武器
訪れたのは商格。屋敷程ではないが、民家と比べればかなりの大きさをした建物や工場が立ち並ぶ。
この世界の工場には機械等は設置されておらず、単純に手作業をする作業場、と言った認識だ。
商格は商いが最も盛んな所だ。商品の生産、販売等、全てがココで行われている。
「ホント、ココは凄いわね...」
「全く同感だ」
夥しい数の商店、商店、商店......。
飲食店、雑貨店、武器屋、サービス店...多すぎて逆にお目当ての店が見つからない。
エルと二人でぶらぶら町を歩いていると、ふと武器屋にあった武器に目が行く。
斧...じゃない。これは鎌? それに魔力も感じ取れる。
「おぉ、これはこれは王子様。この武器が気になりますかな?」
店の中から店主と思わしき老人が現れる。
「これはダンジョンの宝箱から出た武器、魔道具、と言った方が分かりやすいですかな?」
ダンジョン。各地に点在するモノだ。
魔力が満ち溢れ、ダンジョンコア、と言う物から無限にモンスターを生み出す恐怖の巣窟。
ダンジョンは何階層かに分かれているモノが殆どで、階層ごとに生み出されるモンスターの格が変動する。
最初の数階層は最低ランク冒険者でも余裕だが、階層が深くなり...ダンジョンコアに最も近い最下層では、不可山脈に匹敵する程ではないが、Aランクモンスターならゴミの様に蔓延るだろう。Aランクとなれば冒険者の中でも超エリートのAランク冒険者が居ないと討伐出来ない程の強さ。
てかAランク冒険者も十分強いんだぞ?
ただSランクはAランクより他の部分が狂ったように尖ってるだけだから...。エルの身体能力とか、俺のブーストとか。
しかし、どういう理屈なのか宝箱等目ぼしいアイテムを排出し続けるので、それを目当てにした冒険者が後を絶たない。
まあ実際冒険者が一定以上のモンスターを狩ってくれないとダンジョンからモンスターが溢れ出るからね。
ダンジョンから出た武器となると、それなりに強力なモノだろう。
正直欲しい。
鎌。ロストも恰好で持ったらカッコよくね? 鳥の面以外は非常に死神っぽい恰好をしているから、鎌持たせたら絶対光るものがある。
「幾らだ?」
「ノア? これ買うの? 取り回し難しそうだけど...」
「まあ大丈夫だろ」
「何よその根拠のない自信は?」
「こちら、金貨三十枚で如何ですかな?」
まあダンジョン産の武器ならそのくらいが妥当だろう。
金貨を出し、鎌を手に入れる。
「こちらの武具は魔力を流すと、微力ではありますが衝撃波を放つ武具となっているようです」
一見微妙に聞こえる能力だが、この手...威力の低いモノは発生が速いと決まっているからな。
とっさの一手にはなるだろう。
鎌...って呼びづらいな...衝撃鎌って呼ぶか。直球でダサいのは許して欲しい。
エルとまた町中を歩く。
「あ、あの、止めて下さい...」
「へへ、良いじゃねぇか...」
すると、通り道の端で何か言い争いが。
女の子とでかい男...状況から推察するに、あまり良い関係ではないようだ。
「つべこべ言うんじゃねぇっ!」
突然、少女に襲い掛かる男。
それと同時にエルが手を振った。
そう、手刀である。
しかしそれは手刀と言うには強すぎた。
とんでもない衝撃波が直進し、男を襲う。
一瞬にして吹き飛ばされる男。
うーん、強い、まさに武器要らず。俺の衝撃鎌がエルのより強い衝撃波を出せたら拝んでやるよ。
「何があったのかは知らないけど、暴力に手を出すなら勇者が黙ってないわよ?」
地面に倒れた男にそう話すエル。
勇者特有の桃色の髪が風に吹かれる。発言を聞いて震えあがった男は、悲鳴を上げる事すらなくその場を走り去っていった。声すら出ないとは...怖いな。
「あ、ありがとうございます勇者様っ!」
先程の少女もエルに礼を言っているし...。
エルはすげぇよ。