門前にて
こまめな休息をとりながら一日をかけ、一行は銀灰の遺跡サロへとたどり着いた。幾度かモンスターの接近はあったものの、どれも追い返すのには困らないものばかりだった。サロに近づくほどにそれも減り、やがて、鳥や虫たちの姿さえなくなった。
あたりは荒涼としている。植物どころか、苔さえ生えていない。建物は、いぶし銀のような色をした石で建てられている。そこにも、苔や蔦がまとわりついている様子はない。風さえ遺跡を避けるのか、建物が風化しているようにも見えなかった。外見ではそれほど大きく見えないのは、この遺跡が、地下に伸びているからだ。そしてここでは、魔法が一切使えない。
カイトは懐に忍ばせていた石を取り出した。この石は、持ち主に死が迫るとき、一度だけその身代りになってくれるものだ。ふだんは深い緑に輝いているはずのその石が、今は色を失っている。
「なるほど……これは怖いな」
イナンナが落ち着きなく辺りを見回している。彼女も遺跡に入れば、守護魔を召喚することはできなくなるに違いない。カイトが声を低くして、問う。
「ここで待つか?」
イナンナは迷っているようだった。上目づかいにカイトを見る。
「足手まとい、だよね」
召喚師だからこそ、イナンナはカイトとジャスミンと並んでいられる。力を使えない彼女は、ごく普通の少女にすぎない。だが二人の話を聞いていたのか、ミランが声を投げてきた。
「野党なんかはよく徘徊しているそうだ、待つほうが危険だと、僕は思うよ」
ねえ、とメルクリアに顔を向ける。彼女は馬車から下り、自分の足で歩いていた。扇をイナンナの方へ向ける。
「わらわの予言の力は魔法にあらず、もっと高位のもの。なればこそ、わらわはここへ来て、ミラン殿の望みを叶えてやろうとしておる。そなたの身にも脅威などなかろうよ」
イナンナの瞳に、激しい感情が宿った。その目でメルクリアを睨む。言葉はない。カイトは、ジャスミンと顔を見合わせた。二人とも、イナンナの激情にかられた顔を見るのは初めてである。
「イナンナは、痛いのも死ぬのも怖くない」
低く言う。モスが、やれやれ、とため息を吐いた。
「挑発に乗っちまった嬢ちゃんの負けだな」
「決まりだね」
ミランが、ふ、と笑みを浮かべた。その表情にカイトは不快感を抱いたが、あえて言葉を呑みこんだ。横でジャスミンが、同じように押し黙っている。
入口を調べていたヒイラギが、主人の元へ何事か耳打ちした。ミランは頷いた。
「いいだろう、始めるといい」
直後、大爆音が響き渡った。地面が揺れる。モスが怒声を上げた。岩が宙に舞い上がり、がれきがパラパラと降ってくる。
後世の者が誰も開くことのないよう、二度と開かれぬようにと固く閉ざされていたサロの入口が、吹き飛ばされたのだ。ジャスミンが驚き、わずかに怯えたような声を出した。
「なにあれ……魔法じゃないの?」
「あれは火薬っちゅうものだ」
モスは唸るように答える。曰く、火薬はドワーフの秘蔵の技術だ。作るにも手間がかかるし、危険な技術のため、出回ることはそれほどないはずのものである。
「どうやって、あれだけの火薬を」
モスの戸惑う声に、金と権力、とカイトは答えた。




