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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第九話 王宮錬金術師団が異変に気づく

王宮の治療室で、医師長オルフェンは三本の薬瓶を並べていた。

「もう一度測れ」

王宮の担当官は在庫の減り方を見て、最初は盗難を疑った。

だが治療院の報告と照合すると、以前より多くの患者が回復していた。

担当官は報告書の『異常』という見出しを消し、理由を調べるため自ら貧民街へ向かった。

王宮の監査官は、貧民街から戻った薬瓶の製造番号を見て黙り込んだ。

追放者の名を報告書に書けば自分の査定にも響く。

だが患者の回復記録は消せない。

彼は報告書の宛先を団長ではなく医師長に変えた。

助手が分析器を動かす。

結果は変わらない。

新しく納入された回復薬は、保存七日目で効力が大きく落ちていた。

「以前はこんなことはなかった」

薬のラベルを調べると、品質管理の担当者名が空欄になっている。

先月までは、そこにレイヴン・ノーチスと書かれていた。

医師長は錬金術師団へ向かった。

「レイヴンの工程を再現できる者はいるか」

シュミットは不機嫌そうに答えた。

医師長は患者の診療記録を読み、薬の劣化が実害を生んでいると知った。

「たかが下級錬金術師の手順です。誰にでもできます」

「では、なぜ薬が劣化する?」

「原料の問題でしょう」

「原料は同じだ」

研究室では若い錬金術師たちが夜通し試験を続けていた。

手順書には『濁りが消えるまで精製』とある。

だが、どの濁りを、どう消すのか。

レイヴンが記録した詳細な実験ノートは見つからない。

「師団長が保管しているはずです」

ユリウスは師団長に命じられて、レイヴンの研究ノートを探したことがあった。

倉庫の箱には、表紙を剥がされた紙束が詰め込まれていた。

重要なページは抜け、実験の日付もばらばらだった。

彼は自分がもっと早く声を上げるべきだったと悔やんだ。

それでも失われた紙を嘆くだけでは、治療室の薬は良くならない。

貧民街の工房で、ユリウスは先輩が失敗瓶まで残しているのを見た。

「どうして、こんなものまで?」

レイヴンは瓶の底を示した。

「同じ色でも、不純物の種類が違う。失敗を見比べれば、次は避けられる」

ユリウスは自分の研究室に戻ったら、失敗を隠さず記録しようと決めた。

ユリウスは失敗した試験を隠さず、上司へ報告する決意をした。

王宮へ帰る道で、彼は市場の薬屋に立ち寄った。

安い回復薬を求める客が列を作っている。

店主は品切れだと頭を下げていた。

ユリウスは、自分たちの研究が遅れれば困るのは王宮だけではないと知った。

次の報告書には、患者の声も書き添えるつもりだった。

助手が言うと、シュミットの表情が変わった。

「不要な紙束は処分した」

医師長は声を荒らげた。

「患者の命がかかっているんだぞ!」

そのころ貧民街では、レイヴンが新しい滴下装置の調整をしていた。

王宮の騒ぎはまだ知らない。

医師長は病棟へ戻り、七日目の薬を投与された患者の名を一人ずつ確かめた。

回復が遅れた兵士だけではない。

退院できるはずだった老人は冬の薪を買う金を使い果たし、寝たきりの娘を看る母親は仕事を失っていた。

数字にすれば

「効力低下」

でも、患者には取り返せない七日間だった。

監査官が

「王宮の名誉に関わります」

と囁くと、医師長は診療簿を閉じた。

「名誉を守るなら、まず患者に謝ることだ」

報告書には被害の人数だけでなく、追加治療費を王宮が負担するよう明記した。

国王が受け取るのは技術上の失敗ではない。

追放を許した組織の請求書だった。

シュミットは数字だけを見て、品質の違いを認めようとしなかった。

助手の記憶。

ユリウスは王宮の廊下で、追放の日のことを何度も思い返した。

あのとき一言でも反対していれば、先輩は残れただろうか。

いま彼ができるのは、過去を悔やむことだけではない。

教わった検査手順を守り、危険な薬を患者へ渡さないことだ。

彼は改善記録にレイヴンの名を正しく記した。

リーナが工房へ駆け込んでくる。

「お兄ちゃん、外に王宮の人がいる!」

現れたのは若い錬金術師ユリウスだった。

レイヴンの元助手で、追放の査定室にも同席していた青年だ。

「先輩。お願いがあります。王宮の薬が……」

彼は頭を下げ、事情を説明した。

レイヴンはしばらく黙っていた。

王宮に戻るつもりはない。

だが薬を必要としているのは、あの机に座っていた人々ではなく、病床の患者たちだ。

レイヴンは王宮への怒りを飲み込み、患者のために手順を教えた。

「製造記録を見せてください。失敗の原因なら、調べられると思います」

王宮の医師長オルフェンは、改善試験の成功報告の末尾に、回復しなかった患者の名を記した。

投薬を止めていれば悪化を防げた可能性がある。

数値が戻っても、失った時間は戻らない。

国王が

「責任者の名を伏せよ」

と命じると、オルフェンは報告書を閉じた。

「患者の名前を記すなら、命令した者の名前も記すべきです」

その一言で、王宮の沈黙は初めて責任を問われるものになった。

王宮の廊下。

王宮には静かな廊下が多い。

薬を待つ患者の声は、厚い扉の向こうに届きにくかった。

ユリウスは治療室で咳をする子供を見て、自分が守るべきものを思い出した。

師団長の評価でも、研究所の名誉でもない。

薬を飲んだ人が翌朝目を覚ますこと。

そのためなら、追放された先輩に頭を下げるのを恥とは思わなかった。

ユリウスは顔を上げた。

「助けてくれるんですか」

「患者のためなら」

国王は報告書に残る追放決裁の印を見つめ、沈黙した。

二人は夜遅くまで記録を読み、濁りが消えた後にも残る不純物を見つけた。

王宮の工程は、そこで精製を終えていた。

「あと一段階、必要なんだ」

医師長オルフェンは母親の前で頭を下げた。

「記録が残っていれば、同じ瓶を二度と渡さずに済んだ」

母親は謝罪を受け取らなかった。

「だったら今、ほかの病棟の瓶を止めて」

医師長はすぐ全病棟へ出荷停止を命じた。

シュミットの署名が必要だと言われても、

「責任は私が負う」

と答えた。

監査官は消された研究者名を見つけ、報告書の余白に小さく日付を書いた。

シュミットが書類を取り上げようとすると、監査官は原本を封筒へ戻した。

「陛下には複写ではなく、原本をお見せします」

その一言で、査定室の空気が変わった。

レイヴンは紙に温度変化の曲線を書いた。

「この曲線を守れば、少なくとも劣化は抑えられる。ただし製品ごとの検査は省かないで」

ユリウスは何度も礼を言って帰っていった。


翌朝、王宮では改善試験が成功した。

医師長が報告書を国王に提出する。

『原因は追放されたレイヴンの精製工程を省略したこと』

国王は報告書を読み、長い間黙っていた。

シュミットは別の書類を机に広げていた。

そこにはレイヴンの名を消した研究成果の一覧があった。

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