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王宮を追放された俺、万能薬を大量生産して貧民街から世界を救う  作者: レモンティー


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第百二十三話 千の村に井戸を掘れ

新しい学校の水桶が、昼前に空になった。

子供たちは授業を中断し、遠くの井戸まで列を作って歩いた。

豊かになった町でも、水はまだ足りていなかった。

リーナはアルディア全土の地図を広げた。

赤い印は、安全な飲料水がない村。

数えると千を超えていた。

最初の井戸で清水が湧いた日、村の少年は歓声を上げて柄杓を口に運ぼうとした。

検査係が間一髪で止めた。

透明な水には、古い鉱山由来の毒が混じっていたのだ。

少年の母親は泣きながら怒った。

「水が出たのに、どうして飲ませてくれないの!」

リーナは答えを急がなかった。


翌日から遠方の安全な水を運び、技師には井戸を閉鎖して再調査するよう命じた。

工事を待つ間、学校の授業が一日おきになった。

水汲みを任されていた少女は、教科書を持ったまま列に並んだ。

「この子が毎日学校に行ける井戸を作りたい」

母親の言葉に、技師たちは地下水だけでなく雨水貯留と浄化設備を組み合わせる計画へ変更した。

掘る本数より、安全に使える村の数を成果にするためだった。

「千の村に井戸を掘りましょう」

技師たちは顔を見合わせた。

「水のない場所で掘っても、井戸は空のままです」

「だから、掘る前に調べます」

エルナの弟子たちは、地下の水脈を探る魔力測定器を持ち込んだ。

しかし土壌に残る古い汚染が反応を乱す。

リーナは数値だけを信じず、地層の記録、古井戸の位置、住民が知る季節ごとの湧き水を集めた。

最初の候補地では、水脈が見つかった。

村人が歓声を上げた直後、検査を担当する治癒師が首を振る。

「この水には鉱毒が混じっています。飲ませられません」

村長は怒った。

「水が出たのに、また待てというのか!」

リーナは頭を下げた。

「出た水が人を病気にするなら、救援にはなりません」

ゴルバの工房で学んだ技師が、砂と炭と錬金膜を組み合わせた浄水装置を提案した。

だが装置は定期的な交換が必要で、村には交換膜を作る職人がいない。

「設置して終わりにしないこと」

リーナは技師に言った。

各地域に修理拠点を設け、村から二人ずつ管理者を育てる。

交換時期を文字だけでなく色でも示し、読み書きが苦手な人にも分かるようにした。

ミリナは学校の子供たちと井戸の使い方を描いた。

水桶を地面に置かないこと。

汚れた手で飲み口に触れないこと。

熱のある人が出たら、井戸の水も調べること。

最初の浄水井戸が完成した日、村の老婆が水をすくった。

彼女は一口飲んで、しばらく動かなかった。

「冷たいね」

水路の計画には、思いがけない対立もあった。

上流の村が水を多く取れば、下流の畑が枯れる。

リーナは各村の代表を集め、乾季に使える水量を示した。

誰もが自分の村を優先したい。

会議は夜まで続いた。

ミリナが持ってきたのは、上流と下流の子供たちが描いた絵だった。

どちらにも同じ青い川が流れている。

「川は村の境目で止まりません」

とミリナは言った。

代表たちは顔を見合わせ、取水量を共同で監視することに同意した。

掘削隊の若い技師は、最初の失敗を隠そうとした。

測定を誤り、地下水のない場所を掘ってしまったのだ。

工事費が無駄になることを恐れ、彼は日報を書き換えかけた。

ロアンが止めた。

「失敗を隠せば、次の村でも同じ穴を掘る」

技師は震える手で正しい記録を書いた。

リーナは彼を解任せず、再測定の責任者にした。

井戸を掘った村で、水が出た瞬間に誰も歓声を上げなかった。

濁った水だったからだ。

ミリナは試験紙を取り出し、子供たちに

「飲めるまでが井戸づくり」

と教えた。

井戸の完成を祝う村で、母親が水桶を持って立ち尽くしていた。

以前は水を汲むために夜明け前から三時間歩いていたという。

新しい井戸の水を飲んだ子供が

「今日は学校に行ける」

と笑った。

リーナは井戸の数より、その一言を記録に残した。

水質検査では、透明な水が必ずしも安全ではないことを説明する必要があった。

村の子供たちは色のついた試薬を見て驚いた。

ミリナは『見た目がきれいでも、検査は必要』と書いた板を井戸の横に置いた。

老人には字が小さすぎたので、絵を描き直した。

井戸の管理者に選ばれた女性は、初めて村の会議で発言した。

「交換膜が届かなければ、私が止めます」

村長は不満そうだったが、リーナは彼女を支持した。

安全を守る人には、使用を止める権限が必要だ。

女性は鍵を受け取り、毎朝の点検を欠かさなかった。

乾季の終わり、最初の井戸が一時的に水量を減らした。

村人たちは不安になったが、記録から異常を早く発見できた。

取水を抑え、貯留槽の水を使うことで乗り切った。

完成の日の歓声より、この静かな対応の方が、リーナには誇らしかった。

遠い村から届いた手紙には、短い一文があった。

『娘が水を運ばずに学校へ行けるようになりました』

リーナはその手紙を地図の隅に貼った。

井戸の数だけでは測れない成果だった。

それだけ言って泣き始めた。

老婆は生まれてからずっと、遠くの川まで水を運んできたのだ。

井戸の完成数を競うようになった工事隊には、リーナから厳しい通達が出た。

『安全確認のない井戸は完成に数えない』

工事隊長は落胆したが、ある村で細菌汚染が見つかると、その意味を理解した。

早く完成させたという報告より、飲んでも病気にならないことが重要だった。

管理者の研修では、わざと交換膜の取り付けを間違えた装置を置いた。

受講者は気づかず水を流した。

講師が水質検査の結果を見せると、全員が青ざめた。

『慣れた作業ほど確認する』

その言葉を村へ持ち帰った管理者たちは、毎朝二人で点検するようになった。

最初に水が出た村の老婆は、井戸の横に小さな花壇を作った。

水を無駄にしないよう、洗い水を集めて花へやる。

リーナが訪ねると、老婆は笑った。

「水があると、こんなことも考えられるんだね」

その花壇を見て、子供たちも学校の庭に苗を植えた。

工事は順調な場所ばかりではなかった。

硬い岩盤に阻まれた村には雨水の貯留槽を作り、地下水を使いすぎていた村では取水量を制限した。

千という数を達成するために、危険な井戸を無理に完成扱いにはしなかった。

浄化設備が動いた朝、最初の水を飲んだのは村長ではなかった。

毎日水汲みで授業を休んでいた少女だった。

検査係が安全を確かめ、母親が柄杓を渡す。

少女は一口飲むと、濡れた手で教科書を開いた。

「今日は最後まで授業に出られる」

リーナは完成した井戸の数ではなく、学校に戻れた子供の数を報告書へ書いた。

井戸ができたことで、思わぬ変化があった。

以前は水汲みのため朝から歩いていた少女たちが、学校へ通い始めたのだ。

教師は新しい机を用意し、授業の時間を調整した。

水があることは、喉の渇きを癒すだけではなかった。

しかし水の利用が増えると、井戸の周りにぬかるみができた。

子供が転び、汚れた水が井戸へ戻りそうになった。

管理者たちは排水溝と石畳を整備した。

リーナは完成報告に一文を追加した。

『使い続けて初めて分かる問題を、必ず次の点検に反映すること』

夕暮れ、老婆が花壇へ水をやると、学校帰りの子供たちが手伝った。

井戸の水は、村の暮らしの真ん中を流れ始めていた。

年の終わり、地図の赤い印は半分以下になった。

リーナはまだ残る印を指した。

「完成した井戸より、これから水を届ける村を数えましょう」

ミリナはその地図の端に、小さな青い水滴を描き始めた。

井戸の管理者たちは、月に一度、隣村と点検記録を交換することにした。

自分の村では当たり前になった異常を、他の村の目なら見つけられる。

ある管理者が濁りの変化を指摘すると、上流の工事現場から土が流れ込んでいたことが判明した。

工事を止めて沈砂池を作り、水質は回復した。

リーナはその報告を読み、井戸は穴を掘って完成するものではなく、人が守り続けて初めて役に立つものだと改めて思った。

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