第43話 七色の小さな秘密
岩と砂ばかりの東の大地。
その先で二人を待っていたのは、
思いがけない景色でした。
初めての場所。
初めての匂い。
どうやら、魔王も好奇心が止まらないようです。
Un petit secret aux sept couleurs
東の果て。
その先は、
砂漠だと思っていた。
地図にも、
ほとんど何も書かれていない。
岩。
砂。
また岩。
「何もないね」
「ああ」
「暑いね」
「ああ」
「喉乾いた」
「さっき飲んだだろ」
「また乾いた」
ミュルラスは、
収納魔法から水を出した。
「ほら」
「ありがとう」
ノエルは飲む。
また歩く。
「ミュルラス」
「なんだ」
「本当にこっちで合ってる?」
「知らん」
「……」
「未開の地なんだから、合ってるも何もないだろ」
「そっか」
また歩く。
やがて、
巨大な岩山が現れた。
二人は、
その間にある細い道を進んだ。
風が、
少し冷たくなる。
「……?」
ノエルが、鼻を動かした。
「どうした」
「匂いがする」
「何の」
「分からない」
もう一度。
息を吸う。
「でも、緑の匂い」
「緑?」
「うん」
岩の隙間から、
光が見えた。
二人は、
そこを抜ける。
そして、
立ち止まった。
「……」
「……」
目の前に、
緑が広がっていた。
巨大な木。
見たことのない葉。
青い草。
紫色の蔓。
透明な実。
遠くには、
淡い金色の花が、
一面に咲いている。
砂漠は、
岩山を境に、
完全に終わっていた。
「……すごい」
ノエルが呟く。
ミュルラスも、
何も言わない。
「知ってた?」
「いや」
「君も?」
「ああ」
ミュルラスは、
目の前の景色を見た。
「初めて見る」
ノエルが、
少し笑った。
「じゃあ、一緒だね」
「何がだ」
「二人とも初めて」
「……ああ」
二人は、
緑の中へ入った。
*
「ミュルラス」
「なんだ」
「これ」
ノエルは、
大きな赤い葉に、鼻を近づけていた。
「甘い匂いがする」
「食えるか?」
「匂いを嗅いだだけじゃ分からないよ」
ミュルラスが、
葉をちぎる。
「じゃあ食ってみる」
「待って」
「なんだ」
「毒だったらどうするの」
「俺は死なん」
「そういう問題じゃないよ」
葉を取り上げる。
「じゃあ、これは?」
今度は、
丸い透明な実。
ミュルラスが見る。
「ああ。それは食える」
「知ってるの?」
「いや」
「じゃあ、なんで?」
向こうを指す。
小さな魔獣が、
透明な実を食べている。
「あいつが食ってる」
「ああ」
ノエルも見る。
「じゃあ大丈夫かな」
一つ取る。
匂いを嗅ぐ。
「ちょっと桃みたい」
「桃?」
「人間界の果物」
「うまいのか」
「うん」
「食う」
「待って」
「なんでだ」
「洗ってから」
「面倒だな」
「お腹壊すよ」
「壊さん」
「洗う」
「……」
水魔法で、
二人分を洗った。
一口。
「……」
「どう?」
「うまい」
「ほんと?」
ノエルも食べる。
「……おいしい」
「だろ」
「君が作ったみたいに言わないで」
「俺が見つけた」
「魔獣が見つけたんだよ」
「俺が見つけた魔獣だ」
「そうなの?」
「今決めた」
ノエルが笑った。
*
それから、
二人はなかなか進まなかった。
何かを見つけるたび、
止まる。
ノエルは、
匂いを嗅ぐ。
ミュルラスは、
食えるかどうかを見る。
「これは?」
「食えない」
「なんで?」
「あそこだ」
草の陰。
大きな魔獣が、
ひっくり返っていた。
「……食べないでおこう」
「ああ」
少し先。
今度は、
七色の小さな光が飛んでいた。
「……?」
ミュルラスが、目で追う。
蟲。
小さい。
羽が透けている。
身体そのものが、
七色に淡く光っている。
そして、
近くを通った時、
ふわり。
甘い香りがした。
「……」
ミュルラスが、手を伸ばす。
ぱし。
捕まえた。
手の中で、
淡い光が漏れる。
「何してるの?」
ノエルが振り返る。
「なんでもない」
「何か捕まえた?」
「捕まえてない」
「手、光ってるよ」
「気のせいだ」
「……」
ノエルは、
少し首を傾げた。
でも、
すぐ別の花を見つけた。
「あ、これ」
しゃがみ込む。
その間に、
ミュルラスは、
そっと蟲を収納する。
また歩く。
少しして、
もう一匹。
ぱし。
さらに一匹。
ぱし。
「ミュルラス」
「なんだ」
「さっきから何してるの?」
「何もしてない」
「してるよ」
「お前は匂い嗅いでろ」
「?」
ノエルは、
また花へ向かった。
ミュルラスは、
七色の光を追った。
*
日が傾き始めた頃、
ミュルラスは、
一本の古木を見つけた。
「……」
とても大きい。
幹は、
二人で手を回しても、
到底届かないほど太い。
根元には、
大きな空洞。
ミュルラスは、中を覗いた。
暗い。
かなり奥行きがある。
風も入らない。
そして、
ほんのりと、
木の甘い香りがする。
「……」
収納魔法の中を覗いた。
七色の光。
一匹。
二匹。
三匹。
いつの間にか、
かなり集まっている。
ミュルラスは、
もう一度、
古木の洞を見た。
それから、
「……よし」
近くを飛んでいた一匹へ、
手を伸ばした。
à suivre…
ノエルは花や木々の香りに夢中。
そしてミュルラスは、
何やらこっそり集めている様子。
さて、魔王様は何を企んでいるのでしょう。




