安息
「お前の弟子は優秀だな。泣き言1つ漏らさない」
ラミルは私を褒めた。ラミルに褒められるとか……
「だが、例の薬を打ったら流石に戻っては来れんぞ?」
ラミルが何やら言っている。何の話だろうか? 私は死んだふりをしながらラミルの話に耳を傾ける。
すると突然、師匠から黒いオーラが漏れ始める。偶に黒いのが出て居た時が有ったが、ここまでハッキリと出るのは始めてだ。かなりお怒りの様子。どうした師匠⁉︎
「リンドヴァル、抑えろ」
横に居るハイドが師匠に言うが、収まる気配は無い。それ所か睨み始める始末。師匠が怖い……
「はは! 怖いなリンドヴァル。だが、漸く感情を出してくれたな!」
ラミルは心底愉快そうに言った後、何処からか注射器を取り出した。
「【安息】だ」
レクイエム? あぁ! 思い出した! そういえば、前に師匠が言っていた薬だ。確か師匠は……
《あの薬は危険な薬、名前を【安息】。その名の通り、打ったれた者に安息を齎す薬だ。この薬を打つと人は皆安らかな夢に付ける。苦痛から解放され自身の望む夢が見られる。
なので、誰も起きて来ない。自身の望む、幸せで幸福な夢が見られるからだ。起きようとも思わない。そして、夢で幸せな最後を遂げる。
即ちそれは、精神の死。でも肉体は残っているから、抜け殻になる。それを【人形】と呼んでいる》
だった筈。いつぞやに聞いたレクイエムが何故ラミルの手元に?
answer! それは私に打つ為だ!
いやいや、answer! じゃない。そんな事言ってる場合じゃない。そんなの打たれたらヤバイよ。帰って来れないよ。
「リンドヴァル……弟子に別れを告るんだな」
ラミルは私の足を掴み、拷問時に破られ露出させられた太ももに手を置く。するとガシャガシャと音が鳴り始める。師匠だ。師匠が自らの枷を外そうと足掻き出したのだ。ラミルはそんな師匠を愉快そうに見ながら私の太ももに針をさして注射器内の液体を体内に注入して来た。
珍しく師匠が絶望したような表情をした。希というか始めて見る表情だ。師匠もこんな顔できたのだなぁ……なんて呑気に思っていた。
どんどんと視界が霞み、目が閉じていく……
……訳あるか! 引っかかったなラミル!
私は魔法が大の得意だ。魔法を使い血中に入り込んだ異物をその場で止める事くらい訳ない。昔、意地悪な兄に毒蛇を投げつけられ噛まれた事が有ったが、その時は血中に入り込んだ毒を噛まれた箇所で止めたので大事には至らなかった。もし止めれてなかったら私はココには居なかっただろうなぁ。
なので今回も同じ要領で行く。しかし、この手はカミルや師匠の殊技殺しを使われている場合は使えないので注意。
「さぁ、リンドヴァルにその顔を見せてやれ」
ラミルは私の枷を外し、手を掴み引っ張り座らせた。そして師匠に私を見せつける様に顔に掛かった髪を払い顔を晒した。髪を払ってくれた為、視界がクリアになり辺りが良く見えた。辺りを見るとグロキシニアは居たが、幸いな事にカミルは居ない。これなら勝つる!
「甘い人だね、貴方」
「なっ⁉︎」
私はラミルに顔を向けて言う。するとかなり驚いたらしいラミルに隙が出来た。今がチャンス!
私は足払いを掛けてラミルの体制を崩す。そして顔面に横薙ぎの蹴りをお見舞いしてやった。始めて六花に有効な攻撃が入った瞬間だった。イケメンの顔面に蹴りを入れるって、なんだか優越感あるな。
吹き飛んだラミルだが、直ぐに体制を立て直して私に向き合った。
「どうやって助かった?」
「さぁ?」
もっともな疑問だがネタバレする気は更々無いので答えない。
私は近くに落ちていたメスで注射器を刺された太ももを刺す。すると血と共に打たれた薬品が一緒に出て行った。これで、もう安心だ。
私はチラリと師匠を見る。師匠は1つ頷いてくれた。なので私も1つ頷く。
そして師匠達を置いて影の中に潜り込んだ。
師匠と交わしたいつかの約束。
『佳月、もし俺達が捕まる事があれば、お前は1人ででも逃げろ』
月の綺麗な夜に師匠に言われた言葉。師匠は月を見上げながら言った。私はそんな師匠を見上げる。
『え?』
突然のそれに私は聞き返した。師匠は月から目を離さない。そのまま話続ける。
『お前は1人ならば捕まらないだろう。黒は揃えてはならない。お前が捕まらなければ黒は揃わない。だから1人で逃げろ』
『んな、殺生な……』
困る私に気にせず言葉を続ける師匠。
『いいか? 例え、コルネリア様が捕まっても、俺が捕まっても1人になっても、お前だけは逃げるんだ』
それは一方的な師匠との約束。




