別扱いされるし、五つにもなるとエリートまっしぐらと言う感じだ。
俺は勿論全部扱える。
ブーストが無かったら大したレベルではないが。
「次元断斬」
二階層目。
殆どのモンスターがSランクでもないと倒せないくらいの強さになって来た。
そんなモンスター達に次元魔法をお見舞いする。
次元ごとぶった切る魔法は発動までが少し遅いが、当たれば防御不可能の技だ。
だがブーストを使えばその発動時間の問題もほぼ解決し、他の魔法と同じ感じで使用できる。
ブーストだって威力の底上げしか出来ないと思ったら大間違いだ。
まあ俺程度の魔力量じゃ一発で魔力が枯渇するのだが。
そこは高速回復でカバーだ。
「王子君、なかなか派手なことするねぇ」
ジオニカはそう笑いながらまたモンスター達の首を根こそぎ切り落としていく。
お前の方が防御不可っぽい事してると思うのは俺だけだろうか。
だって見えないもん。どんだけ早いんだよって話。
暫く襲って来るモンスターを薙ぎ倒しながら進んでいくと、箱のような物を見つけた。
「お、宝箱か」
「ダンジョンなんだから、それくらいあるでしょ」
そう言いながら汗を拭うジオニカ。
「にしても熱いな...」
思わず滴り落ちそうになった汗を俺も拭う。
そうしながらも、俺の手は宝箱へと伸びていく。
開封。宝箱から出てきたのは謎の宝石。
「なんだこれ」
「知らないのかね王子君? これは魔石だよ?」
「あの?」
「そう、モンスターから出て来るアレね。アレの上位互換って感じさ」
モンスターから出て来る魔石は人工の魔道具を作るのに必要不可欠な魔力を操るパーツだ。
「結構レアだな...」
「当たり前でしょ。宝箱から出て来る物の質が良くなかったらこんな火山になんて誰も来ないって。なにせ、こんなに熱いんだもの」
「それもそうだな...」
汗を拭いながら、俺達はダンジョン「熱岩の洞窟」を進んでいく...。
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