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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第三十八話 偽物のエリクサーが市場に出回った

工房の朝は、一本の急報から始まった。

いつもなら聞こえる作業員たちの挨拶が途絶え、検査室には緊張が満ちていた。

誰かの不安を解くためにも、レイヴンはまず事実を一つずつ確かめようと決めた。

偽薬を買った父親は、娘に何が起きたかを話そうとしなかった。

責められると思っていたのだ。

マリシアは領収書を取り上げず、

「知らせてくれて助かりました」

と言った。

告発が遅れれば、同じ瓶を買う人が増える。

父親は泣きながら店の名前を告げた。

王都の南市場で、安価なエリクサーを売る露店が現れた。

黄金色の液体が入った瓶には、レイヴンの工房とよく似た紋章が貼られている。

「正規品の半額だよ!」

売り子の声に、病人の家族が集まった。


その日の夕方、偽薬を飲んだ三人が激しい痙攣を起こして診療所へ運び込まれた。

マリシアはすぐに投与を中止させ、患者の状態を安定させる。

レイヴンは残された瓶を手に取り、匂いを確かめた。

「これは、うちの薬じゃない」

搬送された患者の一人は、偽薬を買うために冬の薪代を使い果たした父親だった。

幼い娘は寝台の脇で、空になった財布を握っている。

「本物より安かったから。父さんが治ると思ったから」

レイヴンは怒りを抑え、瓶の封蝋を机に並べた。

正規品の紋章には小さな二重線があるが、偽物には一本しかない。

さらに三つの露店で回収した瓶には同じ鋳型の傷があった。

「作った場所は一つだ。売り子だけを捕まえても終わらない」

リーナは市場へ向かう衛兵に、患者名ではなく仕入れ伝票の保全を頼んだ。

誰が被害者かを隠し、誰が利益を得たかを追うためだった。

「見た目は同じです」

とリーナが言う。

「だから危険なんだ」

レイヴンは瓶の封を開き、解析を始めた。

薬液にはエリクサー特有の魔力周期があるが、偽薬にはその揺らぎがない。

代わりに、王宮地下の旧研究施設で見た汚染物質に似た反応が現れた。

「誰かが色だけ似せたのか」

「それだけじゃない。効いたように見せる刺激剤を混ぜている。飲んだ直後は元気になるが、あとで体に負担が来る」

マリシアは眉を寄せた。

「患者を使って宣伝したのね」

工房では緊急会議が開かれた。

ゴルバは瓶の形を変えようと提案し、エルナは原料の流通経路を調べ始める。

レイヴンは二人の案を聞いたうえで、三つの対策を決めた。

一本ごとの製造番号。

開封すると壊れる封印。

販売店で確認できる品質証明。

「偽物を絶対に作れなくするのは難しい。でも、患者が見分けられるようにはできる」

リーナが手を挙げた。

「字を読めない人は?」

「封印の模様を変えよう。絵でも分かるようにする」

彼女は机に、太陽と葉を組み合わせた印を描いた。


翌日、王都の広場で公開検査が行われた。

商人たちが持ち込んだ瓶を並べ、レイヴンは一本ずつ魔力の波形を示した。

「これが正規品。こちらが偽物です」

見た目は同じでも、光の揺れはまるで違った。

「本当に危険なのか!」

群衆から声が上がる。

「危険な成分が確認されています。すでに症状が出た人もいます。購入した方は飲まず、診療所に持ってきてください」

彼は煽るような言葉を使わなかった。

必要なのは恐怖ではなく、判断できる情報だった。

偽薬の被害が広がるにつれ、正規品まで疑う人が増えた。

薬屋の店主は客から

「本当に安全なのか」

と何度も問われ、疲れ切っていた。

レイヴンは各店を回り、検査の方法を実演した。

封印だけを信用しないこと。

製造番号を照合すること。

少しでも異常があれば販売を止めること。

時間のかかる作業だったが、信頼を取り戻す近道はなかった。

リーナが描いた太陽と葉の印は、子供にも覚えやすかった。

だがゴルバは

「印だけ真似されたらどうする」

と尋ねた。

そこで封印の内部に、特定の光で反応する微細な魔力線を組み込んだ。

外からは分からず、検査具を当てると線が浮かぶ。

「これなら二重に確認できる」

リーナは得意げに笑ったが、レイヴンは釘を刺した。

「いつか破られるかもしれない。だから仕組みは見直し続けるんだ」

偽薬を飲んだ患者の家族は、レイヴンの前で泣きながら怒った。

「本物かどうか、どうして私たちに分かるんです」

彼は言い返せなかった。

製造番号だけでなく、診療所で照合できる台帳と回収窓口を作る。

工房の信用は、信じろと命じて得られるものではなかった。

被害に遭った三人のうち、一人は回復に時間がかかった。

レイヴンは病室へ足を運び、薬を買った経緯を聞いた。

患者は

「正規の店では遠くて買えなかった」

と答えた。

偽物を取り締まるだけでは足りない。

本物が手に入らない場所がある限り、危険な薬は入り込む。

レイヴンは出荷先の地図に、まだ正規店のない町を赤く記した。

市場で偽薬を売った露店の跡には、翌日も人々が集まっていた。

買った瓶を持ってくる人、飲んだ家族の容体を相談する人、怒りをぶつける人。

レイヴンは全員に同じ説明を繰り返した。

検査を受けること、症状があればすぐ診療所へ行くこと、瓶は捨てずに持参すること。

地味で時間のかかる対応だったが、被害を広げないためには必要だった。

ゴルバは封印の改良だけでなく、瓶を詰める箱にも工夫を加えた。

箱を開くと中の製造番号が一覧で確認できる。

輸送中に一本抜き取られても、受け取る店が気づける仕組みだ。

エルナは薬草の納入記録をさかのぼり、偽薬に使われた原料が正規の農園から出ていないことを確かめた。

技術者も農民も、それぞれの場所から真相に迫っていた。

夜、マリシアは被害患者の経過を記録しながら、ため息をついた。

「薬が広まるほど、悪用しようとする人も増えるのね」

レイヴンはうなずいた。

「だから作る技術だけでなく、守る仕組みも育てないと」

彼は新しい検査台の設計図を開いた。

工房の検査員たちは、偽薬の瓶を教材として保存した。

正規品と並べて違いを学び、少しでも疑わしいものは隔離する。

ミーナは新入りに言った。

「見た目が同じだから、気をつけるの。信じたいと思うときほど、確かめて」

レイヴンはその言葉を聞き、品質管理の教本の最初の頁に書き留めた。

薬を守る仕事には、疑う勇気も必要だった。

偽薬を買った母親は、正規品との違いを教わると何度も頭を下げた。

リーナは彼女の手を握り、

「次は私が印を見てあげる」

と言った。

レイヴンはその姿を見て、品質表示をもっと分かりやすくする必要を感じた。

どれほど優れた技術でも、使う人に伝わらなければ守れない。

リーナは町の子供たちを集め、太陽と葉の印を描く練習をした。

正規の薬瓶を見たことがない子にも、絵なら伝わる。

「知らない人が売る薬は、すぐ飲まないで大人に聞いてね」

彼女の言葉は、難しい警告文よりずっと早く広まった。

検査の途中、偽薬を売った商人が逃げようとした。

騎士団が身柄を確保し、倉庫から大量の未販売品を押収する。

帳面には、王宮の旧研究施設から運ばれた薬液の記録が残っていた。

「誰が指示した?」

騎士隊長が問う。

商人は震えながら答えた。

「私は……名前を知らない。黒い封蝋の手紙が届いただけだ」

その封蝋には、神殿の紋章に似た意匠が刻まれていた。

偽薬を買った父親の娘が

「本物の印なら、私にも分かる?」

と尋ねた。

レイヴンは二つの封印を並べ、違いを教えた。

少女は一度見て覚えたが、マリシアが言った。

「見分ける責任を患者に押しつけないで」

翌日、工房は販売店ごとの照会台帳を公開し、診療所から無料で確認できるようにした。

偽薬を買った父親は、空になった財布を机に置いた。

「安いから選んだんじゃない。本物の見分け方を知らなかった」

レイヴンは言葉を失い、リーナの描いた印をすべての出荷箱にも付けることにした。

偽物を責めるだけでは、次の患者を守れない。

夜、レイヴンは病室を回った。

偽薬を飲んだ患者の一人が、申し訳なさそうに言った。

「安かったから、つい……」

「あなたが謝る必要はありません。安く治したいと思うのは当然です」

レイヴンは新しい封印の試作品を見せた。

「次は、迷わず本物を選べるようにします」

患者は小さくうなずいた。

工房へ戻ると、リーナの描いた太陽と葉の印が、最初の薬瓶に刻まれていた。

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