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第30話 陽架琉の頑張り

 陽架琉(ひかる)が少しずつまた小学校に登校が出来るようになったのは、転落事件から約三ヶ月経った頃だ。


 陽架琉は、階段を使わずに別の階に移動が出来るようにと、元々あったエレベーターを利用をすることになった。

 教師が事故防止として同伴するのが条件で、陽架琉の様子を見てエレベーターを利用について判断をしていた。


「ぼく、今日はしんどいからね。エレベーターが良いの」


 陽架琉がしんどくないのに、楽をしたいから使いたいという時もあるため、慎重に判断をする必要があった。誰だって楽をしたい。


 陽架琉にとっては、階段を使うことで足腰のリハビリや体幹を鍛えることが出来るメリットがある。

 陽架琉は怪我の後遺症があるため、本当は階段を積極的に使ってほしい。


 でも、陽架琉は学校の階段から転落したので、時々発作のようにフラッシュバックをして体調を崩すこともあった。


 階段を見ることも難しかったり、見れるけど上り下りが出来ない時もあったりする。

 階段を見る事が出来るときは、数段だけ上り下りをしたり、タッチをするだけにしたりすることもある。


 エレベーターを使う目的は、そういった苦しい事情を防ぎ、安全に移動が出来るようにするためだ。


 周りの大人たちは、陽架琉が将来的に階段に対して強いトラウマで使えないことにならないように、様子を見ながら練習をさせているのだ。    


 陽架琉が、「あとちょっと! 」と前向きでいることも大切にしている。


 クラスメイトや他の児童たちは、学校がしてる陽架琉への態度に文句をいうものは少なくはなかった。


 その文句は、陽架琉への悪意というより「自分たちだって、階段は疲れることもあるから使いたい」というものだ。

 

 校長は、陽架琉がたまたま休んでいた日にあった全校集会で話をした。


『我が校では、エレベーターを先生と一緒に使っている児童がいます。みんなは、それを見て自分たちも使いたいって思っている人もいるでしょう』


 児童から寄せられた投書や教員からの目撃情報を聞いて、校長は陽架琉への対応について話した。


 念の為に、魂蔵に相談をしてから実行をしている。

 

『その生徒が、先生と一緒にエレベーターを時々使っている理由を考えたことはありますか?以前、集会や道徳の授業なので、この学校で起こったトラブルのことは覚えてますか? 』


 校長の言葉に、「あっ……」とそのことを思い出す児童がちらほらと出てきた。


『みんな、思い出してきたかな』


 校長は、児童の様子を見て思い出した。


『その子はね。トラブルがあってから、階段が怖くなったんだ。その子は、心と身体にたくさん傷を作ったんだよ』


 校長は出来るだけ、冷静でいれるようにした。


『その子を先生たちは、特別扱いをしてないんだ。だって、その子は怖い階段とちょっとずつ向き合ってるんだよ。すごく頑張ってるからね。先生たちは応援をしたいんだよ』

 

 児童たちは、黙って校長の話しを聞いた。中には、不満を言ってしまった児童が下を向いてる。


『目がよく見えないから、メガネやコンタクトをつけている。耳がよく聞こえないから、補聴器をつけている。体調が悪いから、お薬を飲む』


 校長は、児童たちに言葉が届くようにゆっくりと聞きやすい声で話しをしている。


『それって、ズルじゃないよね。その人にとっての助けで便利なモノだよね』


 「うん」と、頷く児童がちらほらといた。


『その子にとっては、階段が怖くてしんどくなってしまうからエレベーターを使ってるんだ。移動をするための助けで便利でもあるからね。安心安全の為に、先生と一緒に使ってるんだ』


 校長は、深呼吸をした。


『みんなも、エレベーターを使いたいって思うよね。体調やケガをして階段を使えないって時があれば、先生に相談をしましょう。その時に、よく話しをして、先生と一緒に使うことができます』


 校長は、長年の教員人生で児童の考えや想いに寄り添ってきた。


 でも、陽架琉への不満が大きくなって悲しい出来事にならないようにしたかったのだ。


『その子に、決して「あなただけ、使えていいな。ズルじゃん」と気持ちをぶつけないでくださいね。その子は、みんなと同じ人間です。今は、怖い階段と立ち向かっている途中なんです。()()()()()()()()応援をしましょう』


 校長は、しつこくしないとワザと言った。どこまで通じるか分からない。


 なぜ言ったのかというと、何事にもしつこくすると相手はだんだんと嫌になるからだ。



「校長先生! 」


 校長が校内を昼休みに散歩をしていた時に、陽架琉と同じクラスの児童の数人が駆け寄ってきた。


「どうしたの? 」


「おれたち、陽架琉くんがまた階段を頑張れるように応援をしようとおもうんだ」


「あっ、しつこくしないよ」


「そうだよ。階段をちょっとでも頑張れたのを知ったら、グータッチとか頑張ったねって言ってあげるんだ」


「しつこくしすぎたら、おれらだってしんどいからね」


「陽架琉くん、やっと学校に来れるようになったからね」


「あの時のこと、すごくしんどかったと思うから。オレたちで何かできないかなって思ったんだ! 」


 児童たちが口々に言う言葉に、校長は嬉しそうに頷いた。


「ありがとう。校長先生の言葉が届いて嬉しいよ。陽架琉くんも君たちが応援をしてくれたら、嬉しいと思うよ」


 児童たちは、嬉しそうに笑った。



 陽架琉が、また学校に登校した時の移動教室のこと。


「半分のところまで、登れてすごいぞ! 」


 校長と話しをしたクラスメイトが、陽架琉を褒めていた。


「ありがとう! 」


 陽架琉は、嬉しそうに笑った。


「でもね、つかられちゃった」


「疲れちゃったのか」

 

 クラスメイトの一人が言った。


「ちょっと、休もうか」


 付き添ってた教師が言った。


「あそこの隅っこなら、休めそうだな。オレたちが危なくないようにバリケードしてやるよ」


 クラスメイトの一人が言った。


 陽架琉の荷物は、同行している教師が安全のために、両手が開くようにリュックに入れて持っていた。


 陽架琉とクラスメイトは、すみっコで少しの間休憩をした。


「陽架琉くん、まだ時間があるから」


「オレたちとゆっくり、階段を上がってみる? 」


「いいの? 」


「うん! 」


「危なったら、先生が受け止めてくれるよ」 


 児童たちは、男性教師を見て言った。


「そうだよ。先生、鍛えてるから。陽架琉くんを守れるよ」


 児童たちの様子を見守っていた男性教師が言った。

  

「ちょっとだけ、がんばる」


「よっしゃ、がんばるぞ! 」


 陽架琉は身体が動きやすい方の手で階段の手すりを持って、片方はクラスメイトが優しく握った。


「ゆっくりで、いいからね」


「オレたち、別に遅れても大丈夫だから」


「気にしてないからね」


「君たち、ここに先生いるの忘れてないかな? 」


「あっ、やべぇ」


「聞いてないことにして」


「陽架琉くんとゆっくり階段を上まで登ったらね」


「「はーい」」


 なんとか、陽架琉と一緒にクラスメイトたちは階段を上の階まで登った。


「みんな、ありがとうね」


「うん! 」

 

「なんか、良い運動になった」


「陽架琉くん、良く頑張ったね」

 

「えへっ、ありがとう」


 陽架琉たちは、授業の本鈴が鳴り終わるギリギリに教室に駆け込めた。 



 彼らは、毎回陽架琉と一緒に移動をしてるわけじゃないし、ずっと側で応援をしてるわけじゃない。


 自分なら、こういう時に助けてもらったり、応援をしてもらったりってのを小四なりに考えていた。

 

 陽架琉も、口にはしないがそれをなんとなく分かってるようだった。


「下の階の教室でね。待っててね。ぼく、ちょっとがんばるからね」


 クラスメイトが心配して、陽架琉の方を見た時に彼自身がそう言った。


「分かった。下で待ってるからな〜 」   


「ちょっと頑張って〜 」


「しんどかったら、無理しないでね」


 とクラスメイトの数人はそう言って、軽々と階段を下りていく。


 陽架琉には、もう彼らのように階段を登って下りることは難しい。


 転落事件で、脳にダメージで身体や心の傷があって思うように出来なくなっていった。


 クラスメイトたちは、全ては理解が出来ないけど。陽架琉が一生懸命で、頑張り屋なのを知っているから。


 彼らなり、陽架琉の為になることを考えて動いていたのだった。


 こうして、陽架琉は周りの力を少し借りてちょっとずつ階段を登れるようになっていくのだ。

読んでいただき、ありがとうございます。


 僕は、小さい頃に自宅の階段を降りるときに、足を滑らして骨を折ったことがあります。

 今でも、階段を降りるのが怖いです。なるべく、手すりを持って落ち着いて降りれるようにしてます。

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