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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第八十一話 世界中で同じ病が発生した

北方の鉱山町で子供たちが同じ日に倒れた。

額には紫の細い紋様。

診療所の医師は、王女エレオノーラの古い症例と似ていると気づき、国際医療網へ警報を送った。

最初の報告書には病名が書かれていなかった。

熱も咳もないのに倒れた者がいる。

次の国では井戸の水が濁り、その次では魔力計が異常を示した。

症状が揃わないこと自体が不気味だった。

レイヴンは各地の記録を重ね、同じ病として扱ってよいかを疑い始めた。

レイヴンは机に置かれた発症時刻を、もう一度最初から見直した。

数行の文字の向こうに、眠れない家族や、名前も知らない職人の夜がある。

計算を間違えれば、苦しむのは数字ではなく人間だった。

彼は書き込みを急がず、確かな事実と推測を別の色で記した。

マリシアが隣に立ち、無言で新しい報告を差し出す。

「結論を急がないで」

と彼女は言った。

「急ぐのは、助けるための準備だけでいい」

その言葉にレイヴンは頷いた。

レイヴンは症例地図を広げた。

北の雪国、南の港町、帝国の炭鉱。

距離も気候も違うのに、発症した日は一致していた。

感染症なら人の移動に沿うはずだが、患者の接点は見つからない。

地図の周囲には、いつしか大勢が集まっていた。

肩書のある者ばかりではない。

水を運ぶ者、道を知る者、壊れた器具を直す者。

それぞれが自分にできることを申し出た。

以前のレイヴンなら、迷惑をかけまいと一人で抱え込んだだろう。

けれど今は、助けを求めることも仕事の一つだと知っている。

ゴルバが

「手を動かす人間に、ちゃんと休憩を取らせろよ」

と言い、張りつめた場に小さな笑いが生まれた。

リーナが症例の発症時刻を揃えると、地下の魔力脈が強く脈動した時刻と重なった。

エルナは農園の井戸水に微細な結晶が混じると報告する。

病は人から人へ広がっているのではない。

地面の下から来ていた。

リーナは結晶を見つめたまま、幼い日のことを思い出していた。

薄暗い診療所で息ができず、母親の声さえ遠くなった夜。

レイヴンが差し出した一瓶は、彼女にとって世界そのものだった。

今では自分が別の誰かに手を差し出している。

だからこそ、できないことをできると言いたくなかった。

彼女は深呼吸し、患者に説明する言葉を何度も練習した。

「怖いことも、まだ分からないことも、ちゃんと伝えます」

それが今の彼女の誓いだった。

最初の報告は、同じ夜に三つの国から届いた。

熱、黒い斑点、そしてエリクサー投与後にも続く呼吸困難。

レイヴンは地図に印をつけたが、線で結ぶのをためらった。

偶然ならよかった。

しかし四つ目の国から、まったく同じ症状の子供の記録が届いた。

「流行ではないかもしれない」

その言葉で、部屋の空気が変わった。

王都の会議では国境閉鎖を主張する声が上がった。

レイヴンは検査結果を示し、根拠のない隔離は食料と薬の輸送を止めると反論した。

マリシアは患者の症状を分類し、重症者の搬送基準を作った。

エルナは調査の進み具合を確かめる前に、働く人々の顔を見た。

無理な計画ほど、最初は立派な数字に見える。

だが畑は命令では育たず、人の体力も無限ではない。

彼女は作業を一日分減らし、代わりに交代要員を増やした。

誰かが

「間に合わなくなる」

と不安を口にすると、エルナは首を振った。

「今日だけ成功して、明日倒れたら失敗よ」

レイヴンも同意した。

続けられる仕組みこそ、彼らが築いてきた革命だった。

帝国の医師ミレナからも同じ結晶の報告が届いた。

かつて敵国の兵士を救った共同診療所が、今度は大陸全体の警戒拠点になる。

ベルクは帝国の鉱山記録を開示すると約束した。

遠い村から、折りたたまれた手紙が届いた。

差出人は治療を受けた子供の父親で、達筆ではなかったが、一文字ずつ丁寧に書かれていた。

「うちの子は、また笑いました」

その短い一行を読み、レイヴンは胸の奥が熱くなるのを感じた。

世界を救うという大きな言葉は、時に実感を失わせる。

だがこの手紙には、朝食の席で笑った一人の子供がいた。

彼は手紙を机の端に置き、次の仕事に取りかかった。

最初の警報から三日後、国際医療局は各国の患者数を集計した。

発症地域には偏りがあり、すべての病が同じ原因とは限らない。

リーナは地図の上に赤い印を打ち、

「同じ名前を付ける前に、検査結果を揃えましょう」

と呼びかけた。

最初の患者だった少年が、レイヴンに尋ねた。

「僕が悪いことをしたから病気になったの」

レイヴンは首を横に振った。

「君のせいじゃない。原因を見つけて止める」

少年は震える手で母親の指を握った。

夜の見回りで、ゴルバは結晶の具合を確かめた。

何度も修理した痕が残っている。

弟子の一人が

「新しい物に替えましょうか」

と尋ねると、彼は首を振った。

「使える物を捨てるな。ただし危ない物は残すな」

似ているようで違う二つの判断を、弟子は帳面に書き留めた。

レイヴンはそのやり取りを聞き、技術は秘密の呪文ではなく、こうした小さな判断の積み重ねで受け継がれるのだと思った。

夜、二十か国から届いた症例報告を重ねると、発症地点は巨大な円を描いた。

円の中心には地図に載らない古代遺跡があった。

レイヴンはその位置に印をつける。

「薬を配るだけでは、終わらない」

マリシアは診療所で、一人の患者の手を握った。

病を治す方法が見つかっても、恐怖まで一瞬で消えるわけではない。

「明日のことを考えると眠れない」

と患者は言う。

マリシアは無理に励まさず、明朝の検査と、痛みが増したときの連絡方法を説明した。

具体的な約束を一つずつ積むと、患者の呼吸が少し落ち着いた。

彼女は病室を出て、レイヴンに伝える。

「薬の力を信じることと、人の不安を聞くことは、両方必要なの」

その後も地図では議論が続いた。

レイヴンは仲間の意見を一つずつ聞き、反対の理由まで記録した。

全員が同じ答えを持つ必要はない。

違う経験を持つ者が集まったからこそ、見落としていた危険に気づける。

リーナは最後に記録を読み返し、患者の立場から分かりにくい言葉を直した。

夜が深くなっても、誰も自分だけの功績を主張しなかった。

工房の裏口で、レイヴンは治療台帳を持ったまま立ち止まった。

「誰が直せるか、ではなく、誰に教えられるかです」

医師が視線を上げる。

古参の職人は工具を置き、若者の手元を見守った。

レイヴンは避難所の人々の顔を思い浮かべ、決定の理由を一つずつ伝えた。

反論も聞いた。

すぐに正解は出なかったが、責任を分け合う方法だけは決まった。

その技術は、一人だけの秘密ではなくなった。

窓辺で、レイヴンは治療台帳を開き、目の前の状況を確かめた。

「ここから先は、私が引き受けます」

医師が視線を上げる。

若い職人は震える指で工具を握り直し、隣の者が灯りを寄せた。

反論も聞いた。

夜明けには、作業を続ける者が二人増えていた。

三つの国から届いた患者記録には、異なる言語で同じ症状が書かれていた。

リーナは地図に印をつけ、海路で結ばれていない村にも発症者がいると気づく。

「感染だけじゃ説明できない」

レイヴンは新しい報告を待つのをやめ、各地の水と魔力環境を同時に調べるよう指示した。

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