第1話 青春は続いている
ギリシャ神話、神々の時代。
ここは、オリンポス。神々の王、ゼウスの住まうところです。
青春の女神へーべは、夫ヘラクレスの行く末を見ておりました。
女神へーべは、青春そのものでした。しかし、夫であるヘラクレスは苦難と試練の人生を生きたため、青春を知りません。
「夫に、是非とも青春を味わってもらいたい。」
…そう思ったへーべは、ヘラクレスを「最も青春を体現する場所」へと送り届けたのでした。
「へーべ。貴方の夫は随分と楽しんでいますわよ。」
へーべに声をかけたのは、女神ヘラでした。
女神ヘラは、夫ゼウスの不倫の子であるヘラクレスに試練を課した厳しい女神ということになっていますが…。
実は、別にヘラクレスに意地悪をしようとしたわけではなく、状況がヘラクレスを追い込んだ結果、「とりあえずヘラ様の怒りに違いない」と周りが判断したにすぎなかったのです。それでも、ヘラ様は文句も言わず、「厳しい、意地悪な女神」という名を甘んじて受けているのでした。心の広い女神様なのです。
「あら、お母様。ご機嫌麗しゅう。」
へーべの挨拶も横に流して、ヘラ様は続けます。
「…若い子たちをあんなに侍らせて…。
ああ、しかも全員にはっきりしない態度…。
女の敵に、なりかかっていますわ!
あなたは、気になりませんの?」
へーべは微笑みながら、ヘラ様に反論しました。
「お母様。それが『青春』なのです。好きな子がいっぱい。誰か一人なんて選べない。ああ、どうしよう?
『青春』は迷うことなのですわ。」
ヘラ様は、一瞬怖い目でへーべを見た後、背中を向けて言いました。
「そう。貴方が平気なら、ワタクシはどっちでもいいのですけど。
…あっちの世界で『誰かとくっついて』、捨てられやしないかと心配だっただけですわ。」
去っていこうとするヘラ様を、へーべが呼び止めました。
「待って、お母様。
…もしかして、お母様も『青春したい』のではありませんか?」
わかりやすく「ギクッ」とするヘラ様。へーべはにっこり笑って、ヘラ様のおでこに指先で触ります。
「お母様も、『青春』を楽しんでらしてくださいな。」
ヘラ様の姿は煙のように空気に紛れて見えなくなってしまいました。
さて、残されたへーべは一人、真面目な表情で呟きました。
「…お母様。そんな言い方をされては、気になってしまいます。」
へーべは、自分のおでこを指先で触りました。
たちまちへーべの姿が薄くなり、部屋からは誰もいなくなってしまいました。
二人が向かった先は、現代の日本。
「最も青春を体現する場所」…、
高校へ。




